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NRI トップ NRI JOURNAL 木内登英の経済の潮流――「米国金融リスクへの適切な対応策は何か」

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木内登英の経済の潮流――「米国金融リスクへの適切な対応策は何か」

金融ITイノベーション事業本部  エグゼクティブ・エコノミスト  木内 登英

木内 登英

時事解説

2021/05/14

米国金融市場で、過熱の兆候が散見されるようになってきました。年初には、個人投資家がSNS上で結託して株価を押し上げるゲームストップ問題が注目されました。その後も、個人投資家が主導するSPAC(特別買収目的会社)の株価高騰、仮想通貨(暗号資産)ビットコインの価格急騰、デジタル資産のNFT(非代替性トークン)ブームなどが続きました。また3月には、ファミリーオフィス(資産家一族の資産運用を目的に設立された組織)の巨額損失問題も起きています。

ノンバンク(シャドーバンキング)と高リスク資産にリスクが集中

FRB(米連邦準備制度理事会)も、5月6日に公表した金融安定性報告(FSR)の中で、資産価格の割高、過熱のリスクに警鐘を鳴らしています。例えば、ハイイールド債やBBB格社債と財務省証券との間の金利スプレッドは、リーマンショック前の水準に並ぶ、歴史的低水準にあります。また、S&P500株価指数のPER(株価収益率)は足もとで23倍程度と、2000年以来の高い水準にあります。
一方、投資銀行が顧客のヘッジファンドに対して貸株や与信などのサービスを提供するプライム・ブローカレッジ業務の中で、株式投資に関わるヘッジファンドのレバレッジ(負債)比率がかなり高くなっていることを、FRBは指摘しています。これは、ヘッジファドに近いファミリーオフィス、アルケゴス・キャピタルによる先般の巨額損失問題が、個別の問題にとどまらず、業界全体のリスクを露呈したものであった可能性を示唆しているのではないかと思います。
こうしたヘッジファドやファミリーオフィスを含む非銀行金融機関、いわゆるノンバンク(シャドーバンキング)が抱える金融リスクに、FRBそして世界の金融当局は警戒を強めてきています。
他方、金融商品については、価格高騰が続くハイイールド債、BBB格社債、CLO(ローン担保証券)、ABCP(資産担保コマーシャル・ペーパー)などの価格行き過ぎのリスクも注目されます。こうした高リスク資産を多く保有しているのが、ヘッジファンド、投資信託、ETF(上場投資信託)、プライムMMF(マネー・マーケット・ファンド)、生命保険などのノンバンクなのです。
こうしたもとで、高リスク資産の価格下落はノンバンクに大きな損失をもたらし、また、そうした資産の換金売りを誘発します。それが高リスク資産価格のさらなる低下とノンバンクの損失拡大を相乗的に生じさせるのです。このような悪循環が生じる潜在的なリスクこそが、現在、米国および世界の金融リスクの中核にあるのではないかと思います。

金融規制強化はイタチごっこの様相に

このようなリスクを軽減するため、ノンバンクに対する規制強化の動きは、この先、世界的に強まる方向にあります。その議論を主導するのが、主要25か国・地域の中央銀行、その他の金融当局や国際機関の代表者からなるFSB(金融安定理事会)です。
ところで、金融システム安定維持のために講じられる金融規制は、一般に、イタチごっこのような状況に陥りやすい点に注意が必要でしょう。金融リスクの軽減を狙って金融当局がある分野の金融機関への規制を強化すると、リスクの高い投資を行なう投資家やリスクマネーは新たな規制を逃れるために、他の分野の金融機関へと転じて行くのです。
リーマンショックは、欧米の銀行の経営を大きく揺るがしました。そこで、将来の銀行危機を回避するために、規制当局は銀行のソルベンシー(債務返済能力)リスクの低下、流動性リスクの低下を狙って、自己資本規制や流動性規制などを強化していったのです。こうした国際的な銀行規制の強化を受けて、大手銀行はリスクの高い金融資産の保有を減らすと共に、バランスシート抑制のためにマーケットメイク機能も低下させていきました。
大手銀行に代わって、ハイイールド債、証券化商品など高リスク資産の保有を拡大したのが、既に述べたノンバンクなのです。規制の影響で、金融リスクは銀行からシャドーバンキングへと移っていきました。
コロナショックを受けて、昨年春に金融市場は動揺し、ハイイールド債、証券化商品など高リスク資産の価格も一時は大きく下落しました。この際に、市場の大きな調整をもたらしたのは、ノンバンクによる換金売りなどの資産売却だったのではないか、との見方が広がり、ノンバンク規制の機運が改めて高まってきたのです。

規制逃れでヘッジファンドからファミリーオフィスへ

ノンバンクへの強い規制の導入はまだ本格的には進んでいませんが、部分的には実施されています。例えば、欧米ではリーマンショック後に、投資家保護のためにヘッジファンドの規制が強化されました。米国では金融規制改革法(ドッド・フランク法)でSEC(米証券取引委員会)への登録がヘッジファンドに義務付けられました。SECに登録したヘッジファンドは運用記録を保存する義務があり、定期的に報告することも求められます。他方、顧客に対する説明責任を負うこともあり、無制限にリスクはとれなくなったのです。
そこで、こうした規制や様々な制約から逃れるため、ヘッジファンドから組織形態を変える動きが出てきました。ジョージ・ソロスなど富豪の大物投資家らは、ヘッジファンドを閉鎖し、ファミリーオフィスを挙って創設したのです。
中世ヨーロッパの王族の財産管理に始まるファミリーオフィスは、かつては安全志向で長期投資の傾向が強かったのです。それが現在では、少なくとも一部は極めてリスクの高い投資を行なう組織へと変貌しています。
巨額損失問題を受けて米国の金融当局は、ファミリーオフィスへの情報開示義務を強化するなどの新たな規制を検討し始めています。ただし、仮にファミリーオフィスへの規制強化を進めれば、高いリスクの投資行動を好む投資家やリスクマネーは、規制を逃れてまた別の形態の組織に移っていく、いわゆる規制アービトラージが生じるでしょう。そのため、規制強化は根本的な問題解決とはならない可能性があるのです。

過剰な金融緩和状態の解消が金融リスクの軽減に必要

金融システムの安定を維持するには、規制強化のみに頼るのではなく、過剰なリスクをとった投資行動が生まれないような金融環境を作り出す、適切なマクロ金融政策運営も重要です。
コロナショックを受けて、FRBは異例の金融緩和を実施しました。これが、金融市場の安定回復を助けたことは確かです。しかし、コロナショック以前に既に過熱していた市場の健全な調整の機会を、この措置が奪ってしまったという側面もあるでしょう。様々な指標は、足元の資産価格の割高感、過熱感がコロナショック前よりもむしろ高まっていることを示しています。これは、コロナ対応としての金融緩和策が、結果として行き過ぎた可能性を示唆しているのではないでしょうか。
金融安定性報告で金融リスクに警鐘を鳴らしたFRBは、それへの対応策として、金融政策の修正ではなく、規制強化やマクロプルーデンス政策手段の利用を示唆しています。しかし実際には、潜在的に既に膨れ上がった金融リスクを軽減するには、金融機関へのストレステスト(頑健性テスト)などのミクロプルーデンス政策、マクロプルーデンス政策、そしてイタチごっこに陥りやすい規制強化では十分ではないでしょう。
金融リスクを軽減し、将来の大きな金融混乱を回避するために、FRBはコロナショックへの対応で行き過ぎた感がある金融緩和の緩やかな正常化を、今、真剣に検討し始めるべきではないかと考えます。

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プロフィール

木内登英

エグゼクティブ・エコノミスト

木内 登英

経歴

1987年 野村総合研究所に入社
経済研究部・日本経済調査室に配属され、以降、エコノミストとして職歴を重ねる。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の政策委員会審議委員に就任。5年の任期の後、2017年より現職。
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株式会社野村総合研究所
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E-mail: kouhou@nri.co.jp

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