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NRI トップ NRI JOURNAL 閉塞する日本の物流にDXで突破口を開け

NRI JOURNAL

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クラウドの潮流――進化するクラウド・サービスと変化する企業の意識

閉塞する日本の物流にDXで突破口を開け

システムコンサルティング事業本部 グループマネージャー 土屋 明義、武居 輝好、井関 夏帆

#DX

#サステナビリティ

#IoT

#ビッグデータ

#運輸・物流・倉庫

#価値共創

2021/08/30

コロナ禍をきっかけに電子商取引(EC)や宅配サービスの利用が増え、物流業界全般でも需要が急増中です。しかし同時に、細かな数量調整や時間指定、急な計画変更など要求が高度化、複雑化し、対応に追われる現場は疲弊しています。円滑な経済活動に不可欠なインフラ産業ともいえる業界の危機的現状と、今なぜ物流のデジタルトランスフォーメーション(DX)が急務であるのか、物流企業を支援している野村総合研究所(NRI)システムコンサルティング事業本部の土屋明義、武居輝好、井関夏帆に聞きました。

多様なプレーヤーで構成された複雑な業界構造

――物流業界のDXの現状について教えてください。

武居:メディアでは、大手EC事業者や物流事業者が倉庫ロボット、自動仕分け機、AIでの輸送ルートの最適化など最先端のテクノロジーを活用している様子がよく報じられますが、それはごく一部の話にすぎません。新興企業や新設の倉庫の場合、新しいテクノロジーを導入しやすいのですが、業界大手でさえ既存拠点の改革には難航しています。ましてや、業界全体の99%以上を占める中小企業の多くはデジタル化から取り残されています。

井関:物流現場では依然として紙伝票や電話、ファクシミリなどが多用され、いまだアナログな運用が中心の現場もあります。中小企業は荷物が増えて倉庫スペースが足りなくなると他社に再委託します。下請けが多重化していくと、自分たちの管轄できない業務の範囲が広がり、そこにメスを入れることが難しくなります。

土屋:自社だけでモノを生産から配送まで完結すれば情報管理もしやすいのですが、物流業界ではバトンパスのようにモノが流れ、フローの各所に複数の下請け企業が関わります。取引相手も複数にのぼり、それぞれが異なるシステムを使い、業界全体で共通化されていません。物流企業がデジタル化したくても、力関係は荷主企業の方が強いため、荷主側の流通フォーマットに沿って情報処理しなければならないため、荷物に情報をつけたり、データ様式を揃えたりすることさえ自由にできないのです。

実態を見える化し、点から面へと展開する

――構造的な要因により、デジタル化が進まないわけですね。

武居:ほかにも理由があります。そもそも物流の現場はITがなくても業務が回ります。人が荷物というリアルな存在に対して、いつどこに取りに行き、どこまで運ぶのかがわかれば、後は実行可能です。ベテランのドライバーは勘と経験で道の混み具合や近道を熟知しているので、ルート最適化ソフトなどIT導入の必要性を感じづらい場合もあります。しかも最近は、過酷な労働条件を嫌って若手が増えず、高齢化が加速しています。高齢の方はスマートフォンに慣れていないなど、ITリテラシーの問題もあります。

――その中で、DXをどう進めればよいでしょうか。

武居:いきなりAIなど高度なテクノロジーを入れて最適化や自動化を実現させようとする企業が多いのですが、それではうまくいきません。まずは現場の動き、物事の様子をデジタル化し、データとして扱える状態とするところから始めます。例えば、入荷、保管、ピッキング、梱包、出荷など各工程の作業状況を収集しデータ化、これらのデータの見える化から始めるなど、地道な作業が第一歩となります。

次に、現場で取得したデータで可視化するだけでは点にすぎないので、情報を面として捉えることが大切です。つまり、一部の拠点や業務にとどめず、エンドツーエンドでモノの流れ全体を把握できるようにします。取得したデータを統合的に見られるポータル画面を用意して、全体の動きを見える化したことで、受注から出荷までの時間が大幅に短縮された事例もあります。
このように、最終的に実現したいことを見据えつつも、足元をしっかりと固めながら、少しずつできることを広げていくことが重要です。

井関:新しいソフトウエアやデバイスを提供して、物流業界の課題解決に貢献しようとするプレーヤーは多いのですが、一部の現場だけの改善など部分的な視点に偏りがちです。私たちが支援する際には、大きな目的に沿って課題を整理しつつ、中立的立場を活かして、柔軟に最適なソリューションを考えていくようにしています。

モノを運ぶのは「人」だからこそ、現場に配慮して味方につける

――物流DXの成功の鍵は何でしょうか。

武居:一番の鍵は現場の人々の信頼を得て、協力を得ること。現場にとってはモノを運ぶ、保管する、荷役するなどが本業です。例えば、先ほどのデータ化の例ですと、ただでさえ忙しいのに、機械を操作して情報を入力させるのは現場にとってさらなる負担を強いることになりかねませんし、強制すれば反発も出てきます。センサーによりデータ取得を自動化することや、どうしても人手での作業が必要な場合、極力入力負担を減らすなど、技術的な支援が欠かせません。それから、現場にはアナログな業務で培った工夫や改善がたくさんあり、それをすべて無視してトップダウンで進めることには無理があります。報告書を作成しなくてもいい、長時間労働がなくなるなど、現場の人々に早い段階でデジタル化のメリットを感じてもらう。現場を大事にすることが物流DXの肝です。

土屋:物流DXの本質は、現場をデジタル化し物流全体の変化にリアルタイムかつダイナミックに対応することだと考えます。デジタルの力を使って、見えない実態を視覚化したり、最適化したりするといったことを目標に掲げ取り組んでいくことはとても重要ですが、それにより直接メリットを感じるのは、ピラミッド構造の上位にある企業やマネジメント層となります。物流を支える裾野部分の現場の人々が楽になったと実感できる要素もセットで入れることが重要です。今、欧米を中心に「フィジカルインターネット」という、企業や業種の壁を越えて倉庫や輸送力など物流資源をシェアリングし、稼働率向上と持続可能性追求を狙った次世代物流システムを構築するための研究が進んでいます。物流企業側だけではなく、荷主企業をも巻き込んだオペレーション革新で物流問題を解決しようとするものです。

NRIとしても、単純にロボットや機械学習のツールを入れるだけのDXではなく、本来目指している高度なデジタル活用と現場の目線を両立させながら、我々の知見や経験を活かした業界全体の課題解決に貢献していきたいと思います。

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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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