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NRI トップ NRI JOURNAL 鉄道の旅の新しいスタイル「どこかにビューーン!」――カスタマーエクスペリエンス(CX)変革の成功の決め手

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鉄道の旅の新しいスタイル「どこかにビューーン!」――カスタマーエクスペリエンス(CX)変革の成功の決め手

CXコンサルティング部 守岡 太郎
産業ビジネスディベロップメント部 山本 真吾
NRIデジタル 新井 朗

#価値共創

#CX

#DX

2023/05/31

JR東日本が2022年12月に開始した「どこかにビューーン!」。ランダムに表示された4つの候補駅のうちの「どこか」一つへ、JRE POINTを使って新幹線で旅行していただくサービスです。未知の行き先へのワクワク感が魅力となって、大きな人気を集めています。このサービスは、JR東日本、NRIデジタル、野村総合研究所(NRI)の共同事業として生まれました。関わったメンバーは皆、強い想いを抱いてプロジェクトに取り組み、コロナ禍を乗り越えてサービスインを実現しました。その鍵は、サービスの体験価値を上げるNRIグループ ならではの取り組み方と、このサービスの持つ社会的意義の実現へのこだわりにありました。

行き先お任せのワクワク「新幹線ガチャ」

「どこかにビューーン!」を利用するには、専用公式サイトにアクセスして、発着駅、行きの出発日と出発時間帯、帰りの到着日と到着時間帯、人数を入力して検索します。すると、JR東日本の新幹線(東北・秋田・山形・上越・北陸)駅から、入力内容に合う行き先候補駅が4つ表示されます。そこで、JRE POINT6,000ポイントを使って申し込むと、3日以内に行き先がその4つのうちの1つに決定されます。一緒に申し込みをした家族や友人などとは必ず並び席になります。

通常なら新幹線の料金が往復1~3.6万円かかるエリアに6,000ポイントで旅行できるお得感に加え、行き先お任せのワクワク感が大きな魅力となっています。サービス開始から利用者は増え続け、今では「JR東日本の新幹線ランダムトリップ」として人気を集めています。

JRE POINTの魅力アップのために

このサービスの発端は、JR東日本が抱えていた経営課題にありました。公共輸送インフラを担う鉄道会社として、顧客に公平で同質なサービスを提供してきたJR東日本。しかし今後の成長に向けて、「ヒトを起点とした価値・サービスの創造」へと戦略転換を図っており、その施策としてJRE POINTを活用したサービスを模索していました。

2018年末、JR東日本からの要請を受けてNRIの山本真吾が、DX企画人材として出向します。JRE POINTの魅力向上を検討するなかで、山本は「どこかにビューーン!」の素案を提案し、2020年から実現に向けて両社で共同研究が始まりました。コロナ禍においても計画は途切れず、2022年12月に共同事業として「どこかにビューーン!」のサービス提供が始まりました。

構想から、およそ4年を費やしたプロジェクト。成功につながった要因を、NRIグループならではの取り組みという観点から見ていきます。

当初から共有された経営課題と社会的な意義

本プロジェクトを進める上では、さまざまな困難がありました。関係各所の理解や協力、150年をかけて積み重ねられた複雑な鉄道のシステム が持つ制約、そしてコロナ禍……。こうした問題を乗り越えられたのは、すべての関係者が共通認識を持ち続けられた結果です。
出向した山本はJR東日本の一員としてサービスを検討し、関係各所のキーマンへの丁寧な説明を通じて理解と協力を得られたおかげで、本サービスプロジェクトの立ち上げが実現できたと言います。
「サービスを実現するには、例えばチケット予約システム一つとっても、JR東日本の関連部署それぞれで込み入った対応を行う必要があります。このサービスの意義を各部署に説明する事前調整が、プロジェクトを円滑に進める上で重要でした」

プロジェクトを統括したNRIデジタルの新井朗も、経営戦略上のJRE POINT活用の重要性が関係者に共有されていたこと、共同研究によって、一層理解が深まったことを振り返ります。

そして、「全員が大義のもとに集まっていた」ことが大きな原動力になったと新井は言います。
「『どこかにビューーン!』で地域活性化に貢献する、という想いがプロジェクトメンバーにはありました。有名な観光地は別にして、例えば、東北各地を多くの人が訪れているかというと、そうではない。ランダムな場所に人を送る『どこかにビューーン!』なら、人がその地域に関心を抱くきっかけをつくります。都市部から地方への観光流動を促すことは、JR東日本という会社の発展に重要であり、地域の活性化にもつながります。こうした社会的な使命感を全員が抱いていたことが、さまざまな困難を乗り越える力になったと思っています」

体験価値を高めるこだわり

利用者の「体験価値を高める」ことにこだわった点も大きな特徴です。世の中に普及するポイント活用サービスの多くは、在庫一掃を目的とした大幅値引きによる集客など、企業都合が前面に表れています。しかし「どこかにビューーン!」では、利用者にとっての楽しさを徹底して追求しました。4択によってワクワク感を促す旅の仕掛けは、その最たるもの。また、サービス細部にもこだわりが見られます。プロダクトマネージャーを務めたNRIの守岡太郎が例を挙げます。
「電車に乗る人にとっては、車中も楽しい時間です。友達と話したり、駅弁を食べたり、車窓からの景色を楽しんだり……。ですから新幹線の中を楽しく、をテーマにサービス設計しました。例えば、家族・友人との旅行を想定し、必ず並び席が取れるようにしています。システムの設計としては難しいのですが、この点は妥協しませんでした」

AI活用による空席予測

「どこかにビューーン!」の裏では、事前に利用者数を予測し、新幹線の予約枠を確保する仕組みが動いています。利用者に示す候補駅を抽出する上で、肝となるシステムです。コンサルタントでありながら、テクニカルエンジニアの経歴も持つ守岡は説明します。
「『どこかにビューーン!』の予約枠を確保しすぎると正規料金の枠が圧迫され、JR東日本には機会損失が生じてしまう。逆に予約枠が少なければ、4択候補地のバリエーションが乏しくなってしまう。この絶妙なバランスをとる予測システムも、私たちが構築しました」
曜日・時間帯・路線などによって混雑状況が変わる、途中下車が可能という新幹線の特性もあって、予測要素は複雑に入り組んでいました。コロナ禍で過去のデータが参考にならない中、AIを活用してデータを分析し、精度の高い予測を実現しています。
「データと実績に基づいて、利用者に価値ある体験を提供する。NRIグループならではのやり方だと思っています」と、守岡は自信を持って語ります。
サービス開始以降も、利用実績のデータを活用して、ブラッシュアップを続けています。

成功の決め手は、NRIグループならではのCX

NRIグループ がロイヤリティマーケティングの戦略から関わり、サービスをデザインしてシステムをつくり、データ活用による分析まで、JR東日本と一体となって取り組んできたこともこのプロジェクトの大きな特徴です。「広告などのコミュニケーションにも携わり、『どこかにビューーン!』という名前やロゴデザインも提案した」と新井。
「顧客企業の課題やミッションを把握したメンバーが、最初から最後まで関わった。だから、サービス内容、システム、プロモーション、顧客企業とのコミュニケーションに至るまで齟齬が生じることなく、課題の解決につながる、最終顧客の体験価値を高めるサービスを生み出せた。これが今後求められるCX(カスタマー・エクスペリエンス)のあり方ですし、私たちNRIグループ だからこそできることだと思っています」

「関係人口」の創出による地域活性化

JR東日本グループは鉄道だけでなく、駅ビル、ホテル、EC、レンタカーなどさまざまな事業を展開しています。今後は、これら事業をつないで利用者の満足度をより高めていくために、「どこかにビューーン!」を活用して新たなサービスを拡大したいと考えています。山本は付け加えます。
「JR東日本の他事業との連携を通じたCX向上に加えて、旅先となる地域の魅力をアピールしたい。例えば、郡山駅の近くの酒蔵では、古くから地酒ならぬ地ウイスキーの製造も続けています。ここではVRを使った紹介を取り入れてみました。このように、知られざる地域の魅力をさまざまな方法で広めて、地域の活性化に寄与していきたい」

NRIでは2016年に、ランダムトリップの先駆けとなるサービス「どこかにマイル」を日本航空(JAL)と共同で立ち上げました。そして今回の「どこかにビューーン!」。二つのプロジェクトに深く関わってきた新井は「地域と出逢う、新しい旅のスタイルを確立した」と言います。
移住者でも旅行者でもない、地域と多様に関わる「関係人口」と呼ばれる人たちが地域活性化の担い手になるとして、総務省は目下「関係人口の創出」を進めています。NRIグループでは、かねてから地域と継続的に関わる人たちの創出に注目してきました。今後もこのテーマに取り組み、新たなビジネスの創造を通じて、社会課題の解決を図って参ります。

世界経済フォーラムのWebサイトに「Random Trips」として掲載

日本における鉄道会社や航空会社で提供しているランダムに選択された目的地への旅行について、「世界経済フォーラム」のサイトで掲載されました。2016年12月から始めた日本航空のrandom trips(どこかにマイル)が流行のきっかけであることや、JR東日本の「どこかにビューーン!」が開始したことも言及され、旅行と観光の新しい可能性が拓かれたことが紹介されています。

(英語サイト)What is the 'random trip' craze and why is it so big in Japan?

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株式会社野村総合研究所
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E-mail: kouhou@nri.co.jp

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