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NRI トップ NRI JOURNAL デジタル時代の新指標の提案――生活者の見えない実態を計り、幸福度を見える化

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デジタル時代の新指標の提案――生活者の見えない実態を計り、幸福度を見える化

デジタル社会研究室 室長 森 健
生活DX・データ研究室 室長 塩崎 潤一

#DX

#AI

#データアナリティクス

2023/06/27

GDPという指標によって国の経済活動状況をはかるニュースに私たちは一喜一憂しがちです。しかし、GDPの低下が国民の幸福度の低下を意味するとは一概に言えません。デジタル時代の新指標として「GDPプラスアイ(GDP+i)※1」を考案した野村総合研究所(NRI)のデジタル社会研究室 室長 森健と「空気感指数※2」を開発した生活DX・データ研究室 室長 塩崎潤一に、新指標を生み出した経緯や、そこから読み取れる社会の実態について聞きました。

※1 2021年商標登録、※2 商標登録出願中

GDPに表れないコロナ禍中の幸せ実感

世の中は無料で利用できるデジタル・サービスであふれています。それを有料化すると仮定して消費者に支払意思額を尋ね、そこから市場規模を推計すると、SNS(ソーシャルネットワークサービス)だけでも年間20兆円相当になるという調査結果があります。デジタル化の進展によって、金銭化された価値を計るGDPでは捉えきれない価値が増えているのです。SNSに代表されるような無料のデジタル・サービスの価値を補足しようと考えたことが、GDPでは捕捉されない主観的価値(消費者余剰)を加味した新指標、GDPプラスアイの開発につながったと、森は説明します。

「最初は、GDPに消費者余剰を単純に足して棒グラフで表したのですが、それでは数字が大きければ良いという発想にしかなりません。国や人々が最も良いと思う状態は無数に考えられます。そのときに思い出したのが、人類学者の梅棹忠夫氏が著書で、「工業は実数的だが、情報産業は虚数(i)的な存在だ」と述べていたことです。これをヒントに複素数(a+bi)のような考え方で、横軸に実数(GDP)、縦軸にデジタルがもたらす消費者余剰をとって、社会や経済を面で表すことにしました」

この新発想の指標を用いると、GDPから受ける印象とは異なる社会の一面が見えてきます。例えば、2020年度の日本のGDPは対前年度比で大幅に減少しましたが、消費者余剰はむしろ増加。「コロナ禍で不便な生活を強いられる中で、初めてデジタルのアプリを使ってみて、利便性を実感した人が多かったのでしょう」と、森は推測します。実際に、NRIの『生活者1万人アンケート』(直近、2021年8月実施)の結果でも、驚くべきことに生活満足度が2018年の前回実施よりも高まっていました。

野球とサッカーでは盛り上がり度が違う!?

一方、世の中でよく使われる「空気感」という言葉に着目して、ミクロ的に社会を捉えようと試みたのが塩崎です。「生活者や社会がどのような感情的な状況にあるかを数字化して捉えれば、マーケティングや戦略立案に役立ちそうだと考えました。通常のアンケート調査では企画して結果が出るまでに1カ月程かかりますが、デジタル時代の現在は社会的にインパクトがある出来事があれば、SNSでの投稿がすぐに増えます。そこでSNSへの書き込み情報を分析し、7つの指標(活気、混乱、落込み、怒り、不安、疲れ、平穏)で空気感を表すことにしました。この指標を用いれば、生活者の今の状況を捉えて明日の打ち手を考えられます」

このように即時性を重視した指標ですが、長期トレンドで変化を追いかけても示唆が得られます。例えば2022年度は、地政学的問題、社会的事件、自然災害によって「不安」指標が跳ね上がりました。また、下降傾向にあった「活気」指標はWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で大きく上昇。その少し前に開催されたサッカーワールドカップでも国民は盛り上がりましたが、ファン人口の規模や成績など諸要因によって活気状況に違いがあったことが正確につかめます。「今後は、活気指数が1%上がると、GDPプラスアイにどう影響するかなど、ミクロとマクロの要素をつなげて読み解けるようにしたいと考えています」と、塩崎は抱負を語ります。

指標化すれば、データを使ってマネジメントできる

「GDPなど世の中で重視されてきた指標は有益ですが、今の時代を捉えるうえで欠点もあります。既成概念を鵜呑みにせず、批判的に考え、自由な発想で今の時代や自社に最も適した指標や測り方を考えていく姿勢が大切です。そうした風穴を開ける1つの試みがGDPプラスアイであり、統計の専門家からは出てこないアイデアをぶつけてみました」と、森は言います。「リアルとサイバーを掛け合わせて、複素数的に面で捉える方向性には手応えを感じていますが、まだ全体を捉えきれていませんし、縦軸にはいろいろな選択肢が考えられます。今後は縦軸の内容を深めるとともに、デジタルデバイド(情報格差)の可視化にも挑みたいと思います」

「空気感指数もGDPプラスアイも最終的な答えではなく、1つの側面を表しただけにすぎません。私たちが今回目指したのは、社会や生活者の実像に迫ることです」と、塩崎も強調します。「重要なのは、指標化することでマネジメントが可能になること。現状が50%であれば、60%にしようと、次のアクションにつながります。そのために、多角的な視点でこれまで測れなかったものを捉えられるようにするのが私たちNRI未来創発センターの役割です。そのデータがより良い企業経営、より良い政府の施策、さらには、世の中を良くすることにつながると信じています」

#対談者プロフィール

塩崎潤一(しおざき・じゅんいち) 未来創発センター 生活DX・データ研究室 室長
1990年にNRI入社。マーケティング、生活者の価値観、数理分析などを専門にコンサルティングを担当。「NRI生活者1万人アンケート調査」に関わり、日本人の消費行動や生活スタイルを見続けてきた。2021年にデータサイエンスラボ長に就任。シンクタンクとは提示された課題を解決するのではなく問題を提起するものととらえ、定量的なデータの提示、時代に合った情報発信、個人に対する生き方の提案などを重視している。

森健(もり・たけし) 未来創発センター デジタル社会研究室 室長
1995年にNRI入社。専門はデジタルエコノミー、グローバル事業環境分析。2012年から野村マネジメント・スクールにて経営戦略講座のプログラム・ディレクターを務める。2017年より「NRI未来創発フォーラム」の企画者として、NRIとしての未来像の発信を続けている。シンクタンクは社会を導く羅針盤、また日本のシンクタンクは世界に向けた情報発信をすべきと考える。

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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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