フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ NRI JOURNAL アフターコロナで変わる生活、解消されない孤独

NRI JOURNAL

未来へのヒントが見つかるイノベーションマガジン

クラウドの潮流――進化するクラウド・サービスと変化する企業の意識

アフターコロナで変わる生活、解消されない孤独

社会システムコンサルティング部 坂田 彩衣、橘 和香子、平本 涼

#新型コロナ

2023/12/22

コロナ禍の行動制限が緩和され、私たちの生活は元に戻りつつあります。それに伴い孤独・孤立を感じる人の割合も減少したものの、問題がなくなったわけではありません。アフターコロナと呼ばれる2023年、若者を中心に前年よりも孤独を感じる人の割合が減少した一方で、中高年では孤独を感じる人の割合が増加しました。

こうした背景のもと、2021年に孤独・孤立対策担当大臣が誕生して以降、注目を集めてきた孤独・孤立の問題が、再び社会課題としてクローズアップされています。野村総合研究所(NRI)では、20代~60代以上の男女約2,200名を対象に、2021年から3カ年継続してインターネットアンケート調査を実施し、孤独を感じている人の属性や考えられる要因・解決策などの分析を行ってきました。この記事では若者(20~30代)と中高年(40~50代)に分けて考察を深めます。コロナ禍を経て、いまだ残っている孤独感の要因は何なのか。解決に向けた打ち手はあるのか。本テーマに詳しい、社会システムコンサルティング部の坂田 彩衣、橘 和香子、平本 涼に詳細を聞きました。

コロナ後も続く孤独感

アフターコロナ期に入ってもなお、約4割の人が孤独感を抱えています。孤独の深刻度別でみると、深刻な孤独を感じている層では、半数以上がコロナ前よりもいっそう孤独を感じるようになりました。コロナ禍の行動制限が緩和された今も、私たちそれぞれが抱える孤独感はまだまだ看過できない問題です。

孤独感は様々な出来事や事象が積み重なって感じるもの、かつ誰にでも起こりえるものであるため、その要因を追及することは難しいですが、コロナ禍における孤独感を形成する要素の一つとして、人間関係の希薄化が考えられます。コロナ禍において感染の懸念から家族や親族、友人・知人などと会う機会が減った人は多いでしょう。こうした機会損失が人間関係を疎遠にし、孤独感の要因となっている可能性があります。実際に「コロナ禍が要因となって疎遠になった人がいる」と答えた人は、約半数の47%にのぼりました。疎遠になった人間関係がある人ほど孤独を感じやすいことは、言うまでもありません。

一方でコロナ禍に関係なく、過去に経験した重大なトラブルも、孤独感に影響を与えている可能性があります。いじめや不登校、失業、ハラスメント、DV、家庭内別居など、重大なトラブルを経験している人は、そうでない人よりも孤独を感じやすいことがわかりました。深い心の傷を抱えている人は、特に注意が必要です。

孤独を感じたときの相談先として、世の中には、相談員・カウンセラーによる相談支援サービスが多数存在します。しかし、深刻な孤独を感じる人ほど、こうした相談窓口を利用したいと回答する割合が高いにもかかわらず、約半数が相談支援サービスの存在を知らない状態であることがわかりました。積極的な広報に加え、対象者がいる場所にこちらから出向く、アウトリーチ型の支援体制の構築が求められます。

他人と比較しがちな若者世代、本音は「誰かに気にかけられたい」

若者について考察すると、改善の兆しがみえつつも、依然として孤独感を抱える傾向がみえました。コロナ後、若い世代を中心に旅行などの外出や趣味、コミュニケーションの機会が増えている傾向がみられますが、20~30代の約半数が日常的に孤独を感じています。これは1年前のコロナ禍の際に実施した調査結果とそれほど変わらない割合で、生活が元に戻っても孤独感が拭い去られない実態が浮き彫りになりました。

若者世代の特徴として、「自分と他人を比較することが多い」「人の役に立っていると感じることが少ない」といった傾向がみられました。さらに、そういった傾向がある人ほど、孤独を感じやすいこともわかりました。孤独を感じたとき誰かに相談できていない若者も多く、中でも相談支援サービスの利用には高いハードルがあるようです。また、相談することによって孤独感が改善されるとは思えず、そもそも相談したくないと考えている人もいました。その一方で、「気にかけられる」ことを27%の若者が、「他愛のない話をする」ことを45%の若者が希望しており、相談やアドバイスよりも「気にかけられたい」、「話しかけられたい」と、本音ではそう考えているのかもしれません。

若者が求めているのは、相談の一歩手前の気軽なコミュニケーションです。そのためには自然発生的なコミュニケーションが望ましいですが、コロナ禍を経て在宅勤務・学習が増えた今、それを待っているだけでは十分とは言えません。一部の企業においては若い世代の発案に基づき、コミュニケーションを活性化させる取り組みが行われています。企業や学校、地域において、意識的かつ定期的なコミュニケーションの機会を生み出していくことが必要です。

人目を気にして相談できない中高年、既婚者や会社員も孤独

中高年について考察しますと、過去3カ年の調査を通じて孤独を感じる人の割合が、2021年と2023年で比較した際、40代男女・50代男女すべてで増加している傾向がみえました。収入が減少したり、知人・家族と疎遠になったりというコロナ禍の影響が、いまだ色濃く残っています。コロナ禍で自粛した通勤・通学、旅行、趣味の活動が若い世代より再開されにくく、「周囲に置いて行かれている」という感覚を持っている人もいるようです。

着目すべきは、家庭内に相談相手となる人がいるはずの既婚者や、社会的に孤立していないはずの会社員も孤独を感じている点です。職業別にみても傾向に大きな隔たりはなく、誰もが孤独感を抱いていると言えます。日常において「人の役に立っている」と感じられない人が孤独を感じやすいのは若者世代と同様ですが、中高年の正社員や専業主婦でさえも「人の役に立っている」という実感がない人も多く、この問題の根深さを感じさせます。

相談へのハードルが高いのも、この世代の特徴です。相談できている人が少ないうえ、そもそも相談したくないという人も多いことがわかりました。相談したくない理由として、相談が必要ないという理由以外にも、相談しても変わらないという諦めや、孤独を知られたくないという羞恥心、人に迷惑をかけたくないという遠慮などがあげられます。相談を拒む人に相談の機会が不要なわけでなく、相談することができていない状況があります。他愛のない話をする機会が必要なのは、この世代でも変わりません。

日常の中で他愛のない会話を生み出すために有効なのが、企業での取り組みです。すでに昼食を一緒に食べるなどの企画を行う企業も存在します。また、北九州市の「いのちをつなぐネットワーク」は、地域や企業に勤める人も参加して地域の孤独・孤立を防ぐ取り組みですが、企業に勤める人も支援に携わることで、「人の役に立っている」という実感を得て、自身の孤独・孤立対策となるという副次的な効果も期待されます。

コロナ禍で激変した生活が元に戻りつつある今、私たちの孤独感も緩和され始めています。しかし、依然として多くの人が孤独感を抱えており、孤独・孤立の問題が解消したわけではありません。さまざまな視点からアプローチを試み、各世代の孤独感を適切にケアしていくことが重要です。

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn
NRIジャーナルの更新情報はFacebookページでもお知らせしています

お問い合わせ

株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

NRI JOURNAL新着