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リスクマネー供給促進へ向けた金融審WG報告

2013/12/20

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2013年12月20日、金融審議会の「新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方等に関するワーキング・グループ」(以下「WG」という)の報告が取りまとめられた。報告本文は、金融庁のホームページから入手できるはずだが、その概要を紹介したい。

まず、WGは、ベンチャー企業などが、インターネット上で不特定多数の者から小口の資金を集める、いわゆるクラウドファンディングを株式などの有価証券の発行という形で行うことを可能にすることを提案した。これは、米国では2012年4月に成立したジョブズ法(JOBS Act: Jumpstart Our Business Startups Act)で解禁されることとなったもので、2013年10月には、制度の詳細を定める証券取引委員会(SEC)の規則案が公表されている。

WGの提案は、一人当たりの投資額や発行総額の上限を設け(例えば発行総額1億円未満かつ一人当たり投資額50万円以下)、その制限の範囲内にとどまる少額のクラウドファンディングを仲介する者については、業規制の特例を設けるというものである。すなわち、株式発行によるクラウドファンディングを仲介する者は、第一種金融商品取引業者(証券会社)の特例業者として、最低資本金5,000万円といった通常の規制を緩めて適用することになる。ただし、特例業者に対しては、発行者に対するデューディリジェンスやインターネットを通じた適切な情報提供を行う義務を課し、自主規制機関による自主規制にも適切に対応するよう求めるとしている。

WG報告が、投資型のクラウドファンディングについて一人当たりの投資額や発行総額の上限を設けるよう提言したのは、米国にならったものであり、その背景には、一般の個人投資家が勧誘対象となるクラウドファンディングで、零細な投資家が一度に多額の損失を被るといった事態を防ぐという狙いがある。他方、こうした制限が設けられると、例えば1億円の資金調達で200人の株主が生まれることになり、資金調達を行う企業にとっては、株主管理等のコスト負担が過大になるという見方もできる。

こうした点を考えれば、WGの提案通りに制度改正が行われても、直ちにクラウドファンディングが、ベンチャー企業による有力な資金調達手段となることは考えにくい。しかし、例えば、従来の寄付型や購入型、ファンド型といったクラウドファンディングで資金調達を行ってきた企業が、これまでの資金提供者等を対象に、限られた範囲で株式を発行するといった形で活用することは、十分想定できるだろう。

WGは、現在、日本証券業協会の運営するグリーンシート銘柄制度という形で行われている非上場株式の取引についての制度改革も提案している。グリーンシート銘柄制度は、もともとベンチャー企業の株式発行による資金調達を促す狙いから設けられたが、その後、東証マザーズを始めとする新興市場の上場基準が緩やかになったため、それほど多くの企業には利用されなかった。しかも、適時開示義務が課されるなど、情報開示のコスト負担は、上場企業とそれほど変わらないと指摘されている。

そこで、WGは、証券会社が銘柄ごとに管理する「投資グループ」のメンバーに投資勧誘の範囲を限定することで、非上場株式の流通性を最小限にとどめ、インサイダー取引規制の適用対象外とし、発行企業には適時開示などを求めない新たな仕組みを設けるべきだと提案した。「投資グループ」のメンバーとしては、「当該非上場企業の役員・従業員もしくはその親族、株主又は継続的な取引先のほか、当該非上場企業から財・サービスの提供を受けている(又は受けようとする)者など」が想定されるという。

この提案が実現すれば、手間のかかる適時開示には消極的だが法定情報開示を適正に行っている地方の企業などの株式を一定の範囲で流通させることが可能となるだろう。また、新たな仕組みは、クラウドファンディングで資金調達を行った企業の株式を限定的に流通させる場合等にも利用できるだろう。

また、WGは、東証マザーズを初めとする新興市場への新規上場の推進策として、上場時及び上場後の負担軽減等について提案している。すなわち、上場時の負担軽減策としては、現行では有価証券届出書に過去5事業年度分の財務諸表の記載が求められていることを改め、過去2事業年度分のみとすること、上場後の負担軽減策としては、内部統制報告書制度について、原則として、上場後3年間は内部統制報告書に係る監査義務を免除することを提案した。

内部統制報告書をめぐっては、米国では2010年のドッド・フランク法及び先述のジョブズ法で、時価総額の小さい企業については監査義務を免除する措置が講じられている。日本でも、内部統制報告書の作成や監査の負担が、IPOの障害となっていると指摘されており、WGの提案は、その軽減を図るものである。もっとも、この点については、経営者による内部統制の有効性評価や内部統制報告書の作成にかかる負担は、実務上、監査の有無によって大きく異ならないとして、負担軽減効果に懐疑的な向きもある。

今回のWGは、主としてベンチャー企業へのリスクマネー供給の拡大を意識した検討を行ったが、大企業を含む上場企業一般の増資等による資金調達を円滑化するための提案も行っている。具体的には、(1)上場企業の資金調達に係る期間の短縮、(2)届出前勧誘に該当しない行為の明確化、(3)訂正発行登録書の提出に係る見直し、である。

第一の上場企業の資金調達に係る期間の短縮は、市場において「特に周知性の高い企業」の行う一定の募集・売出しについては、金商法の定める有価証券届出書提出後7日間という待機期間を撤廃するというものである。これは、米国で2005年6月に行われたSEC規則の改正によって導入された、著名適格発行者(WKSI: well-known seasoned issuer)については、登録届出書提出前の情報発信を柔軟に認めるとともに、登録届出書提出後直ちに発行証券の売付けができるという制度にならったものである。

第二の届出前勧誘に該当しない行為の明確化は、公募増資等を行おうとする企業や引受証券会社が、市場における需要見込みを調査する「プレ・ヒアリング」を行うことが自主規制規則で制限されていたり、企業が違法な勧誘に該当することを恐れて、市場に対して適切な情報発信を行うことができない、といった問題に対処するための提案である。

第三の訂正発行登録書の提出に係る見直しは、やや技術的だが、発行登録書の効力が生じている間に、有価証券報告書や四半期報告書などの継続開示書類が提出された場合に訂正発行登録書の提出が必要とされている点について、これらの情報がEDINETで提出されていること等に鑑み、提出義務を免除するよう求めるというものである。

以上三つの制度改正や措置は、いずれも長年にわたって市場関係者等から金融・資本市場における機動的な資金調達の妨げとなっているのではないかと指摘されてきた事項を見直すものであり、リスクマネーの供給促進に資するという点では、今回のWGの諸提案の中でも大きな効果が期待できるものである。

このほか、WGは、5%以上の株式を保有することとなった場合等に提出が求められる大量保有報告制度の技術的な修正や有価証券報告書等に虚偽記載があった場合、当該有価証券報告書等の提出会社が発行する株式等を流通市場で取得した者に対して損害を賠償する無過失責任を負うとする規定(金融商品取引法21条の2)の見直しについても提案している。

後者は、現行法が規定する無過失責任を過失責任に改めるというもので、近年、課徴金制度の整備や内部統制体制構築が進み、虚偽記載といった違法行為の抑止効果が高まっていることや諸外国の立法との比較を意識した提案である。この提案は、有力な研究者や実務家によっても支持されており、妥当なものと考えられるが、他方で、単純に考えれば、虚偽記載等によって損害を被った投資家による訴訟を現在よりもやりにくくする方向のものとも受け取れる。この提案の内容に沿った法改正を進めるにあたっては、その本来の趣旨を丁寧に説明していくことが求められるだろう。

今後、以上の提案を盛り込んだWG報告が金融審議会総会に報告され、その了承を経た後、2014年春にも提案の内容を踏まえた金融商品取引法等関連法令の改正作業が行われる見通しである。

執筆者情報

  • 大崎貞和

    大崎 貞和

    未来創発センター

    未来創発センター

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