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クラウドファンディングをめぐる自主規制の方向性

2014/06/23

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2014年6月17日、日本証券業協会(以下「協会」という)は、「株式投資型クラウドファンディング及びグリーンシート銘柄制度等に代わる新たな非上場株式の取引制度のあり方について」と題する報告書(以下「報告書」という)を公表した。去る5月23日に成立した金融商品取引法(以下「金商法」という)の改正を受けて、いわゆるクラウドファンディングと非上場株式の取引制度に係る協会の自主規制ルールの内容に盛り込むべき点を取りまとめたものである。

クラウドファンディングとは、ベンチャー企業などがインターネット上で不特定多数の者から小口の資金を集める手法である。現在は、寄付や商品購入、匿名組合などのファンドといった形で行われているが、改正金商法は、株式などの有価証券発行の形でのクラウドファンディングを解禁することとした。

改正法は、有価証券発行での投資型クラウドファンディングを仲介する専門業者を第一種少額電子募集取扱業者とし、従来の第一種金融商品取引業者(証券会社)よりも参入規制や兼業規制を緩やかにすることとしている。しかし、仲介者の行為規制などの詳細は、協会の自主規制に委ねられることになっており、報告書が、その具体的内容について提言した。

報告書のクラウドファンディングをめぐる自主規制ルールに関する提案は、概ね次のような内容である。

第一に、クラウドファンディングをめぐる自主規制の枠組みについては、専門業者に対して従来の証券会社よりも緩やかな規制を課すという考え方はとらず、引受けルールなど、従来の証券会社に適用されるプライマリー(発行市場)分野の自主ルールをそのまま適用する。

第二に、クラウドファンディングの分野については、証券会社に対しても、専門業者と同様の規制を課す。例えば、証券会社が行う場合でも、インターネット上での株式発行の仲介については、「少額」(発行総額1億円未満かつ投資家一人当たり投資額50万円以下)のものに限定する。また、証券会社についても、投資家への勧誘はインターネットを通じたものに限定し、電話や対面による勧誘は認められない。ただし、顧客からの電話等による問い合わせに対して事務手続きやシステムまたは用語の説明を行ったり、顧客からのクレームへの一次対応を行ったりすることは問題なく、むしろそのための体制整備が求められる。

第三に、クラウドファンディングを仲介する証券会社や専門業者に対して、非上場株式の発行者及びその事業の実在性、事業計画の妥当性、法令遵守状況を含めた当該事業の社会性及び反社会的勢力との関係の有無について確認を行うことを義務付ける。また、クラウドファンディングに投資する投資家から「確認書」を徴求して、法定情報開示や適時開示が行われないことや取引の参考となる気配・相場が存在しないことが多いことなど、非上場株式への投資に伴うリスクの認識について確認を行うことを義務付ける。

第四に、クラウドファンディングを仲介する証券会社や専門業者に対して、決済等について確認する方法及び発行会社における株主管理体制に関する情報をウェブサイト上で開示するよう義務付ける。また、発行会社の事業内容のチェックやウェブサイトの管理等のために必要な社内ルールや組織体制の整備を義務付け、それら整備した内容を「取扱要領」にまとめた上で協会に提出するよう求める。

また、報告書は、法令の規定や従来の自主規制ルールの規定を踏まえつつ、クラウドファンディングに関する情報提供が法令及び自主規制における広告規制の対象となることや専門業者が顧客から金銭の預託を受けた場合には自己の固有資産と分別して管理することが求められることなどを指摘している。

このほか報告書は、現在、非上場株式の一般投資家への投資勧誘を禁止する協会ルールの例外とされているグリーンシート銘柄制度やフェニックス銘柄制度(上場廃止銘柄が対象)について、経過措置を設けた上で制度そのものを廃止し、代わって、証券会社が銘柄毎に管理する「投資グループ」(仮称)に加入した投資家に限定して投資勧誘を認める新たな制度を創設すべきとし、その具体的な制度設計についても提言している。

以上のような報告書の提言内容に沿った形での協会規則等の制定・改正が、今後、改正金商法の関連政令・内閣府令の整備と並行して進められることとなる。2015年4月以降、新たな制度的枠組みの下で、投資型クラウドファンディングや限定的な形での非上場株式の流通が実現することになるだろう。

クラウドファンディングについては、「少額」の制約の下では1億円弱の資金調達で200人もの株主が発生することとなり、将来の株式公開を目指すベンチャー企業の資金調達手段としては現実的でないとの指摘がある。他方、株主数の増加については、普通株式ではなく無議決権株式を発行するといった方法で対処可能であるといった意見も聞かれる。いずれにしても、複数の企業が、改正金商法施行後の専門業者登録を検討していると言われており、従来みられなかった投資型クラウドファンディングが一定の拡がりをみせる可能性は決して小さくない。

報告書が示したクラウドファンディングに関する自主規制の内容は、投資者の保護と新たな業者による参入促進とのバランスを考えた妥当な内容だと言えよう。また、報告書は、第一種金融商品取引業者の自主規制機関という協会の性質上、証券会社と第一種少額電子募集取扱業者を対象とした検討を行ったが、報告書の提言に示されたのと同様の考え方は、株式などの有価証券ではなくファンドを取り扱う第二種金融商品取引業者や第二種少額電子募集取扱業者にも適合するものである。今後は、第二種業者の自主規制機関においても、同じような考え方に基づいたルール整備が進められることとなろう。

一方、グリーンシート銘柄制度に代わる非上場株式取引の新たな制度についても、基本的に報告書の提言内容は妥当なものと言えるが、報告書の取りまとめに至る過程等で、関係者から示された懸念について、若干の私見を述べておきたい。

実際に「投資グループ」を組成・管理することを検討している証券会社の関係者からは、報告書が「投資グループ」に加入するよう投資者を勧誘することは禁じられるべきと提言したことへの懸念が表明された。「投資グループ」への加入が投資家の自発的意思によるというのは当然だとしても、「投資グループ」の存在自体が投資家に知られていなければ、「投資グループ」内に限定して非上場株式を流通させるという枠組みそのものが成り立たないとも考えられるからである。

この点については、個々の証券会社が自社で組成・管理している「投資グループ」の一覧表を作成して投資者に資料として提供したり、例えば、相続で非上場株式を相続した顧客から当該株式の売却方法について問い合わせを受けた際に、当該銘柄を売買するためには「投資グループ」に加入しなければならないと説明したりすることは、協会ルールで禁じられる「投資グループ」への加入の勧誘には該当しないと解されるべきであろう。

また、限定的に流通する非上場株式といえども、投資家の投資判断には価格に関する情報が重要となる。この点では、例えば、現状では、地方の非上場会社の株式について、当該地方の新聞紙上に気配情報に類する価格情報が掲載されているといったケースがある。仮に、こうした情報が、同地の証券会社に対する取材によって入手されたものだったとしても、新聞紙上に価格情報が掲載されていることをもって、直ちに当該銘柄についての投資勧誘が行われているとは言えないだろう。「投資グループ」を通じた限定的な流通という新たな制度に移行しても、このような情報提供が問題視されるべきではない。こうした価格情報の提供を投資勧誘に当たりかねないとして禁じるといった対応は、投資家保護の観点からは本末転倒とも言うべき対応であることに留意する必要があるだろう。

執筆者情報

  • 大崎貞和

    大崎 貞和

    未来創発センター

    未来創発センター

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