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コーポレートガバナンス・コード策定に伴う上場規則改正

2015/02/25

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2015年2月24日、東京証券取引所(東証)は、コーポレートガバナンス・コード(以下「コード」という)の策定に伴う上場制度の整備に関する要綱を発表した。この要綱の内容に沿った上場規則等の改正は、2015年6月から施行される。

コードは、政府の経済成長戦略に基づき、金融庁と東証が共同で事務局を務める「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」が昨年12月に原案を取りまとめたものである。コードの趣旨を述べた前文と上場会社の守るべき規範を定めた5つの基本原則、それをより具体化する原則及び補充原則から構成されている。

今後、東証が、原案を若干修正した上で、コードを正式に策定するが、コードは、法令等とは異なり、一律に遵守を求められるものではなく、コードの内容をそのまま実施するか、実施しない場合にはその理由を説明するかを求める「コンプライ・オア・エクスプレイン(遵守か説明か)」の方式で適用される規範である。また、東証は、今回発表した要綱において、東証一部、二部上場会社に対してはコードの基本原則、原則、補充原則の全てについての「遵守か説明か」を求めるが、マザーズまたはジャスダック上場会社に対しては、基本原則を遵守しない場合の説明だけを求めるとしている。なお、外国会社は、そのガバナンスに適用される本国の規制が別途存在するため、コードの適用がなじまないと考えられ、コードの適用対象外とされる。

これにより、東証一部、二部の上場会社が、コードの規定内容を実施せず、しかも実施しない理由の説明も怠った場合には、改善報告書の提出や上場契約違約金の支払いが求められる可能性がある(有価証券上場規程502条1項2号、509条1項2号)。また、東証による公表措置の対象ともなり得る(有価証券上場規程506条1項2号)。

コードの規定内容を実施しない理由の説明が、どの程度詳細なものであれば良いかといった点は、今回の要綱だけからでは明らかではない。コードがプリンシプルベース・アプローチ(原則主義)を採用していることに照らしてみれば、何らかの説明がなされている限り、一応上場規則に違反することにはならないものと考えられる。しかし、コード原案は、説明にあたって「ひな型」的な表現により表層的な説明を行うことがないよう求めており、投資家が十分納得できるような説明を行うことが望まれる。

また、マザーズまたはジャスダックの上場会社について、コードの原則、補充原則について実施しない場合の理由の説明が求められないのは上述の通りだが、そのことから、マザーズまたはジャスダックの上場会社はコードの規定内容を実施する必要がないと考えるのは大きな誤りである。東証は、全ての上場会社に対して、コードの趣旨・精神の尊重を求めるとしており、マザーズまたはジャスダックの上場会社といえども、合理的な範囲でコードの原則や補充原則の規定内容を実施すべきである。上場規則上の義務ではないとはいえ、実施しない場合の理由の説明を自主的に行うことは、IR(インベスター・リレーションズ)活動の優れた実践として、前向きに評価されるだろう。

コードを実施しない場合の理由の説明は、コーポレート・ガバナンス報告書に新設される記載欄において行うこととされる。コード原案の原則や補充原則において求められている様々な開示(図表参照)についても、同報告書に設けられる記載欄で開示することが求められる。

図表 コード原案で開示を求められている事項

該当する原則等 開示を求められる事項
原則1-4 上場株式の政策保有に関する方針と政策保有株式に係る議決権の行使についての基準
原則1-7 関連当事者間取引に係る手続きの枠組み
原則3-1 経営理念・経営戦略等、ガバナンスに関する基本的な考え方・基本方針、報酬決定方針・手続き、経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補指名の方針・手続き、個々の選任・指名についての説明
補充原則4-1① 経営陣に対する委任の範囲
原則4-8 自主的な判断により少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える場合の取り組み方針
原則4-9 独立社外取締役となる者の独立性判断基準
補充原則4-11① 取締役会のメンバーのバランス・多様性・規模に関する考え方と取締役の選任に関する方針・手続き
補充原則4-11② 社外役員の兼任状況
補充原則4-11③ 取締役会全体の実効性についての分析・評価結果の概要
補充原則4-14② 取締役・監査役に対するトレーニングの方針
補充原則5-1 株主との建設的な対話を促進するための体制整備・取り組みに関する方針

(出所)コード原案より筆者作成。

この場合には、他の開示・公表書類における記載場所を明示することで、記載に代えることができる。例えば、ある原則で開示を求められている事項について、既に自社のウェブサイト上で説明を行っている場合には、当該ウェブサイトのURLを明示した上で、「原則○○で求められる開示については当社ウェブサイトに記載されております。」と記載するといった形での開示が認められるのである。なお、現在は随時更新することが求められているコーポレート・ガバナンス報告書は、今回の制度見直しにより、定時株主総会後、遅滞なく提出するものとされることになる。

今回の要綱では、上場会社に対して独立性のある社外取締役または社外監査役の選任を求める独立役員制度についても見直しが行われている。すなわち、上場会社が上場規則で選任を求められる独立役員を指定する場合には、当該独立役員と上場会社との間の特定の関係の有無及びその概要を開示することとし、従来求められてきた、主要な取引先の元業務執行者など過去において上場会社と特定の関係を有していた独立役員について、それでもなお独立性ありと判断した理由の説明は要求しないこととなる。これは、取引所から説明を求められたことで、こうした特定の関係を有する者や過去に有していた者を独立役員として指定することに対して上場会社が過度に慎重となり、結果として独立役員の指定が的確に行われていなかったという問題意識に基づくものである。

ここで注意しておきたいのは、コード策定後も、現行上場規則で求められている独立役員の選任・指定に係る制度は、基本的に変更されないという点である。つまり、コード策定後においても、独立役員を1名以上確保することは上場会社の義務であり(有価証券上場規程436条の2第1項)、取締役である独立役員を1名以上確保することは、上場会社に「望まれる事項」である(有価証券上場規程445条の4)。一方、コード原案は、コードの適用対象となる上場会社に対して、独立社外取締役を少なくとも2名以上選任することを求めている(原則4-8)。

この二つの異なる規定の関係は、次のように理解されるべきである。上場会社が独立役員、すなわち独立社外取締役または独立社外監査役を全く確保できない場合は、企業行動規範(有価証券上場規程第4章第4節)における「遵守すべき事項」を遵守していないわけであり、上場規則違反として制裁措置の対象となる。これに対して独立社外取締役を1名だけ確保したという場合や独立社外監査役は確保したものの独立社外取締役は確保していないという場合には、上場規則違反とはならないものの、コードの規定を遵守していないことになる。従って、取引所による制裁措置の対象とはならないが、独立社外取締役を2名以上選任していないことについての理由の説明が求められることになる。

なお、東証は、今回の制度見直しにあたって、独立性の判断基準そのものを見直すことはしないとしている。従って、一部で曖昧だといった批判もある「主要な取引先」といった抽象的な基準は、従来通り維持される。この点をめぐっては、コード原案において、独立社外取締役となる者の独立性判断基準の策定・開示が求められており(原則4-9)、上場会社各社は、東証の独立性基準を参考にしながら、独自の基準を策定・開示することになろう。

最後に、今回の制度要綱に明示はされていないが、実務上重要なポイントについて一つ指摘をしておきたい。それは、企業行動規範の「望まれる事項」のうち、コード原案に規定されている事項と重複する内容については、今後も維持されるという点である。具体的には、前述の取締役である独立役員を1名以上確保すること(有価証券上場規程445条の4)のほか、総会集中日の回避、招集通知の早期発送、招集通知・参考資料のウェブ上での速やかな開示、招集通知等の英訳作成、株主の電磁的方法による議決権行使(以上、有価証券上場規程446条)といった規定が該当する。

このような対応がとられることとなったのは、仮に、コードに盛り込まれた内容を企業行動規範の「望まれる事項」から削除した場合、これらの規定を実施しようとしない上場会社は、実施しない理由の説明を行うだけで足り、従来のような実施するよう努力する義務を課されないということになってしまうからである。

執筆者情報

  • 大崎貞和

    大崎 貞和

    未来創発センター
    戦略企画室

    未来創発センター 戦略企画室

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