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コラム 大崎貞和のPoint of グローバル金融市場

問い直されるべき議決権行使助言会社のあり方

2015/09/09

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2015年8月21日、東証一部上場会社である黒田電気の臨時株主総会が開かれた。この総会は、かつて「物言う株主」として一世を風靡した村上世彰氏の長女が代表を務める投資会社などの請求を受けて開催されたもので、村上氏ら4名を取締役として追加選任することが議案とされた。

提案を行った投資会社側は、黒田電気が、PBR(株価純資産倍率)1倍を大きく割り込む水準の転換価額での新株予約権付社債(CB)の発行を行うなど、株主の目線による適切なガバナンスがなされていないと主張し、今後3年間にわたって利益の100%を株主還元するといった施策を推進するのにふさわしい社外取締役として、村上氏ら4名の選任を求めた。

これに対して黒田電気の取締役会は、同社は独立性の高い社外取締役が過半数を占める指名・報酬・監査の各委員会に経営監視を委ねる指名委員会等設置会社の体制をとるなどガバナンス体制を強化しており、かつ業績、株価ともに良好であることから社外取締役の追加選任は不要であると主張した。また、提案された候補者4名は特定の大株主の当事者ないし利益代表者であり、当該候補者が選任されることは同社の長期的な株主共同の利益に合致せず、ガバナンス体制を歪めるものであるといった理由から、上の株主提案に反対することを表明したのである。

総会では、約60%の株主が反対し、株主提案は否決された。しかしながら、議案を提出した投資会社などの持株比率は、約14%強にとどまる。その提案が、40%近い株主の支持を集めた一つの要因は、議決権行使助言会社大手の米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)による賛成推奨にあったのではないかと考えられる。

ISSは、今回の株主提案への賛成を推奨した理由を顧客向けのリポートで明らかにしているが、そこで注目されるのは、同社の定める議決権行使助言基準では、今回のケースにおける村上氏らのように、特定の大株主の当事者や利益代表者であるような取締役候補者は、社外取締役として満たすべき独立性を欠くと判断されるという事実である。黒田電気の取締役会では、既に6名の取締役のうち3名が独立社外取締役であったことから、仮に村上氏ら4名が選任された場合、取締役会における独立社外取締役の比率は、50%から30%に低下するはずだった。

ISSの「2015年版日本向け議決権行使助言基準」には、黒田電気のような指名委員会等設置会社については、「株主総会後の取締役会の過半数が独立していない場合、ISSの独立性基準を満たさない社外取締役に反対を推奨する」と明記されている。従って、村上氏ら4名が選任されれば独立社外取締役の割合が30%となる黒田電気の場合、ISSの基準に照らせば独立性を欠く村上氏らの選任には反対を推奨するのが当然である。

それにもかかわらず、ISSは、今回のケースは例外的な状況であり、多額の現預金を保有しているといった黒田電気の現状を改めることは既存の取締役だけでは難しく、新たな観点を提示することのできる4人の候補者を選任することが必要だと主張した。

ISSが、今回、取締役候補者の独立性を軽視するかのような助言を行ったことには、意外感を禁じ得ない。というのも、従来、ISSは社外取締役の独立性を極めて重視する姿勢をとってきたからである。2004年には、著名投資家ウォーレン・バフェット氏をコカコーラの社外取締役に選任するという議案について、ISSは、同氏が会長を務めるバークシャー・ハザウェイがコカコーラの株式を10%保有する大株主であることを理由に反対を推奨したことすらあった。「オマハの賢人」のコカコーラに対する独立性よりも大株主として投資先企業の経営陣に様々な圧力をかける手法で知られる村上氏の黒田電気に対する独立性の方が高次であると言わんばかりの価値判断には、違和感を抱く人も少なくないだろう。

また、ISSは、村上世彰氏が金融商品取引法で禁じられたインサイダー取引を行い、有罪判決が確定した人物であることについては、同氏は「既に問題となった出来事に係る制裁を受けており、取締役となることについて法的な障害はない、また村上氏自身は違法行為を行ったことを否定しており、一部の観測筋(observers)は彼に対する訴追は政治的な動機によるものだと信じている」と述べた上で、黒田電気の総株主にとって大事なことは村上氏の過去の行為ではなく、会社が前進する上で何をなそうとしているかだとして、村上氏の選任への賛成を推奨した。

機関投資家が、投資先企業の株式について、議決権を適正に行使することは、年金加入者など受益者に対して負う受託者責任の重要な要素である。とはいえ、時には数千社にものぼる多数の投資先企業について、すべての議案を精査し、賛否を決めていくことには多大な労力を要する。また、コーポレートガバナンスのあり方に関する標準的な理解が拡がりつつある中で、個々の機関投資家が、同じ議案に対する検討を個別に行うことは、全体で見れば大きな無駄を生むと言うこともできるだろう。

こうしたことから、業績等について特段の問題がない投資先企業については会社提案にそのまま賛成し、問題のありそうな企業についてのみ議案を精査するというスクリーニングを行った上で議決権を行使したり、ISSのような議決権行使助言会社の推奨に従って議決権を行使するといった機関投資家が内外で増加している。

その結果、近年、議決権行使助言会社の推奨が機関投資家の投票行動に与える影響が大きくなってきた。しかも、めぼしい議決権行使助言会社は、最大手とされるISSとグラス・ルイスくらいしか存在しないため、個々の議決権行使助言会社の判断が、議決権行使の結果を左右しかねないという状況が生じつつある。こうした変化を背景に、欧州や米国では、議決権行使助言会社に対して何らかの規制を課すべきではないかといった議論も行われるようになってきている。

議決権行使助言会社は、自らの助言基準を明らかにし、今回の黒田電気のケースにみられるように、賛否の理由を説明するリポートも作成しているが、問題点も残る。例えば、議決権行使助言基準の個々の事案への適用が適切に行われているのかどうか、助言すべき議案が多数にのぼるだけに、懸念がないわけではない。実際、2009年にある上場会社の社外取締役に選任された人物は、自身の選任議案に対する反対票が多かったことを不審に思って調べた結果、主要株主である会社の「嘱託」であったという経歴が、「former executive(元役員)」だとされ、独立性を欠くという理由で、ある議決権行使助言会社による反対推奨を受けていたという事実を知ったという経験をブログで紹介している。

とりわけ日本企業への海外機関投資家による議決権行使の場合、こうした「翻訳ミス」とも言うべき間違いが投資家段階でも是正されず、投票行動にそのまま反映されてしまうという懸念は排除できない。また、単なるミスというよりも、ある種の恣意性を持って、議決権行使助言会社による推奨が行われる可能性もないとは言えない。

議決権行使助言基準を機械的に適用するのか、今回の黒田電気のケースにおけるように、個別の事情に深く立ち入った上で判断を下すべきなのかという点についても、様々な意見があるだろう。この点については、議決権行使助言会社の恣意性を排除するためには、基準をできるだけ形式的に定め、その基準を形式的に当てはめることが解決策となり得るが、それでは、かえって議決権行使助言の内容が各会社の事情を反映しない不適切な内容となってしまう危険があるといった指摘がなされている。

今のところ日本では、議決権行使助言会社に対する特段の規制は導入されていない。しかし、助言会社の影響力が高まりつつあることは事実であり、助言会社自身も2014年2月に制定されたスチュワードシップ・コードの受け入れを表明するなど、半ば公的な枠組みの中での活動を積極化する姿勢を示している。

かつては「意見の表明」に過ぎず、言論の自由を尊重する観点からも規制を及ぼすべきでないとされた格付機関による信用格付についても、その市場への影響力の大きさ等を踏まえて規制が必要だとの考え方が各国で強まり、日本においても、2009年の金融商品取引法改正によって格付会社の登録制度が導入されるなど、一定の規制が及ぼされることとなった。議決権行使助言会社についても、適切な判断を下せる体制整備や利益相反の防止、判断プロセスの透明性確保など、欧米で提起されている論点を中心に、そのあり方を再検証すべき時期が来ているのではないだろうか。

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