フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 ロンドン証券取引所買収を検討するICE

ロンドン証券取引所買収を検討するICE

2016/03/02

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

2016年3月1日、ニューヨーク証券取引所(NYSE)を傘下に置くインターコンチネンタル取引所(ICE)は、同社がロンドン証券取引所グループ(LSE)に対する買収提案を検討中であることを公式に認めた。

ICEは、本社をジョージア州アトランタに置く2000年5月設立の新興デリバティブ取引所である。電力などエネルギーの取引からスタートし、2007年1月にはニューヨーク商品取引所(NYBOT)を買収するなど、積極的なM&A(買収・合併)戦略を展開しながら事業基盤を拡大してきた。2013年11月にはNYSEユーロネクスト(当時)の買収を完了させてNYSEや欧州第2位のデリバティブ取引所であるLiffeを傘下に収める一方、欧州株の現物取引市場を運営するユーロネクストは分離することとし、2014年6月、株式を再上場させた。ICEは、新興の取引所であることから一般的な知名度は高くないが、企業としての実力を示すとも言える自社の株式時価総額でみれば、世界の取引所運営会社のトップクラスに位置する。

ICEは、現時点ではLSEの経営陣に対する申し入れなどは一切行っておらず、自社としても買収提案を正式決定したわけではないとしている。しかしながら、英国の企業買収ルールである企業買収・合併に関するシティ・コードの規定によれば、ICEは、3月29日午後5時までにLSEに対して確定的な株式買付け申し入れを行う旨を公表するか、今回は買付け申し入れは行わず、その後6ヵ月は申し入れを行わない旨を公表しなければならないこととされており、近日中に何らかの公式発表が行われる可能性が高い。

LSEをめぐっては、先月23日にフランクフルト証券取引所や有力デリバティブ取引所ユーレックス取引所を運営するドイツ取引所(DB)が、経営統合へ向けた詳細な検討を行っていることが明らかになっていた(当コラム2016.02.26参照)。今回ICEがLSEに対する買収提案を検討していることを公式に認めたことで、今後、LSEをめぐる有力取引所間の買収合戦に発展する可能性が高まってきた。

世界の取引所をめぐっては、2010年から翌年にかけて、国境を越える経営統合構想が相次いで発表されたものの、その多くが頓挫したという経緯がある。その際も、DBとNYSE(当時はNYSEユーロネクスト)との経営統合合意に対抗する形で、ナスダックOMXとICEが共同でNYSE買収を試みた。また、2004年末にDBがLSEに対する買収提案を行った際には、ユーロネクストが対抗提案を検討するといった動きがみられた。有力取引所間の経営統合構想は、対抗的な買収提案を引き出しやすい傾向があると言えよう。

LSEは、欧州最大の金融センターであるロンドンと英国の象徴的存在ともいえる取引所だが、取引所のビジネスという観点からは、決して世界の最有力取引所グループの一つとまでは言えない。運営する取引所は、ロンドン証券取引所、イタリア取引所ともに現物株式取引が中心で、欧州債の有力取引システムであるMTSや欧州株の取引所外取引システムとして存在感を発揮しているターコイズなども傘下に置くとはいうものの、デリバティブ取引への対応では遅れをとってきた感が否めない。

それだけに、ユーレックス取引所を傘下に置き、デリバティブ取引に強いDBとの統合は、LSEが欧州に地盤を持つ国際的な取引所グループとして生き残るためには、有力な戦略上の選択肢と考えられたと言うことができよう。

そこへICEが割って入る形となったわけである。ICEは、これまで米国株式の中心市場であるNYSEは別として、現物株取引には強い関心を示さず、NYSE買収後に欧州株の現物取引市場であるユーロネクストを分離していただけに、やや意外感もある。しかし、ユーロネクストが運営するパリ、ブリュッセル、アムステルダム、リスボンといった取引所とロンドン証券取引所の存在感の違いや、LSEがFTSEシリーズの提供会社であるFTSEグループとラッセル指数の提供会社であるラッセル・インベストメント・グループ、欧州最大の清算機関であるLCHクリアネットを傘下に有し、情報サービス分野や清算・決済分野でも強い競争力を持つといった点を考えれば、ICEの姿勢転換も理解できるだろう。

欧州における取引所やMTF(日本のPTSに相当する取引所外の電子取引システム)の運営ビジネスにおいては、NYSEユーロネクスト買収によってLiffeを傘下に収めたICEや欧州最大のMTFであるBATSチャイエックス・ヨーロッパを傘下に置くBATSグローバル・マーケッツといった米国勢が存在感を高めている。仮に、今回、ICEがLSEをその傘下に収めるといった結果になれば、この傾向がますます強まることとなろう。

LSEをめぐっては、取引所運営会社の株式時価総額ランキングではICEとともにトップクラスにある米国のデリバティブ取引所グループであるシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)も買収提案を検討しているとの報道が一部に出ている。現時点では、買収合戦のターゲットとなっているLSEからは、DBとの経営統合協議に関する点も含め、公式のプレスリリースは一切なされていない。今後の展開が大いに注目されるところである。

執筆者情報

  • 大崎貞和

    大崎 貞和

    未来創発センター

    未来創発センター

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn