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ICOに対する規制を強める米国SEC

2017/12/15

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以前、米国の証券取引委員会(SEC)が、仮想通貨や法定通貨の払込みを受けてトークンと呼ばれる新たな仮想通貨を発行するICO(Initial Coin Offerings)が証券法の適用対象となる「有価証券」の募集に該当する場合があるとして規制に乗り出したことを紹介した(注1)。その後、SEC内に9月に新設された法規執行局(Enforcement Division)のサイバー・ユニット(Cyber Unit)が、本格的な取締りを進めている。

SECサイバー・ユニットによる初の摘発

サイバー・ユニットによる初の不正摘発事案となったのが、12月4日に公表された詐欺的なICOに対する差止命令等の発給申立てである。この事件は、カナダ在住でケベック州証券法違反の常習犯だとされるドミニク・ラクロワ氏ほかが、インターネットを通じて PlexCoin と称するトークンを米国内の投資家を含む多数の者に向けて販売したというものである。

ラクロワ氏らは、PlexCoin への投資は一ヶ月で1,354%の利益を生むとうたっていた。SECは、PlexCoinへの投資から生まれる利益の源泉が発行者であるPlexCorps社の経営チームの選定する投資によるリターンだとされていた点を捉え、このトークンの販売が有価証券の募集に際して求められる登録を欠いて行われた違法な無登録募集だと判断した。これは、以前紹介したThe DAO によるトークン発行を有価証券である「投資契約(investment contract)」の募集だと判断したのと同様、いわゆるHowey基準を適用したものである。

Howey基準とは、以前にも触れたが、1946年の連邦最高裁判決によって定立された判断枠組みであり、①資金の拠出、②共同事業、③収益の期待、④収益獲得がもっぱら他者の努力によること、の4つの要件が満たされる場合には、連邦証券法にいう投資契約に該当するというものである。投資契約が連邦証券法の規制対象となる有価証券である以上、その締結(発行)が行われる場合には、一定の要件を満たす投資家のみを対象としているために私募(private placement)に該当するなど法令上の適用除外要件を満たさない限り、SECによる登録を受けずに多数の投資家を勧誘することは違法である。

SECは、PlexCoinの販売が有価証券の募集であるとした上で、ラクロワ氏らが、実際には存在しない PlexCorps社のチームなる者が投資を選定するとしていたことやカナダでは違法行為の常習者として知られていたラクロワ氏の名を秘して勧誘を行っていたこと、集めた資金を投資に振り向けずに自宅の改装などに費消していたこと等から、このトークン発行が違法な証券詐欺行為であると断定した。

SECは、裁判所に対し、ラクロワ氏らによる行為を恒久的に差し止めることや投資家から集めた1,500万ドル余の資金を没収するとともに、利息分の追徴や民事制裁金の賦課を命じるよう求めた。

Munchee社のMUNに対する差し止め

一方、12月11日に公表されたICOをめぐるもう一つの事案では、SECは当該事案が有価証券の無登録募集であると判断しつつも、発行者に対して資金の没収や民事制裁金の賦課などの厳しい制裁を科すことは差し控えるという対応をとった。これは、カリフォルニア州に所在し、レストランを評価するスマートフォン向けアプリを提供しているMunchee社が行おうとしたICOに関する事件である。

Munchee社は、アプリの機能改善や利用者拡大のための宣伝などの費用を賄うための資金を得るために、MUNと称するブロックチェーン技術を利用したトークンを組成して1,500万ドル余りを調達しようとした。

同社が作成したホワイトペーパーによれば、同社は500万口のMUNを組成し、そのうち225万口を1,500万ドル相当のイーサを対価として販売し、残りの275万口はクチコミを投稿したアプリ利用者や自社の従業員、アドバイザー等への報酬支払いに充てることとなっていた。また、同ホワイトペーパーは先に触れたThe DAO のトークン発行に関するSECの見解にも言及し、Munchee 社が行った「Howey 分析」の結果、計画されているMUNの仕組みは連邦証券法に抵触しないことが分かったと述べていた。もっとも、Munchee社が、どのような分析に基づいてMUNが有価証券にはあたらないと判断したのかは不明である。

Munchee社がトークンへの投資勧誘を行っていた期間中、実際にMUNでモノやサービスを購入することはできなかった。他方、同社は、将来MUNをめぐる「エコシステム」が確立されれば、MUNをアプリ内での様々な機能の購入に充てることができるようになり、例えばアプリ上に情報を掲載しているレストランと交渉して食事代金の一部をMUNで支払うといったことも可能になると述べていた。

また、同社は、情報を掲載するレストランから得る広告収入の増加につれて、少しずつ販売済みのMUNの流通を取り止めていくとも述べていた。また、MUNを複数の仮想通貨交換所に上場し、取引可能にするともうたっていた。但し、MUNの所有者への配当支払いなどは約束されていなかった。

このようなトークンの発行についてSECは、①MUNの購入にはイーサやビットコインという形態での資金の拠出が必要であった、②拠出された資金は Munchee 社による「エコシステム」の構築という事業に振り向けられることになっていた、③Munchee社がアプリの機能を改善したり、「エコシステム」を確立してMUNを食事代金の支払いに充てることを可能にしたりすることで、投資家はMUNの価値の増加による収益を得られるという合理的な期待を抱くことができたし、MUNは速やかに換金可能となるはずであった、④MUNの価値の増加はもっぱらMunchee社やその代理人達の努力によって実現されるものであったという理由から、連邦証券法による規制に服すべき投資契約に該当すると判断し、SECによる登録を受けずに行われたMUNの募集は違法であると結論付け、当該募集を差し止める排除措置命令(Cease and Desist Order)を出した。

Munchee社は、SECからの照会を受けた時点で約40人の投資家に対して総額200イーサ(当時の価値は約6万ドル相当)のMUNを販売していたが、有価証券の無登録募集であるとのSECの判断を尊重して直ちに募集活動を停止し、既に払い込まれていた資金を投資家に返還した。同社のこうした協力的な姿勢を評価し、SECは民事制裁金の賦課などの厳しい制裁を科すことは差し控えることとした。

技術進歩に配慮するSEC

以上の二つの事案の事実関係とSECの講じた対応の違いを見ると、SECがICOのような新しい試みのポジティブな意義を評価しながら、そうした装いをまとっただけの詐欺的な行為に対しては厳しい態度で臨もうとしていることは明らかだろう。SECは、投資家保護の観点からインターネットを基盤とするICTの進歩に乗じた詐欺的行為による投資家の被害防止に努めつつ、証券法規制の過度に厳格な適用が、技術進歩によって生じる社会の変化に対して萎縮的な効果をもたらすことのないよう配慮しているのである。

とはいえ、Munchee社のMUNが投資契約に該当するというSECの判断を踏まえれば、いわゆるファンド的なものはもちろん、商品券や会員権に近いような性質のものも含め、ICOと称して行われるトークン発行のほとんどは、とりわけトークンの仮想通貨交換所への上場を前提として行われる場合、有価証券発行であるという結論が導かれるように思われる。

MUNの場合について言えば、その性質は、Munchee社のいう「エコシステム」が確立した後の状態であっても、日本でしばしば見られる「ポイント」に類似したものであるように思われる。恐らくSECのような考え方に立てば、日本で一般的な「ポイント」を物品やサービスの購入者等に付与するだけでなく法定通貨や汎用性の高い仮想通貨を対価として一般向けに販売すれば、有価証券の募集が行われたという論理になるだろう。

私募によるICOは可能

もっとも、このように幅広いトークンを有価証券とみなす姿勢をSECがとっているとしても、直ちに正当なICOに過度に水を差すような萎縮効果をもたらすとは言えないように思われる。というのも、米国の証券法規制では、個人を含む比較的幅広い投資家層が該当する自衛力認定投資家(accredited investors)を対象として投資勧誘を行うといった手法をとることで、SEC登録義務を課されない私募によりつつ、有価証券を発行して相当多数の投資家から資金を集めることが十分可能だからである。私募に該当する有価証券発行をインターネットを通じて行った実例も過去にあり、勧誘対象者を一定程度限定したICOは、それほど困難でないはずである。

SECは、ICOを標榜する詐欺的な資金集めが横行しているようにも思える状況に対しては危機感を抱いているようである。本コラムで取り上げたMunchee事件に関する公表が行われたのと同じ12月11日には、ジェイ・クレイトン委員長名で仮想通貨やICOに関して投資家や企業に対して注意喚起を行う声明が発表されている。そこでは仮想通貨やICOへの投資を検討する投資家がチェックすべきポイントがどのようなものであるかなどが詳細かつ具体的に論じられている。

日本でもICOは既に複数件実施されているようである。日本の金融商品取引法には、Howey基準を参考にしつつ設けられた集団投資スキーム概念があり、同法による規制の対象となる有価証券の一つとされており、同法を所管する金融庁は、2017年10月27日付けでICOが同法の規制対象となる可能性もあるという 見解を公表している。もっとも、どのような場合にトークンが集団投資スキームであると言えるのか、その場合どのような情報開示が勧誘の対象となる投資家に対して行われるべきなのかといったことを含め、今後検討が深められる点も少なくないだろう。

(注1)「仮想通貨は「有価証券」か? ~米国SECによるICOの規制~」 (2017年10月6日)参照

執筆者情報

  • 大崎貞和

    大崎 貞和

    未来創発センター
    戦略企画室

    未来創発センター 戦略企画室

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