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FDルールガイドラインについて

2018/02/08

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2018年2月7日、2018年4月から施行される金融商品取引法(以下、「金商法」)改正で導入されるフェア・ディスクロージャー・ルール(以下、「FDルール」)に関するガイドラインのパブリックコメントに対する金融庁の考え方が示され、同ガイドラインの内容が確定した。

FDルールガイドラインは、8つの問いとそれに対する答えという形で構成されている。問1は、FDルールの趣旨・意義を尋ねるもので、ルール導入の目的が投資者に対する公平な情報開示の確保であること、発行者側の情報開示ルールが整備・明確化されることで、発行者による早期の情報開示や投資家との対話が促進されるといった積極的意義があることなどが述べられている。

重要情報として管理すべき情報の範囲

問2は、多くの上場企業が最も強い関心を寄せてきた点、すなわち上場企業はどのような情報をFDルールの対象となる重要情報として管理すべきかを尋ねるものである。

これに関して、ガイドラインは次のように述べる。

  • 諸外国のルールも念頭に、何が有価証券の価額に重要な影響を及ぼし得る情報か独自の基準を設けてIR実務を行っているグローバル企業は、その基準を用いて情報を管理する。
  • 現在のインサイダー取引規制等に沿ってIR実務を行っている企業は、当面、①インサイダー取引規制の対象となる情報、及び②決算情報(年度または四半期の決算に係る確定的な財務情報)であって、有価証券の価額に重要な影響を与える情報、の二つを重要情報として管理する。
  • 決算情報のうち何が有価証券の価額に重要な影響を与えるのか判断が難しい企業は、上の①に加えて、公表前の確定的な決算情報を全てFDルールの対象として管理する。

今回示された金融庁の考え方によれば、上記の3つの管理方法のうちどの方法を選択すべきかは、各企業の実情に応じて判断されるべきであり、かつ何が重要情報に当たるかについて、投資家と積極的に対話することが期待されているという。

一方、ここでいう「決算情報」には定量的な情報のみならず、「増収見込みである」といった定性的な情報も該当する。他方、小売業等が開示する「月次」の売上高等の数値は、一般的にはそれ自体で「決算情報」には該当しない。

また、決算情報以外のインサイダー取引規制の対象となり得る情報(組織再編など)であって、軽微基準に該当し「重要事実」にならない情報や親会社等による売出し等により「主要株主の異動」が発生する可能性があるといった情報については、当面、重要情報として管理しないことが考えられる。また、事故や災害などの事象が発生した場合、当該事故等による損害額がインサイダー取引規制における軽微基準を超えない場合、当該事故等による損害に関する情報は、インサイダー取引規制におけるバスケット条項に該当しなければ、重要情報には該当しないものと考えられる。

重要情報に該当するとの指摘を受けた場合

問3は、取引関係者に伝達した情報について重要情報に該当するのではないかとの指摘を受けた場合の対応について尋ねるものである。

これに関して、ガイドラインは次のような対応をとることが考えられると述べる。

  • 当該情報が重要情報に該当するとの指摘に上場企業が同意する場合は、当該情報を速やかに公表する。
  • 指摘を行った取引関係者との対話の結果、当該情報が重要情報に該当しないとの結論に至った場合は、当該情報の公表を行わない。
  • 重要情報には該当するものの、公表が適切でないと考える場合は、当該情報が公表できるようになるまでの間に限って、当該取引関係者に守秘義務及び当該上場企業の有価証券に係る売買等を行わない義務を負ってもらい、公表を行わない。

今回示された金融庁の考え方では、取引関係者に伝達した情報が重要情報に該当するかどうかは上場企業と取引関係者との合意で決まるような性質のものではないことを踏まえ、合意がみられない場合には、財務局等に連絡することも考えられるとしている。また、上場企業や取引関係者は、情報の性質についての判断に至った経緯等に関するエビデンスを残す義務を負うものではないが、必要に応じてそうした対応を講じることも考えられるとしている。

企業の将来情報に関する議論等の取扱い

ガイドラインの問4は、「企業の将来情報に関する議論等の取扱い」と題され、重要情報とされる情報の具体的な例について言及している。ガイドラインは次のように述べる。

  • ①中長期的な企業戦略・計画等に関する経営者との議論の中で交わされる情報は、一般的にはそれ自体でFDルールの規制対象となる重要情報には該当しないが、例えば、中期経営計画の内容として公表を予定している営業利益・純利益に関する具体的な計画内容などが、それ自体として投資判断に活用できるような場合であって、その計画内容を公表直前に伝達するような場合は、当該情報の伝達が重要情報の伝達に該当する可能性がある。
  • ②既に公表した情報の詳細な内訳や補足説明、公表済みの業績予想の前提となった経済の動向の見込みは、一般的にはそれ自体でFDルールの規制対象となる重要情報には該当しないが、例えば、契約済みの為替予約レートの数値のような、その後の実体経済の数値と比較することで容易に今後の企業の業績変化が予測できる情報が含まれる場合には、当該情報が重要情報に該当する可能性がある。
  • ③工場見学や事業別説明会で一般に提供されるような情報など、他の情報と組み合わせることで投資判断に活用できるものの、その情報のみでは、直ちに投資判断に影響を及ぼすとはいえない情報(いわゆる「モザイク情報」)は、それ自体では重要情報に該当しない。

今回示された考え方では、①の点について、経営に関するいくつかの仮説や選択肢に言及することは、一般的には、確定的な情報とは言えず、FDルールの対象とならないものとされている。

一方、②の点については、「契約済みの為替予約レートの数値」はあくまで例示であることが強調されている。すなわち、為替予約レートの数値について言及することが常に重要情報の提供にあたるのではなく、また、為替や市況関連ヘッジの有無、外貨取引における調達通貨といった情報については、その後の実体経済の数値と比較することで容易に今後の企業の業績変化が予測できるなど、公表されれば有価証券の価額に重要な影響を及ぼす蓋然性のあるものではない限り、FDルールの対象となる情報には該当しないとしている。

親会社への重要情報の伝達等

ガイドラインの問5は、金融商品取引業者等の講じるべき重要情報の適切な管理のための措置に関するものであり、ここではその内容について特に触れない。一方、問6は、重要情報府令が上場企業の投資者に対する広報に係る業務に関して重要情報の伝達を受ける株主が取引関係者に該当すると定めていること(同府令7条1号)を踏まえながら、上場企業による親会社への重要情報の伝達について尋ねるものである。

この点についてガイドラインは、上場企業が自らの属する企業グループの経営管理のために親会社に対して重要情報を伝達する行為は、通常、「投資者に対する広報に係る業務に関して」行われるものではないので、FDルールによる規制の対象とはならないとしている。

他方、今回公表された金融庁の考え方によれば、株主総会で重要情報を伝達してしまったといった場合でも、株主総会において、広報に係る業務として情報が提供される際に、当該情報が未公表の重要情報に該当すれば、FDルールの対象となるものとされる。また、FDルールによる規制の対象となる情報提供者が上場企業やその役員等のほか、「取引関係者に情報を伝達する職務を行うこととされている者」に限られることをめぐって、一般的にはIRや広報部門等の担当者が該当するとしながらも、例えば、決算説明会において財務担当者が決算内容の説明をするといった場合には、IRや広報部門等の担当者以外の者であっても、FDルールの規制対象となる情報提供者に該当し得るとの見解が示されている。

ガイドラインの問7は、証券会社の投資銀行業務を行う部門への重要情報の伝達や債券等の格付を依頼する際の信用格付業者への重要情報の伝達について尋ねるものである。こうした場合は、いずれも伝達の相手方である取引関係者が、法令または契約により、当該重要情報に関する守秘義務及び当該上場企業の有価証券に係る売買等を行わない義務を負う者にあたるので、FDルール上問題がないとの見解が示されている。

ガイドラインの問8は、重要情報府令が役員等が取引関係者に意図せず重要情報を伝達した場合が「重要情報の伝達と同時にこれを公表することが困難な場合」(金商法27条の36第2項)にあたると定めていることをめぐり、それが具体的にどのような場合であるかを尋ねるものである。この点についてガイドラインでは、上場企業としては伝達する予定のなかった重要情報を役員等がたまたま話の流れで伝達してしまった場合が考えられるとしている。

おわりに

以上のような内容から成るFDルールガイドラインは、4月以降の上場企業によるFDルール対応に向けての適切な指針となるものである。上場企業は、このガイドラインや日本IR協議会が策定した情報開示のベストプラクティスに向けての行動指針などを参考にしながら、適切な情報開示、情報管理の態勢を構築していってもらいたい。その際、決して忘れてはならないのは、専門的見地から中長期的な企業価値と株価のギャップを発見するアナリストによる活発な情報発信は、効率的な株価形成を促すという点で上場企業にとってもメリットの大きいものであり、形式的にルールを遵守するためにIR活動を萎縮させてしまうことは、誰の利益にもならないという基本的な認識である。

執筆者情報

  • 大崎貞和

    大崎 貞和

    未来創発センター
    戦略企画室

    未来創発センター 戦略企画室

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