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米国SECの仮想通貨規制への実務家の対応

2018/07/30

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このほど筆者は米国に出張し、いわゆる仮想通貨やICO(Initial Coin Offering)で販売されるトークン、コインなどのデジタル資産(digital asset)の組成・販売や取引をめぐる規制の現状について、現地の複数の法律実務家と意見交換する機会を得た。

SECの姿勢への評価

以前本コラムで紹介したように、米国の証券取引委員会(SEC)は、判例に基づくいわゆるHowey基準を適用しながらICOによるトークン販売を有価証券の募集だとして規制する一方、十分に分権化しているビットコインやイーサリアムといった仮想通貨は有価証券ではないとする見解を示している。

とりわけ、イーサリアムは有価証券ではないと明言した2018年6月のウィリアム・ヒンマンSEC企業金融局長による講演は、仮想通貨ビジネス関係者の注目を集めた。それは同氏が、2014年7月にイーサリアムがビットコインとの交換で初めて販売された際には有価証券の募集が行われたと考える余地があることを示唆しつつ、当初、有価証券として募集・販売されたデジタル資産が、十分に分権化し、特定の発行者(あるいは販売者)と一般投資家との間に決定的な情報の非対称性があるといった状態でなくなった場合には、有価証券として流通しているわけではないと認められる可能性があるとの考え方を明らかにしたからである。

この点について筆者が面談した実務家は、それ以前はSECのスタッフと議論してもいったん有価証券として発行されたものはずっと有価証券であり続けるのが当然という受け止め方だったので画期的な考え方が示されたと言える、といった感想を述べていた。

しかしながら、他方で、問題はそうした考え方が法令の執行という面でどこまで活かされるかだという醒めた見方も根強く、ヒンマン氏の講演を受けて実務が大きく変化するといった影響はなさそうである。ヒンマン氏自身、イーサリアム以外には当初有価証券であったものがそうでなくなったという例を挙げていないし、ICOで発行されている様々なトークンの中からそうしたものが生まれる可能性は認めつつも、「多くのものはそうはならないだろう」と明言している。

違法な有価証券募集とされないための工夫

こうした中で、多くの実務家は、ICOによるトークン発行を有価証券募集として捉えるSECの考え方を前提としつつ、登録届出書の作成といった重い規制負担を極力回避するための方策を講じようとしている。

一つの手法は、将来構築される特定のネットワークでの商品・サービスの購入等にしか使えない会員権や会員向けのクーポンのような「ユーティリティ・トークン」だという点を強調することで、投資家自身の努力によらない収益の獲得を期待させる有価証券とされるトークンとは異なると主張するという方法である。

しかし、こうしたやり方についてSEC関係者は、講演等で「ユーティリティ・トークン」といった名称だけで有価証券性を否定することはできないと繰り返し指摘している。事実SECは、そうした性質に着目したHowey基準の解釈に基づいて有価証券には該当しないと判断して発行されたMunchee社のトークンに対しても、有価証券に該当するとの判断を前提にしながら差止命令の発給を申し立てている(参照:当コラム「ICOに対する規制を強める米国SEC」2017年12月15日)。

また、Airdrop(無償配布)という手法が用いられることもある。これは新たなトークンをすべてのビットコイン保有者、すべてのイーサリアム保有者、あるいは自らが形成しつつあるネットワークの参加者全員などに取得希望があれば無償で交付するというものである。例えば、Stellarは、2017年6月、自らのトークンであるLumenを取得を希望するすべてのビットコイン保有者に配布した。

この無償配布は、資金調達としては意味をなさないようにも思えるが、少なくとも新しいトークンの保有者が短時間で多数生まれることで、トークンの利用を促したり未保有者の関心を高めて結果的にトークンの取引価格を押し上げたりする効果は期待できる。発行者が未発行のトークンを一定量保有しておくケースもある。また、トークン取得者による資金の拠出を伴わないのであれば、Howey基準の観点からは当該トークンが有価証券に該当しないと考えられることになるかも知れない。

もっとも、筆者が面談した実務家は、この点については否定的で、仮に無償配布という行為自体が有価証券の募集に該当しないとしても配布されたトークンが有価証券でないことを直ちに意味するわけではないので証券法規制を回避するという観点からは意味がないと述べていた。

私募によるトークン発行等

そこで増加しているのがSECへの登録届出義務の生じない私募に関するセーフハーバー・ルールであるレギュレーションDに依拠するICOや将来発行されるトークンの予約のような投資契約を締結するSAFT(Simple Agreement for Future Tokens)などである。

この場合、一つの方法はレギュレーションDの規則504に基づいて12ヵ月で500万ドル以下の資金調達を行うことである。この場合、トークンの購入者は原則として1年以内の転売が認められないといった制約が課されるが、資金調達を行う者の名称等を記載したフォームDをSECに提出するだけで合法的なトークン発行が可能となる。

もう一つの方法は、同じレギュレーションDの規則506に基づいて適格投資家(accredited investor)及び35名以内の一般投資家に販売対象を限定したトークン発行を行うことである。この場合、資金調達金額の制約はないが、勧誘の対象となる一般投資家に対しては、募集に準じるような情報開示を行わなければならないといった規制を受ける。規則506に依拠する私募については、一般の目に触れるような広告・宣伝を行うことが容認されるなど、機動的な資金調達が可能となる。フォームDの提出義務や転売規制は規則504の場合と同様だが、大規模な資金調達が可能というメリットは大きい。

しかも規則506における適格投資家の範囲は、日本の金融商品取引法におけるプロ投資家(適格機関投資家)よりも幅広く、純資産100万ドル超または直近2年間の年収が20万ドル超(同一世帯の夫婦で30万ドル超)といった要件を満たす個人も勧誘・販売の対象とすることができる(注1)。ある実務家によれば、現在、適格投資家に該当する個人は、全米の人口の約8.5~10%に達するそうである。決して非常に高い割合とは言えないが、実数は2,760万人~3,250万人にも及ぶ可能性があるわけで、勧誘・販売の対象となる人数としては相当な規模だと言えるだろう。

少額公募制度の活用

もっとも、レギュレーションDに依拠する場合にトークン等の転売制限が課されることを負担に感じる者も多い。そこで少額公募に関するSEC規則であるレギュレーションAを利用して、トークン発行を行おうと考える向きも出てきているようである。

この点について筆者が面談した実務家の一人は、今のところ実際にレギュレーションAを利用したケースはないと思うと述べ、また開示書類作成の手間や法律事務所に支払う報酬などのコストが大きいことなどを考えると現実的でないと否定的であった。とはいえ、2015年6月に施行された規則改正で導入された通称「レギュレーションAプラス」、すなわちレギュレーションAの「第二区分」(Tier2)手続きを用いれば最大5,000万ドルの資金調達が可能であり、かつ金額の制約があるものの適格投資家以外の一般投資家への販売も可能である。今後、レギュレーションAに依拠するトークン発行が実際に行われる可能性は小さくないだろう。

米国非居住者への販売

他方、米国証券法の仮想通貨等への適用が必ずしも明確ではなく法的リスクが大きいと考え、米国居住者による購入を認めないという形でトークン発行を行う例もある。例えば、調達金額約40億ドルという過去最大規模のトークン発行となったBlock.one社によるEOSトークンの発行がそうである。

同社の場合、トークン発行を開始した2017年6月時点では、まだトークンの有価証券性をめぐるSECの見解が定まっていなかったこともあり、規制が不透明だと判断したもののようである。加えて、仮に有価証券としての連邦証券法上の規制を受けないとしても、米国居住者向けに販売した場合、州によっては州法上の登録規制等の対象となる可能性も排除できないと考えたという事情もあったようである。

ちなみに同社はトークン発行が完了した2018年6月に新たなオープン・ソース・ブロックチェーンであるIOSIOをリリースしたが、最初に発行したトークンはイーサリアム上で機能する仕組みであり、IOSIOでは利用できない。そこでBlock.one社は、当初のEOSトークン保有者全員に同数のIOSIO上のトークンを無償配布(Airdrop)した。

Block.one社が当初発行したトークンの保有者はすべて米国非居住者のはずだが、EOSトークンは仮想通貨交換業者を通じて流通しており、米国居住者が取得した可能性は低くない。SECは、仮想通貨交換業者についても、有価証券に該当するトークン等の売買を取り扱うのであれば証券取引所またはATS(代替取引システム)としての登録を受けることが必要だと指摘しているが、米国外の仮想通貨交換業者を通じて米国居住者がEOSトークンを入手することを禁じるのは事実上不可能である。Block.one社が、IOSIO上のトークンを無償配布する行為は資金調達ではないので有価証券募集ではないと考えているとすれば、この一連の行為は、米国証券法の適用を回避するための工夫と見ることもできるかも知れない。

(注1)ただし、ドッド=フランク法413条(a)項の規定に基づいて行われたSEC規則の改正によって、2011年12月以降、この要件における純資産には自己の居住用の住宅(primary residence)の価値が参入されない点には注意が必要である。

執筆者情報

  • 大崎貞和

    大崎 貞和

    未来創発センター

    未来創発センター

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