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無登録の仮想通貨取引所を摘発した米国SEC

2018/11/19

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はじめに

2018年11月8日、米国の証券取引委員会(SEC)は、ザカリー・コーバーン(Zachary Coburn)氏に対して証券法違反行為を行わないよう求める排除命令(cease and desist order)を発出し、同氏がこれを受け入れたと発表した(注1)。コーバーン氏は、いわゆる仮想通貨の取引を行う取引所(もしくは仮想通貨交換所)であるイーサ・デルタ(Ether Delta)と称するプラットフォームを運営していた人物であり、今回の排除命令は、SECが有価証券であると判断する仮想通貨を取り扱う取引プラットフォームを無登録で運営する者に対する初の摘発事案となった。

イーサ・デルタとは

SECによれば、本件をめぐる事実関係は次の通りである。イーサ・デルタのウェブサイトは、オンライン証券取引のサイトと同じような形になっており、イーサリアム上で機能する仮想通貨であるイーサとイーサリアム上でトークンを発行するための技術規格であるERC20に準拠したその他のトークンとの交換に関する売買注文の入力と表示(最も有利な指値から500件の注文のみ)が可能となっていた。各トークンの毎日の取引量データや注文量の変化を示すグラフ、成立した取引の内容なども表示できた。

イーサ・デルタのウェブサイトは、コーバーン氏によって2016年7月12日に開設され、米国居住者を含むいかなる者でも常時アクセス可能となっていた(注2)。イーサ・デルタ上ではERC20規格に準拠したあらゆるトークンの取引が可能であったが、他方でコーバーン氏は、「公式上場銘柄」と称する500銘柄程度のトークンのリストを作成していた。トークンの売買を行おうとする者は、イーサリアム上のウォレット・アドレスを持っていることを要求され、イーサ・デルタのウェブサイト上で新たなウォレット・アドレスを開設するか既存の他のアドレスを用いるか、いずれの方法でも取引に参加できた。

トークンの売買注文は指値でのみ可能であり(注文入力者をメイカーと呼ぶ)、表示されている注文に応当しようとする者(テイカー)は、当該注文をクリックするだけで原則として売買が成立する仕組みとなっていた。イーサ・デルタは、メイカーからは手数料を徴収せず、テイカーからは取引金額の0.3%に相当する手数料を徴収していた。

コーバーン氏は、イーサ・デルタの利用者に対する情報提供や問い合わせへの回答をSNS等を用いて行っていたが、そこでは「イーサ・デルタは、高度なレベルで通常の取引所と同じように機能します」とか「他の取引所と同じように、イーサ・デルタには出された注文のオーダー・ブック(注文板)があります。」といった説明がなされていた。他方で、「あなたの資金を管理する「取引所所有者」はおりません。従って、(イーサ・デルタは)分権化されています。中央集権化された取引所は、あなたの認証された取引履歴を(公衆から認証されたスマート・コントラクトの形で)示すことはできません。」などという説明もなされていた。

SECの対応

以上のような事実認定に基づき、SECは、イーサ・デルタが「有価証券の買い手と売り手を集合させるため、またはその他の方法によって、株式取引所として一般に理解されている者により通常提供されている機能を証券に関して遂行させるため、市場の場所または施設を構成し、維持し、または提供する組織、社団または人の集合」(1934年証券取引所法3条(a)項(1))であるにもかかわらず、法令で求められる国法証券取引所または代替取引システム(ATS)としての登録を受けていない違法な無登録取引所であると断定した。

その上でSECは、コーバーン氏に対して取引所登録を求める1934年証券取引所法5条に違反する行為を将来にわたってやめるように命じるとともに、利息相当分を含め31万3千ドルの資金を没収することとした。更に、それとは別に7万5千ドルの民事制裁金を科すこととし、コーバーン氏は、法令違反の事実に対する認否を留保したまま、これらの制裁措置に同意した。

今回の措置の意義

イーサ・デルタが無登録取引所だとする見解は、同社のプラットフォーム上で取引されていたトークンの中に証券法規制に服する「有価証券」とされるものが含まれていたという事実に着目したものである。

SECは、2017年7月に公表したThe DAOによるトークン発行に関する報告書において、いわゆるICO(initial coin offering)で発行されるトークンの多くが有価証券に該当するという見解を明らかにしている(注3)。また、2018年3月には、有価証券であるトークンなどのデジタル資産の売買を取り扱う取引プラットフォームの運営は、国法証券取引所やATS、または証券ブローカー・ディーラー(証券会社)の業務に該当するという見解を明らかにし、そうした行為を無登録のまま行わないよう警告を発していた(注4)。

それを受けて7月には、米国では最大手の仮想通貨交換所を運営するコインベースが、ATS登録を視野に入れながらキーストーン・キャピタルなど複数のブローカー・ディーラーを買収したことを明らかにした。しかしながら、10月末時点でSECの登録を受けているATSのリストにキーストーンの名前は含まれておらず、かつコインベースは取引所またはATSとしての登録を目指しているとされるものの、本コラム執筆時点では登録を完了していないようである。

こうした中で実際に稼働していたトークン取引のプラットフォームが無登録取引所として摘発されたことは注目に値する。今後、コインベース等が何らかの形で有価証券とされるトークンの取引プラットフォームを合法的に運営することになるのか、あるいは既存の取引プラットフォームの多くに対して今回のような摘発行動が起こされるのか、今後の動向を注視しておきたい。

(注1) SEC, Release No.34-84553, Administrative proceeding File No.3-18888, In the Matter of Zachary Coburn, November 8, 2018.
(注2)特定の取引時間帯は設定されていなかった。なお、コーバーン氏は、2017年11月にイーサ・デルタを米国外の買い手に売却し、同年12月16日以降はイーサ・デルタからの手数料収入は得ておらず、プラットフォームの運営にも関与していない。
(注3)当コラム「仮想通貨は「有価証券」か? ~米国SECによるICOの規制~」(2017年10月6日)参照
(注4)SEC, Public Statement, "Statement on Potentially Unlawful Online Platforms for Trading Digital Assets", March 7, 2018

執筆者情報

  • 大崎貞和

    大崎 貞和

    未来創発センター

    未来創発センター

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