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無登録のICOに制裁金を科した米国SEC

2018/11/22

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無登録ICOの発行者との和解

2018年11月16日、米国の証券取引委員会(SEC)は、イーサリアムなどの仮想ネットワーク上で利用できるデジタル・トークンを発行してビットコインやイーサなどの仮想通貨によって払い込まれる資金を調達する、いわゆるICO(initial coin offerings)をSECの登録を受けずに実施した発行者2社との間で、民事制裁金の支払いなどを条件とする和解を成立させたことを明らかにした(注1)。

SECは、2017年7月に公表したThe DAOによるICOに関する報告書において、ICOで発行されるデジタル・トークンが連邦証券法の規制に服する有価証券に該当し得るという見解を明らかにした(注2)。その根拠は、ICOトークンの多くが、①資金の出資、②共同事業、③収益の期待、④収益獲得がもっぱら他者の努力によること、の4つの要件を満たす場合には有価証券である「投資契約」が結ばれることになるとする「ハウイ基準」に合致することである。

今回民事制裁金が科されることになった2つの事案も、この「ハウイ基準」に照らして有価証券であると判断されるトークンを無登録のまま多数の一般投資家に販売したことが問題視された。

パラゴン事件

その一つは、Paragon Coin, Inc. (以下「パラゴン社」という)によるデジタル・トークンPRGの発行に係るものである(注3)。

パラゴン社は、大麻の製造・販売過程にブロックチェーン技術を導入することで大麻の合法化を目指すことを目的に2017年7月に設立された会社である。同社は、大麻の製造・販売やその合法化を目指す運動についての情報集約、共同作業のためのネットワークを形成するための資金調達手段として、将来的には同社のネットワーク上でサービスや物品の購入に使えることになるパラゴン・コイン(PRG)を発行した。

PRGの販売は2017年9月15日から10月15日にかけて行われたが、それに先立つ8月15日からは「プリ・セール」と称するトークンのディスカウント販売も実施された。パラゴン社が作成したホワイト・ペーパーによれば、2億PRGのトークンが組成され、「追加の組成は行われないので流通トークンの数は次第に減少し、需要が増える」とされていた。ICOでは1億PRGが販売され、5千万PRGは将来の販売に留保され、4千万PRGは「PRGトークンの価格を維持するためにパラゴン社が管理する準備金とされ」、1千万PRGはネットワーク参加者の投票によって決められる投資先ベンチャー企業への投資資金に充てられるものとされた。

トークン発行によって集められた資金はホワイト・ペーパーに示された様々なプロジェクトを実施して「エコシステム」を構築することに充てられるとされていた。ホワイト・ペーパーでは、調達資金の「主要部分」は大麻に関連したビジネスを行う人々が共同で使用できるオフィス・スペースである「パラゴン・スペース」を設置するための不動産購入に充てられると説明されていた。このオフィス・スペースの賃借料や関連費用は、PRGトークンで支払えることになっていた。パラゴン社は、トークン発行後に実際に不動産を取得してパラゴン・スペースをオープンし、現在も使用されている(注4)。

パラゴン社は、ホワイト・ペーパーにおいて、PRGトークンの「主要な取引所」への「上場」やパラゴン・スペースに使われる建物の取得と改修を始めとする様々なマイルストーン(達成目標)を明らかにしていた。また、著名人をトークン販売の宣伝に起用し、ソーシャルメディアで積極的な情報発信を行った。パラゴン社によれば、この著名人は、同社の「諮問会議」のメンバーであった。様々なネットサイトで投資家の質問に答えるといった勧誘活動も行われた。

こうした勧誘・販売活動の結果、パラゴン社は、トークン販売によって約8,323人の投資家から1,206万6千ドル相当のビットコイン、イーサ、ライトコイン等のデジタル資産を集めた。また、少なくとも7人の投資家に対して「プリ・セール」段階でトークンを販売した。トークンは一般向けの「クラウド・セール」の終了後、10月22日に購入者に交付され、複数の取引プラットフォーム上で取引されるようになった。また、パラゴン社は、テレグラムや電子メールを用いて購入者に対する継続的な情報提供を行っている。

エアフォックス事件

もう一つの事案は、Air Foxと称して事業を営む Carrier EQ, Inc. (以下「エアフォックス」という)によるAirTokens(以下「エアトークン」という)と呼ばれるトークンの発行に係るものである。

エアフォックスは、マサチューセッツ州に本拠を置き、携帯電話会社向けに端末上で広告を見た利用者に無料あるいは割引価格でデータ通信を利用できるようにするソリューションを提供する事業を行っている。このソリューションは、「エアフォックス・ワイヤレス」と呼ばれ、現在も提供されている。

エアフォックスは、同じ技術を用いた消費者向けサービスを開始しようと考え、2017年8月前後からエアフォックス・ブランドのインターネット・ブラウザー・アプリをダウンロード可能とした。このアプリの利用者は、ブラウザー上に表示された広告を見ることで、同社が発行するイーサリアム上のデジタル・トークンであるエアトークンを取得することができ、エアトークンで複数のプリペイド携帯電話会社のデータ通信を一定時間無料で利用することができるものとされた。エアフォックスは、携帯電話会社からバルクで通信時間を買い取り、エアトークン支払い者に利用させることで、この仕組みを実施可能にしようとしたのである。

上記のようなビジネス・モデルを前提としながら、エアフォックスは、2017年8月から10月にかけてエアトークンのICOを実施した。この際に作成・配布されたホワイト・ペーパーやブログ等に投稿された情報では、エアトークンが将来は自社のアプリ以外でも利用できるようになり、携帯電話会社のデータ通信以外の物やサービスの購入に充てられることなども述べられていた。このICOにおいて、エアフォックスは、2,500人以上の投資家に対して10.6億エアトークンを販売し、約1,500万ドル相当の資金を調達した。

エアフォックスは、ICOにあたって購入者が「エアトークンを購入することは携帯電話によるデータ通信と交換できるユーティリティを購入することであり、投資や有価証券の購入ではない」ということに同意することを条件としようとしていたが、実際にはICO時点では、そうした条件を付す機能は働いていなかった。また、ICO時点ではエアフォックス・アプリはプロトタイプの段階であり、利用者は携帯電話会社のデータ通信時間に交換できるポイントを取得できるだけだった。つまり、エアトークンを購入した投資家は、当該トークンを実際にデータ通信時間と交換することはできず、将来のエアフォックスによる経営努力を通じてエアトークンの価値が上昇するという期待だけからトークンを購入したのである。

エアフォックスがICO時に提示した情報では、トークンを購入するためにイーサなどの仮想通貨を払い込む投資家は「エアトークン・プロジェクトの発展」、すなわちホワイト・ペーパーに描かれたエアトークンを主軸とするエコシステムの形成に貢献するのだと説明されていた。ホワイト・ペーパーでは、エアフォックスがエアトークンの価値を維持するためにとる措置やエアトークンの取引可能性についても述べられていた。とりわけ後者については、ICO完了前の2017年9月4日時点で、既にデジタル・トークンの取引プラットフォーム上で取引が可能になる旨の公表も行われていた。

SECの対応

以上2つの事案のいずれについても、SECは、①トークンの有価証券登録を受けるための登録届出書を提出する、②トークン購入者に対して資金返還請求フォームを配布して返還請求を受け付ける、③1934年証券取引所法で求められる継続情報開示を少なくとも1年以上行う、④それぞれ25万ドルの民事制裁金を支払う、という要件で和解を成立させた。

今回公表された2つの事案は、明らかに詐欺的とまでは言い切れないICOに関して、民事制裁金の賦課という厳しい制裁を科した初めての例であり、私募など法定の登録免除要件に該当しない無登録のトークン発行・販売に対して厳しい姿勢で臨むというSECの姿勢を改めて浮き彫りにしたものと言えるだろう。

またSECは、今回の事案に関する声明において、2つの事案における和解内容は、過去にICOを実施した発行者で連邦証券法の規制を遵守したいと考える者にとっての手本となると述べており、他のICO実施者が投資資金の回収を求める投資家へ資金返還や発行したトークンの登録と継続情報開示の実施などを自主的に進めることへの期待をにじませている。

(注1)SEC, Press Release, "Two ICO Issuers Settle SEC Registration Charges, Agree to Register Tokens as Securities", Nov. 16, 2018.
(注2)当コラム「仮想通貨は「有価証券」か? ~米国SECによるICOの規制~ 」(2017年10月6日)参照
(注3)SEC, Release No. 33-10574, Administrative Proceeding File No.3-18897, in re Paragon Coin, Inc., November 16, 2018.
(注4)パラゴン社のプロジェクトは、大麻関連ということで、かなり怪しげではあるが、実際に共同オフィス・スペースが開設・運営されているという点は、ホワイト・ペーパーに記された「プロジェクト」を一切実施せず、調達した資金を関係者の私的な支出などに費消してしまう明らかに詐欺的なICOとは異なっているように思われる。

執筆者情報

  • 大崎貞和

    大崎 貞和

    未来創発センター

    未来創発センター

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