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米政府の航空会社救済策と日本への示唆

2020/04/20

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雇用維持が条件の航空会社向け支援

国際航空運送協会(IATA)は4月17日に、新型コロナウイルス対策で各国が国境を閉じ、渡航者を強く規制する中、世界の航空会社が大量に破綻することを回避するためには2,000億ドル(約21.8兆円)が必要になる、との見通しを発表した。

一方、トランプ米政権と米議会は3月27日に、2.3兆ドルの大型経済対策「CARES法」をまとめている。その中には、大手企業を含む航空会社支援も盛り込まれた。支援規模は総額で500億ドル(約5.4兆円)であり、そのうち250億ドルが融資、250億ドルが補助金である。それとは別枠で、貨物航空会社向けの支援として80億ドルも計上された。

このように、新型コロナウイルス問題で大きな打撃を受けている大手航空会社の救済に向けて、米政府、米議会は迅速に動いたように見える。ただし実態は、航空会社にとってかなり厳しい条件での支援となっており、政府による大企業支援の難しさを浮き彫りにしている。

250億ドルの補助金は、雇用維持のための補助金である。政府から補助金を受け取る条件として、航空会社は従業員のレイオフや一時帰休が10月まで禁止される。

政府は支援と交換で新株予約権(ワラント)を取得

他方、新型コロナウイルス問題で航空会社の乗客数が95%以上減少しているが、原則、一定の路線と便数を維持することが支援を受ける条件となっている。需要がほとんど存在しない路線も運航を継続しなければならないのである。

さらに米財務省は支援の条件として、補助金の30%は返済し、その10%に相当する新株予約権(ワラント)を発行することを各社に求めている。ワラントとは、あらかじめ決められた価格で好きな時に株式を購入することができる権利のことを言う。

政府は当初、航空会社に対する支援と交換に、政府が株式を取得する考えを示していた。しかし、政府の経営への関与が強まり、それがいずれ雇用削減につながることなどを警戒する労働組合の反対等もあり、最終的には、株式ではなくワラントを受けることで決着した。しかし、将来的にはその権利を行使して、政府が航空会社の株式を取得する可能性は残される。

国が株式を取得する形での救済も

このように、米政府が航空会社に対する支援の見返りに、多くの条件を突きつけたのは、大企業を税金で救済することに対する国民の強い反発を意識したためだ。

リーマン・ショック後の大銀行救済は、後に国民からの強い反発を招いた。当時は、過大な投資を行ってリーマン・ショックを引き起こした責任のある銀行を、国民の税金で救済することに抵抗を持つ人が多かった。

今回は、航空会社の経営不振は航空会社の責任ではなく、新型コロナウイルス問題と、それを受けた各国の渡航制限によるものだ。それでも、航空各社が過去数年は利益の多くを自社株買いに回し、株主の利益を高めることに注力してきたことが批判されている。

このように、中小・零細企業への政府支援と比べると、大企業への支援は国民の反発を招きやすく、政策としての難度が高まるのである。それは、日本についても同様だろう。日本でも大企業の資金繰り問題は既に表面化してきている(当コラム「増加する大手企業のコミットメントライン要請」、2020年4月13日)。政府による大企業支援策の強化は不可避だろう。

国民の税金を使って大企業を救済することの見返りに、国民は政府に対して、支援するだけで終わらずに、国民の税金が無駄にならないように、対象企業をしっかりと改革して立て直すことを求める。その手段として、米国で検討されているように、国が対象企業の株式の一部を取得することで経営に関与し、経営の改善に圧力をかけ続けることが国民に期待されやすい。 そのため、日本でも、株式買入れの形で政府が大企業を支援する例が、今後は出てくるのではないか。

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