4月に入り大手企業で融資枠設定が急増
新型コロナウイルスの問題で、総じて売り上げが大きく落ち込むなか、大手企業の間では、手元資金を確保する動きが目立ってきた。その代表的な手段が、銀行からの融資枠(コミットメントライン)を設定することだ。
融資枠の設定とは、銀行が予め契約した期間と金額の範囲内で、企業が必要な際に、銀行が企業向け融資を行うことを約束(コミット)する契約のことだ。短期の運転資金など、緊急時の資金調達が原則である。企業は、金利とは別に手数料を銀行に支払う必要がある。
企業が銀行に対して融資枠設定を要請したからといって、それは企業の資金繰りが行き詰まっていることを必ずしも意味するものではない。先行きの安定的な資金確保のための、予防的措置であることが多い。
報道によって確認されるところでは、4月に入ってからごく短期間のうちに、銀行から融資枠設定を受ける、あるいはそれを要請している大手企業が急増している。報道された内容は、以下の通りである。
政策投資銀行の「危機対応融資」制度活用の動き
民間銀行との間での融資枠設定は、純粋に民間ベースでの契約だ。しかし、企業の信用力が低下すると、民間銀行も信用リスクをより配慮して融資枠設定に慎重になることから、政策系金融機関にも支援を求める必要が出てくる。
それが、上記の例で言えばANAと日産自動車ではないか。政策投資銀行に対して、「危機対応融資」と呼ばれる枠組みを使った融資を求めているとみられる。政策投資銀行が協調融資、あるいは協調融資枠設定に加わることで、いわば信用補完がなされ、民間銀行からの融資・融資枠設定がより促されるのだろう。
「危機対応融資」は、災害や金融危機などによって一時的に経営難に陥った企業に対して、日本政策投資銀行など政府系金融機関や、国が指定した民間金融機関が低利で融資する制度のことだ。
高まる政府による大企業救済の可能性
さらに事態の緊迫化を意識させるのは、ANAを含む航空業界が、民間企業からの融資に政府保証をつけることを要請していると見られることだ(「ANAなど航空支援、異例の「政府保証」波紋、緊急需要、線引き難しく。」、日本経済新聞、2020年4月8日)。政府に直接信用力を補完してもらわないと、銀行からの融資が十分に得られない懸念が出てきたということだろう。
また、新型コロナウイルスの感染拡大で影響を受けた大企業の財務基盤を強化するために、政府が日本政策投資銀行の「特定投資業務」を活用して1千億円程度を出資する案を検討していることも、報道により明らかになった。政投銀などの資金も合わせた全体の投融資の規模は、総額4千億円程度になる見通しだ(当コラム「 政府は大企業支援に出資の枠組みを構築へ 」、2020年4月3日)。
このように、大手企業の資金繰り問題は、総じて悪化の度を強める方向にあり、その中で、政府政府が大手企業を救済する必要性が高まってきているように見える。
他国と比べ大企業向け支援策の存在感は未だ薄い
米国では、3月に成立した経済対策で、利用客が激減した大手航空会社などの企業支援に5千億ドル(約54兆円)が充てられた。ドイツでは、大企業支援を中心とする6千億ユーロ(約70兆6,800億円)の「経済安定化基金」が創設した。フランスでは、経営が悪化した航空、自動車産業などの基幹企業で、資本注入や国有化などの公的支援の必要性が想定される企業について、政府は「約20社のリストを作成した」としている。
こうした海外での大企業支援の動きと比較すると、7日に閣議決定された日本の経済対策の中で、大企業向け支援策の存在感は未だかなり薄い。
しかしこの先、政府はいや応なしに、大企業支援に向けた対応を強いられることになるだろう。近年は、大企業は大きな利益を上げる一方、それを内部留保に回し、労働者に十分に分配してこなかったとの見方は、国民の間で広く共有されているだろう。こうした中、政府が公的資金、つまり税金を使って大企業を救済すれば、国民からの反発を受けやすい。
こうした点から、大企業救済の場合には、支援の基準を中小・零細企業の場合と比べてより詳細に国民に示すことを求められるなど、政策としての難度がより高まることは間違いない(当コラム、「 日本も大企業救済の局面に入っていくか 」、2020年4月2日)。
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