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緊急事態宣言発令と経済政策見直しの必要性

2021/01/07

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再びマイナス成長で失業率は4%台が視野に

政府は7日夜に緊急事態宣言の発令を正式に決定する。対象区域が1都3県、期間が1か月となるが、いずれ対象区域は拡大され、期間も延長される可能性を考えておく必要があるだろう。

現時点では、宣言は対象区域が1都3県を対象にして2か月間続くことをメインシナリオと考えておきたい(コラム「緊急事態宣言発令の論点と成長率3つのシナリオ」、2021年1月6日)。それによって、今年1-3月期の実質個人消費は前期比年率で13.1%押し下げられ、1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率で7.5%押し下げられる計算だ。ちなみにその場合には、失業者数は44.2万人増加し、失業率は0.64%上昇する計算となる。失業率は年内にも4%台が視野に入ってくるのではないか。

政府による特別貸出、持続化給付金、家賃給付金、雇用調整助成金などの各種制度によって、コロナショック後も企業の倒産件数は比較的低位に収まってきた。しかし、今回の緊急事態宣言の発令は、前回に比べて企業の倒産、廃業の増加に直結しやすいだろう。特に、早期の感染収束に期待して、今まで借入を拡大させつつ事業をなんとか維持してきた飲食業、宿泊業などでは、事業継続をあきらめて廃業を決める企業が多く出てくるだろう。その結果、雇用情勢も悪化するのである。

消費減少の悪影響は飲食業にとどまらずより幅広い業種に

直接的な個人消費の減少効果は、上記のメインシナリオでは前回春の非常事態宣言時の44.6%と考えられる。しかし、間接的な個人消費の減少分は前回を上回るのではないか。企業の破綻がより増える見通しであることが、その理由の一つであるが、それに加えて、全体の所得環境が前回よりも悪化していることで、個人消費の基調が脆弱になっていることが挙げられる。雇用情勢の悪化が所得の悪化につながるまでには一定の時間がかかる。コロナショックによる所得の悪化は、昨年年末の冬のボーナスの大幅な落ち込みでまず顕在化した。そして、今春の春闘でより明確になるだろう。

このような、雇用・所得環境の悪化を受けて、消費者は全体的に消費を抑制するようになる。その結果、間接的な個人消費の減少分は前回を上回るのである。直接的な消費減少によって大きな打撃を受けるのは、飲食業、宿泊業などであるが、間接的な消費減少はより幅広い業種に悪影響を与える。特定業種から幅広い業種へと悪影響が広がりやすいのが、今回の特徴となろう。

企業・雇用者の支援策を再度点検して強化を

このような経済環境のもとで政府は、企業の経営、国民の生活をしっかりと支援する施策を改めて強化することが重要だ。政府は休業・時短要請に応じた店舗に対して支払う協力金を、最大で1日4万円から6万円に増額すること、対象を事業者単位から店舗単位に広げることを検討していると報じられている。その8割を国が負担する見通しだ。他方で政府は、中小企業支援の「持続化給付金」、「家賃支援給付金」は15日の期限で申請の受付を終える予定だが、再給付も検討されているという。

緊急事態宣言が再発令される事態に至ったことから、政府は、今までの持続化給付金、家賃支援給付金が企業経営の継続に十分であるかを再度検証し、必要に応じて措置の延長や増額を検討すべきだ。特に打撃が大きい旅行関連業と飲食業に対しては、休業・時短協力金に加えて、よりきめの細かい支援方法を別枠で検討すべきではないか。

コロナショックの発生直後には、特別貸出金制度で企業に流動性を提供することを通じて破綻を回避する施策が中心であった。しかし現在では、企業の債務を増やさない、返す必要がない給付金、助成金による支援が中心であるべきだ。

さらに、雇用を維持するため、また休業手当も受け取ってない隠れ休業者を救済するために、雇用調整助成金制度、休業支援金制度が十分に機能しているのか、再度点検をすることが必要な局面だ。

また、病院の経営環境の悪化が、コロナ患者の受け入れ拡大を阻んでいる面がある。コロナ患者を受け入れることは、設備費や人件費の追加的な増加をもたらす一方、通常患者の受け入れ、手術の実施を妨げることで、収入の減少に繋がるためだ。コロナ患者に対応した医療体制の拡充には、民間病院を中心に、補助金などで病院の経営を支えることも重要だ。

局面変化に合わせた経済政策の大幅見直しを

このような施策を講じれば、相応規模での追加の財政支出が発生するだろうが、それは、今は必要なことだ。将来の財政環境悪化、将来世代の負担増加につながらないよう、財源確保の議論は進める必要はあるものの、現時点で必要な支出は躊躇うべきではないだろう。

ところで、昨年末に政府が閣議決定をした3次補正予算には、新型コロナ対策に4.4兆円が計上されたが、それ以外にポストコロナの経済構造転換などに11.7兆円、国土強靭化対策などに3.1兆円が計上された。本来、補正予算は事前に予期できなかった緊急の支出などを計上するものだが、緊急である新型コロナ対策は全体の2割強に過ぎない、と言う点で大いに問題だ。

ポストコロナの経済構造転換には、企業の業種転換やM&Aを支援する施策が含まれている。これらは、産業構造の円滑な転換を促し、ポストコロナの政策としては非常に重要なものである。しかし、現状はポストコロナを展望する局面から、再びコロナ問題の最中へと逆戻りしてしまったのである。局面が変われば、それに合わせて政策の中身を大きく見直すのは当然のことだろう。

3次補正予算には、企業の業種転換やM&Aを支援する施策以外にも、脱炭素化策、デジタル化策、そして国土強靭化策も含まれている。これらは緊急性のある支出ではなく、2021年度当初予算、あるいはそれ以降に計上するのが妥当だろう。

環境変化に合わせて、経済対策を含む3次補正予算2021年度予算の一部の中身を大きく組み換えた上で、当面は感染対策に最大限注力するよう、政府には期待したい。

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