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緊急事態宣言対象拡大の経済効果と解除の条件

2021/01/12

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緊急事態宣言の対象区域拡大の経済効果

政府は1月7日に新型コロナウイルス特別措置法(以下特措法)に基づく緊急事態宣言を決め、8日に施行した。対象区域は東京都と神奈川県、千葉県、埼玉県の4都県で、期間は2月7日までの1か月間だ。

しかし感染は、首都圏4都県以外でも急拡大している。9日には、大阪府、京都府、兵庫県の関西3府県が、緊急事態宣言の発令を政府に要請した。政府は13日にも、これらの地域を対象に加える決定をする見通しと報じられている。さらに、愛知県と岐阜県も、緊急事態宣言の発令を政府に要請する見通しだ。

仮に大阪府、京都府、兵庫県の関西3府県が新たに対象に加わると、対象となる地域は経済規模(所得)で全国の35.0%から47.5%にまで拡大する。

以下では、緊急事態宣言の対象拡大の経済効果を推計してみよう。筆者は緊急事態宣言の消費減少効果を、不要不急の消費が失われるとの前提で従来計算してきた。しかし、やや過大推計の恐れがあることから、昨年1-3月期のGDP統計の個人消費の実績値から推計する形へと修正する。

首都圏4都県と関西3府県が1か月間の緊急事態宣言の対象となる場合、より広範囲かつより長期間宣言が発令された昨年4・5月と比べて30.3%、つまり3割分の経済活動量に悪影響を与えることになる。他方、昨年1-3月期の名目個人消費の減少分を緊急事態宣言の影響と仮定した場合、合計7都府県の緊急事態宣言で失われる個人消費は1.9兆円となる。それは1年間の名目GDPの0.34%に相当し、失業者を31.8万人増加させ、失業率を0.46%上昇させる計算となる。

さらに、愛知県と岐阜県も対象に加わる場合には、対象となる地域は経済規模で全国の55.5%と半分を超える。9都府県が1か月間の緊急事態宣言の対象となる場合、昨年4・5月と比べて35.4%の経済活動量に悪影響を与えることになる。他方、昨年1-3月期の名目個人消費の減少分を緊急事態宣言の影響と仮定した場合、合計9都府県の緊急事態宣言で失われる個人消費は2.2兆円となる。それは1年間の名目GDPの0.39%に相当し、失業者を37.1万人増加させ、失業率を0.54%上昇させる計算となる。

対象区域は全国に広がるか

しかし、緊急事態宣言の対象はさらに拡大し、また、その期間も延長される可能性が高いのではないか。そこで、期間は全体で2か月に及び、最初の1か月間の1週目は首都圏の4都県、2週目からは関西3府県と愛知県、岐阜県が加わって9都府県となり、さらに次の1か月間の対象は全国に及ぶという前提で計算すると、昨年4・5月と比べて96.1%の経済活動に悪影響を与えることになる。そして、緊急事態宣言で失われる個人消費は6.1兆円となる。

それは1年間の名目GDPの1.09%に相当し、失業者を100.8万人増加させ、失業率を1.46%上昇させる計算となる。これが、現時点での筆者のメインシナリオである。

昨年春の緊急事態宣言対象区域の変遷

昨年春に緊急事態宣言が発令され、そして解除された際には、以下のような経緯を辿った。

  1. 2020年4月7日に東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県を対象区域に緊急事態宣言が発令された
  2. 4月16日に対象区域は全国に拡大。当初から宣言の対象とした7都府県に、北海道、茨城、石川、岐阜、愛知、京都の6道府県を加えた13の都道府県が、特に重点的に感染拡大防止の取り組みを進めていく必要があるとして、「特定警戒都道府県」と位置づけられた
  3. 5月14日に北海道・東京・埼玉・千葉・神奈川・大阪・京都・兵庫の8つの都道府県を除く、39県で緊急事態宣言を解除することが決定された
  4. 5月21日には、大阪・京都・兵庫の3府県について、緊急事態宣言を解除することが決定された
  5. 5月25日には首都圏1都3県と北海道の緊急事態宣言が解除された

昨年は対象区域を変えながら、緊急事態宣言は1か月半強続いた。また、当初、7都府県を対象に宣言が発令されてから僅か9日後には、対象区域は全国へと拡大した。感染は大都市部から地方部へと拡大していく傾向があることを踏まえると、今回も、対象区域は段階的に全国レベルにまで広げられる可能性が考えられる。

宣言解除の条件は妥当か

政府は6つの指標に基づいて感染状況のステージを判断し、最も深刻なステージ4からステージ3に改善することを、宣言解除の条件とする方針だ(コラム「緊急事態宣言発令の論点と成長率3つのシナリオ」、2021年1月6日)。宣言解除の際には、病床使用率、療養者数、陽性率、1週間の感染者数、感染者数の前週比、感染経路不明者の割合の6指標に基づく総合判断となるが、その際に最も重視されるのは1週間の感染者数だという。1週間の人口10万人あたりの新規感染者数25人以上がステージ4となるが、東京都がステージ4を脱するためには、1日約500人程度未満まで新規感染者数が低下する必要がある。

ところで、昨年春に政府は、1週間の人口10万人あたりの新規感染者数が0.5人程度以下となることを、緊急事態宣言の解除の条件としていた。それは東京都の場合には、1日10人程度に相当する。前回と比べて今回は、1週間の感染者数で実に50倍の水準まで、解除の条件が緩められているのである。

昨年の経験は、新規感染者数が減少した後に緊急事態宣言を解除すれば、新規感染者数の減少傾向が止まって一定程度の水準に落ち着くのではなく、再び増加しやすくなるということを示している。この点から、緊急事態宣言解除の条件となる新規感染者数の水準は、十分に抑制されたと考えられる水準よりも、かなり低い水準に設定しておく必要があるのではないか。それが、昨年の50倍の水準というのは果たして妥当だろうか。

東京都では、1日の新規感染者数が2,000人台に達した現状から、政府が緊急事態宣言解除の目途とする1日500人程度まで感染者数を抑え込むまでにはかなりの時間を要しようが、それ以下の水準に抑制されるまで、緊急事態宣言を続ける必要があるのではないか。拙速に緊急事態宣言を解除すれば、感染者数が拡大し、再び緊急事態宣言の発令に追い込まれるという事態が繰り返される。そうなれば、社会の混乱はより増幅されるだろう。

政府には、緊急事態宣言を拙速に解除せず、宣言の長期化を覚悟した上で、今回の宣言が確実に最後となるよう、粘り強く感染抑制に取り組んで欲しい。

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