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米国のグローバル最低法人税率導入提案を受け入れるG20

2021/04/08

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米国がG20にグローバル最低法人税率導入を提案

G20(主要20カ国・地域)財務相・中央銀行総裁は4月7日に、テレビ電話会議を開催した。そこで、GAFAなどグローバルIT企業の税逃れを封じ、また、コロナ対策によって急速に悪化した各国の財政基盤の回復を助ける観点から、法人税に世界共通の最低税率を導入するルールづくりで「2021年半ばまでに解決策に至るよう引き続き取り組む」ことで合意した。

世界共通の最低税率を導入するという案は、米国のイエレン財務長官がG20会合の直前の5日に明らかにしたものだ。その際にイエレン財務長官は、「法人税率の引き下げ競争に歯止めをかけられるような共通の最低法人税率導入に向け、主要20カ国・地域と話し合っている」と語っていた。このことは、政権交代と共に、米国政府が国際協調路線に回帰したこと、さらにリーダーシップを発揮し始めたことを印象付ける結果となった。

GAFAなどグローバルIT企業が、税逃れのために税率の低いタックスヘイブン(租税回避地)の国に本社や中核設備を移すことに歯止めをかけるため、新たな国際デジタル課税制度を導入することが、経済協力開発機構(OECD)を主な舞台にして、長らく続けられてきた。課税対象を本社やサーバーなど中核設備の所在地ではなく、売上高ベース等とするなどの主流の案に対して、トランプ前政権は、それを骨抜きにする「セーフハーバー」提案(国際課税上の新ルールを受け入れるかどうかは企業自身が選択できるとする案)をしてきた。

しかし、バイデン政権は、その提案を取り下げることを表明した。そこで、デジタル課税制度がようやく創設される展望が開けてきた。さらに、それに関連して、グローバル最低法人税率の導入も視野に入ってきたのである。

法人税率の引き下げ競争に終止符を

しかし、税率の低いタックスヘイブンの国々は、グローバル最低法人税率の導入に強い反発を示すのではないか。代表的な租税回避地とされるのは、スイス、シンガポール、香港、キプロス、バハマ、ケイマン諸島、バージン諸島、ジャージー島などだ。これらは、いずれもG20に含まれていない。G20がグローバル最低法人税率の導入で合意しても、タックスヘイブンの国々がそれを受け入れるかどうかは明らかではないだろう。

他方、G20がイエレン財務長官のグローバル最低法人税率の導入を受け入れる方向であるのは、グローバルIT企業の税逃れを封じる狙いだけではない。グローバル企業の誘致に加えて、自国企業の国際競争力向上を狙って法人税率の引き下げ競争を続けた結果、各国での税収基盤が脆弱になってしまったという面がある。それは、コロナ対応による財政出動によって、より浮き彫りになったのである。

消耗戦ともなっている法人税率の引き下げ競争に終止符を打ちたい、という思いはG20の多くの国が持っていたのだろう。それがゆえに、イエレン財務長官の提案が短期間で受け入れられたのである。英国も3月に、法人税率を現行の19%から2023年度以降、25%へと引き上げる方針を発表している(コラム「東日本大震災後の復興特別税とコロナ対策の財源議論」、2021年3月10日)。

米国は引き続き自国の利益も重視

バイデン政権の成立は、米国の国際協調路線への回帰とリーダーシップの回復につながってきている。グローバル最低法人税率の導入に向けた動きは、米国での左派政権の成立が、米国内に留まらず、世界全体の所得配分に大きな影響を与える可能性を印象付けるものだ。

ただし、イエレン財務長官によるグローバル最低法人税率導入の提案は、バイデン政権が2兆ドル規模のインフラ投資計画の財源として、米国の法人税率を21%から28%に引き上げるという提案をした直後に出てきた点は見逃せないところだ(コラム「バイデン政権巨額インフラ投資計画の意義と課題」、2021年4月2日)。

米国での法人税率引き上げによって、米国企業の海外移転が加速することをバイデン政権は恐れている。グローバル最低法人税率の導入は、そうしたリスクを軽減させるものとなるのである。この点から、米国によるグローバル最低法人税率の導入の提案も、自国の利益と深く関わっていると見るべきではないか。

グローバル最低法人税率の導入の提案について、米国の国際協調路線への回帰とリーダーシップの回復を裏付けるものと称賛するばかりでなく、日本を含め他国は、米国の自国の利益に基づく政策意図に、引き続き目を光らせておく必要があるだろう。

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