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デジタル・アーティストとNFT市場成長の潜在力

2021/04/20

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期待されるNFT市場の拡大

年初からの価格高騰で、バブル状態にあるとの指摘もされる中、NFT市場の拡大は世界規模で続いているようだ。NFT とは、「Nonfungible Tokens(非代替性トークン)」の略で、仮想通貨(暗号資産)に用いられているブロックチェーン(分散型台帳技術)を利用したデジタル資産を指す(コラム「デジタル資産『NFT』もバブルの様相」、2021年4月6日)。NFTのほとんどは、「イーサリアム」と呼ばれるブロックチェーンの「ERC721」という規格に基づいて発行、取引されている。

NFTは仮想通貨(暗号資産)とデジタル作品とが融合したイメージだが、ウェブサイトの「ノンファンジブル・ドットコム」によれば、米国でのNFT市場の規模は現在2億5,000万ドル程度だという。仮想通貨(暗号資産)市場全体の規模が2兆ドル超とされる中(coinmarketcap.com)、その規模はまだまだ相当小さい。それゆえに、この先規模が拡大していく余地は大きい、との見方もある。

NFTが知られるきっかけとなったのは、2017年後半に公開された「クリプトキティーズ」というゲームだったという。これは、バーチャルなネコを購入して独自のネコを育てるゲームだ。自分で育てた唯一無二のネコをつくり出し、それを、NFTを利用して売買できるようにしたのである。

NFTへの関心を高めるデジタル・アーティスト

しかし、NFTが本格的に注目を浴びるようになったのは、今年2月以降のことだ。象徴的な取引が3つある。2月には、「ニャンキャット」というアニメ画像のNFTが50万ドルを超える価格で売れた。3月11日に、大手オークション会社クリスティーズで、「ビープル」という名義で活動するアーティストがNFT化して売りに出した5,000点のデジタル画像を合成して作ったコラージュ作品が6,930万ドルで落札された。また3月には、米ツイッターのジャック・ドーシーCEO(最高経営責任者)が2006年3月に投稿したツイートが、291万ドルで落札された。

これらを受けてNFT市場はバブルとの指摘がなされるようになった。しかし、NFTの知名度が高まる中で、NFTのメリットもコレクターに理解されるようになっていった。それは、デジタル作品の真贋の証明書が改ざんされないことである。通常の美術作品であれば贋作が出回り、紙ベースの作品の証明書が偽造される。これが、コレクターに作品の購入を慎重にさせ、市場の拡大を妨いでいる面があるだろう。

他方、作品を生み出すアーティイストにとっても、デジタル作品が違法に複製されなくなることは望ましいことだ。さらに、NFT市場を通じて収入を得る道が拡大することは、若いデジタル・アーティストを助けることにもなる。

作品のスマートコントラクトにロイヤルティー条項を埋め込めば、自身の作品をNFTとして販売した際に収入を得るだけでなく、その作品が再販された場合に、そのたびごとに一定の取り分を受け取るよう設定できるのである。

このように、デジタル・アーティストにとって、NFTは利用価値が高いものであり、今後も市場は広がっていくだろう。実際、米国では、多くのデジタル・アーティストがNFTへの関心を高め、そこで作品販売を始めているという。

価格下落という市場の洗礼を受けるか

NFT市場が順調に拡大する中でも、価格については、なおボラティリティが高い状況が続く可能性があるだろう。NFTで取引されるデジタル作品は、「唯一無二の一点物」というのが価値の源泉である。そこに高い価値を見出すのは、マニアのコレクターだ。NFTのデジタル作品はブロックチェーン上では不当にコピーされないが、そこを離れれば、ネット上にほぼ同じものが出回っている可能性がある。それは、現物と変わらない。従って、マニアのコレクターでない人にとっては、NFTのデジタル作品の価値は曖昧なものと言えるだろう。価値が曖昧な物の価格は変動しやすいのである。

問題は、コレクターでない個人投資家が、ビットコイン、SPAC(特別買収目的会社)株などと横比較しながら、NFTのデジタル作品を多く購入していることだろう。彼らはデジタル作品の価値には関心はなく、価格が上がって利益を上げることにのみ関心を持つのである。そうして形成された価格は不安定であり、しばしば異常に高騰しやすい。

デジタル作品から乖離して高騰した価格は、ビットコイン、SPAC株などと同様に、どこかの時点で、金融緩和期待の後退や長期金利上昇などをきかっけに、一斉に調整を始める可能性があるだろう。

NFTは一度大きな価格下落という市場の洗礼を受けた後に、本格的にデジタル作品を支える市場として息の長い成長軌道に入っていく可能性があるのではないか。

(参考資料)
"Artists Jump Into NFTs, Seeing a Digital Bonanza", Wall Street Journal, April 7, 2021
"Hollywood Taps Into NFT Frenzy With Deal for Aku Character", Wall Street Journal, April 19, 2021
「ブロックチェーン技術の新展開「NFT」が、これほど盛り上がっている訳」、ニューズウィーク日本版、2021年4月15日

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