フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 より強い措置を伴う3回目の緊急事態宣言とその経済への影響

より強い措置を伴う3回目の緊急事態宣言とその経済への影響

2021/04/23

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

3回目の緊急事態宣言発令

23日に政府は、3回目の緊急事態宣言を発令する。対象は東京、大阪、京都、兵庫の4都道府県となる。20日から21日にかけてそれぞれの地域が、政府に発令を正式要請した。関西地域は足並みを揃えたが、関東圏では神奈川、千葉、埼玉が加わらず、足並みが乱れた形だ。

発令の期間は4月25日から5月11日までの17日間となる。飲食店に午後8時までの時短要請、酒類提供やカラオケ設備を持つ飲食店に休業要請、Jリーグ、プロ野球などイベントの原則無観客化、百貨店、ショッピングセンター、量販店、映画館など1000平方メートルを超える大型施設に休業要請、鉄道・バスの平日終電繰り上げと週末休日の減便依頼、不要不急の外出自粛要請など、かなりの広範囲にわたる。

3月21日に2回目の緊急事態宣言が解除されてから1か月に満たないこの時期に、政府が3回目の緊急事態宣言の発令に追い込まれる。このことは、2回目の緊急事態宣言とそれに続くまん延防止等重点措置が、感染拡大を抑え込むのに十分に機能しなかったということを裏付けている。さらに足元での感染拡大には、感染力が高く、重症化のスピードが速いなど、従来型よりも強さを増した変異ウイルスの影響が大きい。より強力になった新型コロナウイスルに対しては、従来以上により強力な措置を講じなければ、その感染拡大を抑え込むことはできない。

幅広い業種への時短要請などより厳しい措置

2回目の緊急事態宣言とそれに続くまん延防止等重点措置は、飲食業の時短要請に絞った対策、との印象が強い。これは菅政権の戦略に基づいたものだろう。しかし実際には、対策を飲食業の時短要請に絞ったことが、感染抑制効果を十分に発揮できない大きな原因の一つになってしまったのではないか。感染のリスクが高いのは、決して夜の飲食時だけではない。

昨年の1回目の緊急事態宣言時と比べて、全体的に人出は抑えられていない。夜の飲食に限らず、人々の外出を促す多くの企業の活動に関しては、幅広く時短や休業要請を行う必要があるだろう。

この点は、大阪府知事、東京都知事らは十分に認識しており、3回目の緊急事態宣言ではより広範囲で厳格な対策を主張していた。

こうした知事らの意見に押されて、経済活動への悪影響を警戒する政府も、2回目の緊急事態宣言やまん延防止等重点措置よりも格段に厳しい措置の適用を受け入れたのだろう。

6,990億円の経済損失

東京、大阪、兵庫、京都の4都府県で緊急事態宣言が発令される場合の経済損失を試算しよう。4月25日から5月11日までなど17日間で、関西3府県での経済損失は2,880億円、1年間のGDPに対する比率は0.05%となる。東京都での経済損失は、4,110億円、1年間のGDPに対する比率は0.07%となる。合計の経済損失は6,990億円で1年間のGDPに対する比率は0.13%となる。また、失業者を2,770万人増加させる(図表)。

過去の緊急事態宣言による経済損失の試算値を振り返ると、第1回目が6.37兆円、第2回目が6.28兆円(コラム、「拡大されるまん延防止措置の経済損失」、2021年4月9日)である。他方、4月5日から始まり5月5日まで続くまん延防止等重点措置による経済損失の試算値は、5,540億円である(一地域は緊急事態宣言に転換するため、その影響を除く。他方、愛媛県(松山市)を新たに適用対象に加え、宮城県・沖縄県の適用期間を延長した効果を含む)。

3回目の緊急事態宣言の経済損失は、現時点では1回目、2回目よりも小さく、まん延防止等重点措置による経済損失をやや上回る程度だ。

「景気の三番底」の可能性も

しかし、3回目の緊急事態宣言は、過去2回と同様に対象区域のさらなる拡大や期間の延長がなされる可能性が高いだろう。緊急事態宣言が4都府県で17日間の期限で終わる可能性の方が小さいのではないか。

仮に4都府県に首都圏の3県が加わる7都府県で2か月の緊急事態宣言となれば、経済損失は3兆8,640円まで膨らむ。まん延防止措置の影響を加えれば4兆4,4180億円にまで達し、2回目の緊急事態宣言の経済損失額に近付く(図表)。

3回目の緊急事態宣言は、2回目の緊急事態宣言やまん延防止等重点措置と比べて、明らかにより強力な措置が講じられる。それは、感染抑制効果を高めると同時に、経済活動も強く抑制することになるはずだ。

飲食業だけでなく、百貨店などの小売業、映画館・演劇・スポーツなどのアミューズメント関連、宿泊業など旅行関連など、接触型サービスを中心に幅広い業種の企業売り上げに大きな打撃を与えるだろう。その結果、零細企業を中心に、倒産、廃業の動きが広がり、雇用情勢も悪化する可能性が高い。緊急事態宣言の対象区域と期間がさらに拡大していけば、4-6月期の実質GDP成長率が2四半期連続でマイナスとなる、いわば「景気の三番底」の可能性も出てくる。

それでも、変異ウイルスによって強力化した新型コロナウイルスの感染を抑制するには、かなり強力な措置が必要だ。政府は、規制の対象を拡大するのと並行して、経済的支援の対象と規模を拡大することが早急に求められる。

(図表)3回目緊急事態宣言発令の経済効果試算

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn