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動き始めたノンバンク(シャドーバンキング)への本格的な規制強化

2021/04/30

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ノンバンク(シャドーバンキング)規制強化の動き

ファミリーオフィス(資産家一族の資産運用を目的に設立された組織)のアルケゴス・キャピタルの巨額損失問題で、銀行以外の金融機関であるノンバンク(シャドーバンキング)の金融面でのリスクが改めて注目されている。

さらに、ノンバンクに対する規制強化の動きも強まる方向だ。その議論を主導するのは、金融安定理事会(FSB)だ。FSBは、金融システムの脆弱性への対応や金融システムの安定を担う当局間の協調の促進に向けた活動などを行っており、主要25か国・地域の中央銀行、そのほか金融当局や国際機関の代表者からなる。

FSBの議長を務める米連邦準備制度理事会(FRB)のクォールズ副議長は、昨年10月の講演で、「今後の金融システムの脆弱性に対処するためには、ノンバンクの金融仲介機能やノンバンク・銀行間の様々な連携を考慮した総合的な視点が必要になる」と発言した。また、「大幅な強化を必要とする市場分野がある程度明確になった。このような分野の耐性をどのように改善できるのかを注意深く見ていく必要がある」とした。具体的な措置は示さなかったものの、FSBがこの問題に取り組んでいることを明らかにした。

FSBはMMFのリスクを重視

2020年11月に開かれたG20サミット(主要20か国・地域首脳会談)にFSBが送った書簡の中で、ノンバンクの頑健性を高める措置について強調されていた。それは、ノンバンクが引き起こす金融ショックを増幅するリスク要因を調査し特定すること、ノンバンクが引き起こすシステミックリスクへの理解を深めること、ノンバンクが引き起こすシステミックリスクに対応する政策手段を調査すること、であった。そして、これらが最優先の課題であることが強調された。

そして、今年2月24日に、FSBがG20財務相・中央銀行総裁会議に送った書簡の中でも、ノンバンクの頑健性を高める措置について言及された。

ノンバンクへの対応のなかで、今年は高い優先順位で取り組む姿勢と説明されたのはMMF、特に安全性の高い国債だけでなく、企業や金融機関が発行するCPやABCP(資産担保コマーシャルペーパー)などのリスク性資産に投資するプライマリーMMFへの対応だ。

リーマンショック(グローバル金融危機)の際には、プライマリーMMFがABCPの買い入れを止めたことで、投資家がABCPの発行で調達した資金でRMBS(住宅不動産担保証券)などを購入することが困難となり、市場を大きく混乱させた。また昨年のコロナショック時には、プライマリーMMFが運用する金融商品の価格低下を受けて投資家がMMFから資金を引き揚げ、その結果、換金売りとなったCPの価格が大幅に下がり、企業、金融機関がCP発行を通じた資金調達に行き詰まるという事態を招いた。このように、MMFは重要な金融仲介機能を担っているのである。

投資家はMMFを価値が下がらない現金に近い存在と考える傾向があるため、ひとたび市場が調整してMMFの運用利回りが低下し、マイナスになると、それを一気に解約する動きに出やすい。そしてMMFは顧客からの換金ニーズに応じるために、投資している資産を投げ売りすることを強いられ、それが市場価格の下落を加速させ、金融仲介機能も損ねてしまうのである。

MMFが引き起こすこうした金融リスクに対応する具体的な政策案を、FSBは7月のG20で示す。さらに最終報告書は10月に公表する予定である。

追証制度やオープンエンド型ファンドの換金リスクにも注目

それ以外にFSBは、清算機関における追証(信用取引における追加の担保差し入れ要請)の金融リスクや、市場環境の変化で一気に償還が増加するオープンエンド型ファンド(いつでも自由に換金することができるファンド)のリスクについても、検討対象としている。また、ノンバンクを通じた米国での資金調達とエマージング市場からの資金流出などの資金の連関性にもFSBは関心を持っている。

日本銀行も先日発表した金融システムレポートの中で、海外投資ファンドなどのノンバンク(シャドーバンキング)が日本の金融システムに与える影響について、詳細な分析を行っている(コラム「ノンバンク(シャドーバンキング)の金融リスクに警鐘を鳴らす日銀」、2021年4月21日)。

リーマン・ショックを機に、世界の金融当局は国際金融規制を一気に進めていった。そして、コロナショックやアルケゴス・キャピタルの巨額損失問題などを受けて、今度はノンバンクへの規制強化に向けた動きが加速しているのである。

適切なマクロ金融政策も重要

しかし、金融システム安定維持のための金融規制は、イタチごっこのような状況を生みやすい。リスクの軽減を狙って金融当局がある分野の金融機関への規制を強化すると、リスクの高い投資を行う投資家、リスクマネーは規制を逃れるためにそれ以外の分野の金融機関へと移っていき、リスクはそこへ移転されていくのである。

ノンバンク規制強化を進めれば、高いリスクの投資行動を好む投資家やリスクマネーは、規制を逃れて別の形態の組織に移っていく、いわゆる規制アービトラージが生じるだろう。そのため、規制強化は根本的な問題解決とはならない可能性がある。

金融システムの安定を維持するには、規制強化のみに頼るのではなく、過剰なリスクをとった投資行動が生まれないような金融環境を作り出す、適切なマクロ金融政策運営も非常に重要である(コラム「規制逃れでシャドーバンキングに偏る金融リスク」、2021年4月12日)。

(参考資料)
FSB Chair’s letter to G20 Finance Ministers and Central Bank Governors: February 2021 「コロナ危機でノンバンクの脆弱性露呈=クォールズFRB副議長」、2020年10月20日、ロイター通信ニュース

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