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東京オリンピック・パラリンピック中止の経済損失1兆8千億円、無観客開催では損失1,470億円

2021/05/25

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海外観客受け入れ中止で既に1,500億円の経済損失

新型コロナウイルスの感染リスクを考慮して、東京オリンピック・パラリンピックは中止されるのでは、との観測が国民の間に燻っている。また開催される場合でも、どの程度の国内観客数を受け入れるかについてはなお未定であり、来月に決められる予定だ。これらは、東京オリンピックの開会予定日まで既に2か月を切ったこの時期としては、かなり異例のことである。さらに24日には、日本国内で感染が拡大していることを受けて、米国が日本への渡航警戒水準を最高レベルの「レベル4」に引き上げ渡航中止を勧告したことも、大会開催に向けた逆風となっている。

今年3月に海外からの観客を受け入れない方針を決めた時点で、東京大会の経済効果は相応に失われた、と言える。国内観客とは異なり、海外観客が訪日する場合には、一人当たり多くの支出をすることが期待される。2019年の海外観光客の日本での支出、いわゆるインバウンド消費は総額で4兆8,113億円であった。他方、海外からの大会観客は100万人と見込まれていた。これから、一人当たりのインバウンド需要は15万1,000円程度と計算された。

海外からの観客100万人が日本で使う宿泊費、飲食費、交通費などの支出は、1,511億円となる。海外からの観客を受け入れないと決めた時点で、その分の経済効果が失われたと試算される(コラム「東京オリンピック・パラリンピックで海外観客受入れ見送りの場合の経済損失試算」、2021年3月4日)。

国内観戦客の消費支出は小さい

2017年4月に東京都が公表した「東京2020大会開催に伴う経済波及効果」では、大会参加者・観戦者の消費支出(交通費、宿泊費、飲食費、買い物代、施設利用料等)を2,079億円と計算していた。海外観客のインバウンド需要の筆者の試算値1,511億円は、その7割以上を占めている計算だ。これは、国内観客の消費支出が小さいことの裏返しである。

大会開催時に観戦のために地方から東京に来る日本人は少なくないかもしれないが、国内観客は海外観客のように、宿泊費、買い物代に多くは支出しない。海外観客の多くは、大会の観戦だけでなく、その機会に日本で観光や買い物をすることが予想された。また、海外観客が日本に来て食事をすれば、それはGDPを押し上げる(輸出に計上)が、国内観客は地元で食事しても、東京で食事をしてもGDPには影響を与えないのである。

開催延期や経費抑制、感染対策で経済効果は変化

2017年4月に東京都が公表した「東京2020大会開催に伴う経済波及効果」では、大会開催に伴う東京都の需要増加は、直接的効果で1兆9,790億円と試算されていた。このうち、大会開催の有無とは関係なく生じる新規恒久施設の整備費(都立恒久施設、新国立競技場)は3,500億円とされた。この分を除いた1兆6,290億円分が、大会開催の有無や観客制限の方策によって変化する経済効果と考えられる。

その後、経済効果を変化させる要因が幾つか生じた。第1は、2020年に予定されていた大会が1年延期され、それに伴う追加支出が生じる見通しとなったこと。第2は、延期に関連して経費削減措置が講じられたこと。第3は、今年3月に海外観客の受け入れを止める決定をしたこと。第4は、新型コロナウイルス感染対策の経費が新たに計上されたこと、である。

大会開催の経済効果は1兆8,108億円

こうした変化によって、大会開催の経済効果がどのように影響を受けたかについては、2020組織委員会が2020年12月に公表した組織委員会予算V5(バージョン5)から推測できる。

そこで、東京都の試算、組織委員会の予算、そして海外観客の支出に関する筆者の試算に基づいて、現時点での大会開催の経済効果についてまとめたのが、(図表1)である。海外観客は受け入れず、国内観客は制限なく受け入れるケースである。その場合、経済効果の総額は1兆8,108億円となる。大会が中止となれば、同額の経済損失が生じる計算である。

海外観客の受け入れを止める決定をしたことで、60万枚のチケットの払い戻しが行われたとされる。ただしこの試算では、海外観客に販売されたチケットは、最終的には国内観客にすべて回るものとしている。

(図表1)東京オリンピック・パラリンピック開催の経済効果(国内観客完全受け入れのケース)

無観客開催の場合の経済損失は1,470億円

国内観客をどの程度受け入れるかについては、今後の新型コロナウイルス感染の動向をみて、6月に決定される予定だ。現状では、国内観客数が全く制限されない可能性は低く、無観客開催となる可能性も相応に高いと考えられる。

そこで、国内観客半数受け入れケース、4分の1受け入れケース、無観客ケースでそれぞれ経済効果への影響を試算した。試算では、チケット販売の予想額900億円がそれぞれ半分、4分の1、ゼロになるとした。さらに、国内観客数の減少割合に比例して、(図表1)の観戦者の消費支出(海外観客の分は含まない)の額が減少するとした。

その結果を示したものが(図表2)である。国内観客数を完全に受け入れるケースと比較して、半数受け入れのケースでは、チケット購入及び関連消費の減少によって大会の経済効果は734億円減少する。また、国内観客を4分の1受け入れるケースでは、同様に大会の経済効果は1,101億円減少する計算となる。さらに無観客のケースでは、1,468億円減少する。

(図表2)東京オリンピック・パラリンピック開催に関わる経済効果・経済損失

経済損失よりも感染リスクの観点で判断を

国内観客の制限措置によって失われる経済効果、つまり経済損失がもたらす経済への影響は軽微と言える。2020年度名目GDPの規模と比べると、半数受け入れケースでは0.01%、4分の1受け入れケースでは0.02%、無観客のケースでも0.02%に過ぎない。

他方、大会を中止する場合の経済損失は1兆8,108億円と、必ずしも軽微とは言えないかもしれない。しかし、2020年度名目GDPと比べると0.33%の規模であり、景気の方向性を左右する程の規模ではない。

ちなみに、第1回目の緊急事態宣言による経済損失の筆者の推定値は約6.4兆円、第2回目は約6.3兆円、第3回目は現時点で実施が決まっているだけで約1.9兆円、この先延長が決まれば約3兆円などさらに増加する見通しである(コラム「延長・拡大を繰り返す緊急事態宣言に沖縄県が追加」、2021年5月21日)。大会を中止する場合の経済損失は、緊急事態宣言1回分によるものよりも小さいのである。

このように、緊急事態宣言による経済損失などと比べると、国内観客を制限して大会を開催、あるいは大会を中止する場合の経済損失は必ずしも大きくはない。大会開催をきっかけに、仮に感染が拡大して緊急事態宣言の再発令を余儀なくされる場合には、その経済損失の方が大きくなるのである。

以上の試算は、大会の開催・中止の判断、観客制限の判断については、その経済的な損失という観点ではなく、感染リスクへの影響という観点に基づいて慎重に決定されるべきであることを示唆している。

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