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FRBはジャクソンホールでテーパリングの可能性を市場に伝えるか

2021/05/31

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FRBのテーパリング観測が強まる

米連邦準備制度理事会(FRB)が、昨年6月から続けている月間1,200億ドルの財務省証券およびMBS(住宅ローン担保証券)の購入について、それを段階的に縮小させる、いわゆるテーパリングに早晩着手する、との観測が金融市場で高まっている。

4月27~28日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録は、「複数の参加者は、米経済が委員会の目標に向かって今後も急速な進展を遂げれば、今後の会合のいずれかの時点で資産買い入れペースを調整することについて議論に着手することが適切となるかもしれない、との考えを示した」と記している。

この時点で、テーパリング議論の必要性を議論したのは一部のメンバーにとどまっており、パウエル議長を含めて過半のメンバーはその議論にまだ距離を置いていた。しかし金融市場は、それをきっかけに、テーパリングの議論が早晩本格的に始まる、との観測を強めたのである。そうした観測をさらに後押ししたのが、先週のクラリダ副議長の発言だ。

リチャード・クラリダ副議長は25日、FRBは「今後の会合のある時点で資産購入ペースの縮小についての協議を始められるだろう」との予想を示した。ただしそれは、今後の経済指標次第としている。

高まる8月ジャクソンホール会議への注目

今後のFOMCでの議論を経て、FRBがテーパリングの実施に傾く場合でも、FRBはそれを早めに金融市場に伝えることで、市場の混乱を避けることを狙うだろう。FRBあるいは金融市場には、2013年のテーパータントラムの記憶が強く残されているのだ。

テーパータントラムとは、2013年5月にFRBのバーナンキ議長(当時)が、資産買入れ額の縮小を突然示唆したことから、金融市場が大きく混乱したことを表現したものだ。テーパーは縮小、タントラムは癇癪の意味である。特に新興国市場では米国からの投資資金が引き上げられるとの観測から、通貨安と金融市場の大きな混乱が生じた。

FRBがテーパリングの実施に傾く場合、その可能性をあらかじめ金融市場に伝える場として、今年8月に開催されるカンザスシティー連銀主催の経済シンポジウム、いわゆるジャクソンホール会議への注目が集まっている。そこでテーパリングの実施が示唆され、今年末から来年初めにかけてテーパリングが実施される、というのが現在の市場のコンセンサスだろう。

金融政策の正常化プロセスは前回を踏襲か

ニューヨーク連銀が今年3月に実施したプライマリーディーラー調査によると、FRBは2022年1-3月期に債券購入の縮小を開始し、翌年末には終えると予想されている。

前回は、2013年5月にFRBがテーパリングを示唆し、実際に開始したのは2013年12月だった。その間、約7か月である。しかし、当時は、金融市場の混乱への配慮から、テーパリング開始の時期が遅れた面がある。今回は、そうはならないとすれば、テーパリング実施までの時間はもう少し短いのではないか。そう考えると、今年8月のジャクソンホールでテーパリングが示唆され、12月の今年最後のFOMCでテーパリングが開始される可能性も十分にあるのではないか。

その後の金融政策の正常化策のプロセス(順番)は、前回の正常化が概ね踏襲されるのではないか。前回の経緯を振り返ると、2013年12月にテーパリングが開始され、2014年10月にテーパリングが完了した。その後、2015年12月に政策金利の引き上げが始められ、2017年10月には保有国債の削減(バランスシートの縮小)が始められた。

仮に今年12月にテーパリングが実施され、その後は前回と同様のペースで正常化策が実施されると仮定すると、2022年10月にテーパリングが完了、2023年12月に政策金利の引き上げが始められ、2025年10月に保有国債の削減(バランスシートの縮小)が始められることになる。金融市場は概ねこのようなスケジュール感を織り込んでいくのではないか。

金融リスク軽減に向け早めの金融政策正常化を

経済活動の再開だけでなく、金融市場はインフレリスクへの対応から、FRBが金融政策の正常化を視野に入れていると考えている。しかし本当に重要なのは、インフレリスクよりも金融市場の過熱リスクへの対応である。

コロナショックへのFRBの対応が、金融市場の過熱をより強めてしまった可能性がある(コラム「米国の積極金融緩和策の弊害とサマーズの警鐘」、2021年5月20日)。正常化策を通じてそれを緩和することで、将来、非常に深刻な金融市場の混乱が起こるリスクを減じることができる。

一般的に、正常化の過程では金融市場が不安定になりやすいことから、中央銀行はそこに配慮せざるを得なくなる。そのため、金融緩和を進める時よりも正常化の時の方が、政策のかじ取りが難しい面がある。

しかし、正常化の過程で生じる金融市場の不安定化をある程度甘受しつつ、必要な正常化を進めないと、先にはより大きな金融市場の混乱が生じることになりかねない。FRBは、テーパリングにとどまらず、政策金利の引き上げを含めた正常化に早期に着手することが必要だ。前回以上に早期かつ迅速な正常化実施が求められる。

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