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デジタル人民元発行近づく:中国人民銀行が白書を公表

2021/07/19

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デジタル人民元の個人ウォレットは人口の約1.5%に広がる

中国人民銀行(中央銀行)は16日、「中国におけるデジタル人民元(中国数字人民币、e-CNY)の調査研究の進展」と題する白書を公表した。正式導入に向けたスケジュールは定めないと説明しているものの、発行時期が近付いていることをうかがわせるものだ。

白書では、2014年に始まるデジタル人民元のプロジェクトを振り返ったうえで、設計、システム開発、システムテストを終え、いくつかの地域でパイロット実験を行っていることを改めて説明している。実験では、データセキュリティと個人情報保護を強化するとした。

同白書を今回公表した狙いとして、デジタル人民元についての中国人民銀行の立場、背景説明、目的、展望、設計の枠組み、政策への配慮を明らかにし、説明することとしている。そのうえで、関係者との対話を一層強化し、パブリックコメントを募る。

デジタル人民元の実験を始めた2019年末から今年6月末までで、その取引回数の総数は7,075万回、取引金額は345億元(約6千億円)に上ったという。また、現在、実験の対象都市の飲食店など132万か所でデジタル人民元が使え、デジタル人民元の個人のウォレット(財布)は2,087万個に上るという。これは中国の人口の約1.5%に相当する。

クロスボーダー(国際)決済の試験検討は他国を刺激

他方で見逃せないのは、デジタル人民元のクロスボーダー(国際)決済の試験を検討する、と中国人民銀行が明言したことだ。このデジタル人民元は、主に国内での個人の支払いに利用されるが、国境をまたぐ決済に用いるための試験プログラムも検討しているという。

デジタル人民元発行の狙いには、将来的には中国外での利用を促し、それを通じて人民元国際化と米国の通貨・金融覇権に挑戦することがあると考えられる。そうした狙いの一端を、今回明らかにしたのである。

海外からの批判も想定して中国人民銀行は、クロスボーダー決済の試験を行う際には中国と相手国の通貨主権を尊重して、関係国の法律を順守する形で行われる、と説明している。また「国際通貨システムの発展を共同で推進するために、デジタル不換通貨に関する国際的な意見交換に積極的に参加し、基準設定について議論したいと考えている」とした。

しかし、今回の白書、特にクロスボーダー決済の試験の検討は、日本、米国、欧州など先進各国を強く刺激することになるだろう。欧州中央銀行(ECB)は7月14日に、デジタルユーロの準備を本格的に始めることを決定した(コラム「ECBはデジタルユーロ発行に向けて大きな一歩を踏み出す」、2021年7月15日)。また米連邦準備制度理事会(FRB)も今夏に、デジタルドルの報告書を公表する。

国際的な利用を視野に入れたデジタル人民元の発行時期が近づく中、それへの対抗を強く意識して、先進各国でも中銀デジタル通貨の発行に向けた検討が加速する可能性があるだろう。

(参考資料)
"Progress of Research & Development of E-CNY in China(中国数字人民币的研发进展白皮书)", July 16 2021(http://www.pbc.gov.cn/en/3688110/3688172/4157443/4293696/index.html)
「デジタル人民元の取引、6千億円分 「財布」は2千万個」、2021年7月16日、朝日新聞速報ニュース
「中国、デジタル人民元のクロスボーダー決済検討へ」、2021年7月16日、ロイター通信ニュース

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