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FRBが新たな資金供給の枠組み(SRF)を開始:市場機能低下の懸念も

2021/07/30

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短期金融市場の安定を狙う常設の資金供給の枠組み

7月27・28日に開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)で米連邦準備制度理事会(FRB)は、事前予想通りに金融政策を据え置いた(コラム「FRBのテーパリングと米国経済・金融情勢の不確実性」、2021年7月29日)。他方でFRBは、この日に、新たに常設のレポファシリティー(SRF)を設置すると発表した。29日から稼働を始めた。

これは、FRBがプライマリーディーラー(米政府証券公認ディーラー)から米国債、エージェンシー債、エージェンシーMBS(住宅ローン担保証券)を担保として受け入れ、その代わりに短期資金をオーバーナイトのレポ取引という形で供給するものだ。

SRFは国内向け・海外向けそれぞれに設置され、国内SRFではオーバーナイトのレポ取引を毎日実施するほか、海外中央銀行向けのFIMAレポファシリティーを通じて、ニューヨーク連銀が保有している米債を対象にオーバーナイトのレポ取引を実施する。金利は0.25%に設定され、ファシリティーの上限は5,000億ドル(約55兆円)とされた。

SRFの狙いは、短期金融市場の安定を確保し、それを通じて金融政策をより効果的にするものだ。SRFの創設については、FRB内で長らく議論が重ねられてきた。そのきっかけとなったのは、2019年に短期金融市場で金利が急上昇したことだ。さらにコロナショックで金融機関が資金の調達を加速させた2020年3月にも、同様に短期金利が一時急騰した。こうした際には、FRBは機動的に資金供給を拡大させ、短期金融市場の安定回復を図ってきたのである。

しかし、そのような場当たり的な対応ではなく、常設の仕組みを作り、何らかのショックが起こっても、金融機関がそのファシリティーを随時利用することで、市場の混乱を自動的に防ぐことが議論され始めたのである。いわゆる短期金融市場の「安全弁」だ。この議論が本格化したのが、今年の4月のFOMCだった。

SRFとリバースレポで上下からFF金利の変動を抑える

ただし、その後、議論にやや水を差すことが起こった。短期金融市場では資金不足どころか、資金余剰傾向が強まったのだ。金融機関はこの余剰資金をFRBのRRF(リバースレポ・ファシリティ―)での運用に回した。RRFは、FRBがMMF(マネー・マーケット・ファンド)や政府系機関、銀行から短期資金を受け入れて、利子を支払う制度である。FRBは最近、このリバースレポ金利を0.05%に引き上げた。その結果、超低金利で運用難の金融機関は安全性の高いFRBのRRFでの運用を拡大させたのである。

このRRFの金利は、FRBが政策金利と位置づけるFF(フェデラルファンズ)金利の下限となっている。金融機関間で資金を融通するFF金利が、その金利を下回れば、銀行はより安全性の高いFRBのRRFで余剰資金を運用するからだ。

他方、新たに設置され、金利が0.25%に設定されたSRFは、FF金利の上限となる。FF金利がこの水準を上回ると、銀行はSRFを通じてFRBから資金を調達し、それをFF市場で運用することで、ほぼ無リスクで利鞘を稼ぐことができるからだ。

このようにFRBは、RRFとSRFでFF金利の変動を上下双方からしっかりと抑え込む仕組みを今回確立したのである。市場で取引されるFF金利が、FRBが設定したFF金利の誘導目標から外れれば、それは意図した金融政策の効果を上げていないことを意味する。従って、RRFとSRFの双方ともに、金融政策の有効性向上に寄与することになるのである。

市場の安定と市場機能の維持のトレードオフ

短期金融市場が比較的安定している時には、SRFもRRFもあまり利用されず、残高は増えない。しかし、現在のように資金余剰傾向が強まれば、RRFの残高が増える。他方、資金不足が生じれば、SRFの残高が増えることになるだろう。

それによって短期金融市場の安定が維持されることは確かであるが、見逃せない弊害もある。それは、銀行が短期資金の調達や運用で過度にFRBに依存してしまうことだ。その裏側で、民間の市場が大きく縮小してしまう可能性がある。現在のように銀行がRRFで短期資金の運用を増加させると、従来、代表的な運用商品であったTB(Treasury Bills)の取引が細り、場合によっては流動性の低下からTBの金利が大きく乱高下する可能性も生じるだろう。これは市場機能の低下である。

新設されたSRFは、短期金融市場の安定には寄与するが、反面、市場機能の低下という深刻な副作用を生む可能性もある。

(参考資料)
「FOMC、景気回復順調と判断 緩和縮小の議論継続 「労働市場に課題」」、2021年7月28日、ロイター通信ニュース
「FRB、常設レポファシリティーの制度設計を議論=FOMC議事要旨」、2021年7月7日、ロイター通信ニュース
「クレディ・スイスの「予言者」 米短期市場で警告」、2021年7月6日、ウォール・ストリート・ジャーナル日本版

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