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緊急事態宣言延長で成長率はマイナスに

2021/09/09

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宣言延長で追加の経済損失額は1兆8,600億円

政府は、現在21都道府県を対象に9月12日まで第4回緊急事態宣言を発令している。しかし、高水準での新規感染が続き、医療ひっ迫が解消されない中、政府は9月9日には再び宣言の延長を決める。政府は21都道府県から宮城県と岡山県を除いた19都道府県を対象に、9月30日まで18日間の延長とする方針を固めた。

その結果、第4回緊急事態宣言による追加の経済損失は1兆8,600億円増加する計算だ。現時点での対象分と合計すれば、第4回緊急事態宣言による経済損失は計5.70兆円となる(図表1)。これは年間の名目GDPの1.03%に相当し、失業者を22.1万人増加させる。

この経済損失は、同時期に開催された東京オリンピック・パラリンピックの経済効果1.68兆円の3.4倍に達することになる。

 

(図表1)第4回緊急事態宣言の延長・拡大の経済効果

7-9月期の成長率は年率-5%程度のペースか

延長後の第4回緊急事態宣言は、それ自体は7-9月期の実質GDP成長率を年率換算で15.5%押し下げる計算だ。

しかし、第3回緊急事態宣言によって既に4-6月期には経済損失が生じている。他方、7-9月期には東京五輪のプラスの経済効果が加わる。東京五輪と緊急事態宣言の影響のみを取り出して計算すると、それらは7-9月期の実質GDP成長率を4-6月期比年率換算で2.2%押し下げる計算となる(図表2)。

米国など海外経済の変調を映し、7-9月期には輸出の増勢が顕著に低下することが予想される。さらに、グローバル・サプライ・チェーンの混乱の影響から自動車が減産に追い込まれることで、同期の実質GDP成長率は前期比年率1.31%押し下げられると試算される(コラム「グローバル・サプライ・チェーンの混乱で国内自動車は一時減産へ:4,457億円の経済損失」、2021年8月23日)。

これらの点を踏まえると、7-9月期の実質GDP成長率は、現在、年率-5%程度のペースにあると考えられる。7-9月期の成長率は大きめのマイナスを覚悟する必要が出てきたのである。

 

(図表2)東京五輪、緊急事態宣言が四半期GDP成長率に与える影響

 

崩れるV字型回復シナリオ

10-12月期の成長率も感染問題の悪影響を受けることは疑いがない。しかし、再び大規模な形での第5回緊急事態宣言が出されないのであれば、年率+2~+3%程度のプラス成長になることが現時点では予想される。

しかし、ワクチン接種の進捗により感染リスクが著しく低下し、それを受けて経済が急回復するという、政府などの「V字型回復」のシナリオは、変異株の広がりなどを受けて既に崩れている。2021年の実質GDP成長率は、四半期で見るとマイナス成長とプラス成長を交互に繰り返す形となり、均してみればほぼ横ばいだ。

8日に公表された4-6月期GDP統計・2次速報値と今回の緊急事態宣言延長の影響を反映させると、実質GDPがコロナ問題前の2019年10-12月期の水準を上回るのは、2023年1-3月期にまでずれ込む見込みだ。

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