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リベンジ消費、V字型回復は日本では起きない(7-9月期GDP統計)

2021/11/15

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内需・輸出ともに総崩れの様相

内閣府が11月15日に発表した2021年7-9月期GDP統計・一次速報で、実質GDPは前期比-0.8%、前期比年率-3.0%と2四半期ぶりのマイナス成長となった。事前予想の平均値は前期比年率-0.56%(日本経済研究センター、ESPフォーキャスト調査)であったが、実績はそれを大きく下回った。

個人消費、設備投資、輸出など主要な需要項目はいずれも事前予想を下回った。他方、在庫投資が予想を上回る増加となり、また控除項目である輸入が予想以上の下落となったことが、成長率のさらなる下振れをなんとか食い止めた形だ。

実質個人消費が前期比-1.1%、実質設備投資が前期比-3.8%、実質輸出が前期比-2.1%と、主要な内需、輸出がいずれも大きなマイナス成長となる、いわば総崩れの様相となった。

成長率を最も多く押し下げた実質個人消費の内訳をみると、感染問題の影響を最も大きく受けるサービス消費は前期比+0.1%と予想以上に安定していた一方、耐久財の消費は前期比-13.1%と予想外に大きく下振れた。部品、半導体不足で自動車生産が減少し、自動車に品不足が生じたことが一因だろう。その影響は、10-12月期も続く見込みだ。

他方、実質在庫の成長寄与度は前期比+0.3%と予想外に大きなプラスとなった。ただし、これは幅広い業種で製造業在庫などが積み上がった、後ろ向きの「意図せざる在庫増加」の側面が強く、10-12月期の生産活動にはマイナスの影響を及ぼすものだ。

鉱工業生産は9月まで3か月連続で低下し、7-9月期の鉱工業生産は前期比-3.7%と大幅マイナスになった。背景には、海外景気の鈍化を映した輸出の減少がある。緊急事態宣言が続き、個人消費が低迷を続ける中、従来は輸出の拡大が国内経済を下支えしてきた面がある。その輸出が国内景気の足を引っ張り始めたのである。緊急事態宣言が解除されていなかったら、10-12月期の実質GDP成長率はさらにマイナス幅を拡大させ、景気は底割れの状況に陥っていただろう。

「V字型回復」は起こらない

10-12月期の実質GDPの現時点での予測平均値は前期比年率+4.9%である(日本経済研究センター、ESPフォーキャスト調査)。実際には、もう少し低くなる可能性を見込んでおきたい。2020年10-12月期以来、1年ぶりの高い成長率となる可能性が高いが、その最大のけん引役となるのは、緊急事態宣言解除後の個人消費、特にサービス関連での消費の持ち直しである。

しかしながら、景気の逆風も多い状況だ。実質輸出はマイナス傾向を続ける可能性が高い。特に中国経済の減速の悪影響が、資本財、中間財の輸出を中心に顕著に表れるだろう。さらに、10月を中心に、半導体など自動車関連部品不足による自動車の減産が、個人消費と在庫投資をさらに押し下げただろう。自動車の減産は、7-9月期の実質GDP、10-12月期の実質GDPをともに年率2%程度押し下げたと推測される(コラム、「さらに広がる自動車減産:国内71万台減産で1兆4,400億円の経済損失と推定」、2021年10月7日)。

また、7-9月に大きく成長に寄与した在庫投資は、10-12月期には一転して成長率を押し下げるだろう。また、年初来の原油高と円安進行は、実質個人消費をちょうど1.0%押し下げる計算であり、その影響は10-12月期に大きく表れるとみられる。

緊急事態宣言解除で個人消費はようやく持ち直しのきっかけを得たが、このような大きな逆風があるなか、10-12月期のGDPは、今春から夏場にかけて欧米諸国で見られたような「V字型回復」には至らない可能性が高いだろう。

実質GDPがコロナショック前のピークの水準に戻るのは2023年後半

個人消費の持ち直しをけん引役に、2021年10-12月期、2022年1-3月期の成長率は、「V字型回復」には遠いものの、年率+3~4%程度と上振れることが予想される。しかし、不動産不況を受けた中国経済の減速、供給制約やエネルギー価格高騰、物価上振れによる欧米経済の成長鈍化などを映して、世界経済は2022年の半ばにかけて、成長ペースを一時的に落とす局面に入ることが見込まれる。厳しい輸出環境が続く中、追加経済対策の効果を踏まえても、国内の実質GDP成長率は2022年4-6月期以降、年率+1~2%程度へと低下していくことが見込まれる。

その結果、実質GDPがコロナショック直前(2019年10-12月期)の水準を上回るのは2022年7-9月期、コロナショック前のピーク(2019年7-9期)の水準を上回るのは、2023年10-12月期までずれ込む、と現時点では見込んでおきたい。

個人消費と個人所得は完全に2極化

コロナ禍によって、個人の消費活動そして個人の所得環境が一様に悪化している訳ではない。ばらつきが非常に大きいのが通常の不況とは違うコロナ不況の大きな特徴である。

コロナの影響で個人が消費を控える傾向が強い産業、人と接触しやすいサービス分野の産業である飲食、旅行、アミューズメント関連、航空などが大きな打撃を受け、そこで働く人は職を失い、また所得が大きく落ちている。他方で、所得が減っていない個人は、巣籠り消費の傾向を強め、家での食事、家具、自動車、家電などへの消費を増やしている。一種の代替消費である。高額の腕時計、自動車、マンションなどへの需要も強い。これらに関連する産業で働く人の所得はむしろコロナ禍で増えているのである。こうして個人消費と個人所得は完全に2極化している。

リベンジ消費は起こらない

緊急事態宣言が解除され、10月からは個人消費は持ち直している。しかし、まだ感染リスクへの警戒を緩めていないことから、その回復ペースは緩やかにとどまっている。そして、リベンジ消費と呼ばれるような急激な消費の回復は起きないだろう。個人は、当面、感染リスクに対して慎重姿勢を続ける可能性が高いことが一因である。そしてもう一つの要因は、飲食、旅行を抑えるなど消費行動の変化が一定程度定着し、決してコロナ前には戻らないことである。緊急事態宣言が長く続いた日本では、こうした消費行動の構造的な変化が他の国よりも定着しやすいだろう。

こうした消費行動の構造変化が、産業構造の変化を促すことになる。新しく需要が高まる分野で、それが定着するかどうか不安で企業が生産を増やさないと、海外のように物価が大きく上昇する。「物価高騰は新たな産業構造の産みの苦しみ」である。

前向きの産業構造変化を促す経済政策が必要に

現時点では、コロナの影響で売り上げが落ちた企業、所得が落ちた個人を支援する政策には妥当性があるだろう。時短・休業要請に応じた飲食業中心の協力金制度では、支援としては不十分である。政府が検討しているように、業種の制限なく、コロナ禍で売り上げが大きく落ちた中小企業への給付金を新たに行うことは適切ではないか。

他方、個人に対する支援では、まずは今の社会保障制度、失業保険制度、生活保護、雇用調整助成金制度、休業支援制度のもとで、十分な支援ができているかをまず検証し、必要に応じて制度の運用を見直すべきだろう。そのうえで、コロナ禍で所得を大きく減らし、こうした制度で十分に救われない人には、対象をしぼって給付を考えるべきだ。政府が現在検討している所得制限付き子ども給付制度は、対象が広すぎる。

コロナ禍の下で政府が進めてきた政策は、企業が破綻しないように、また働く人が職を失わないように、食い止めるための政策という側面が強い。短期の政策としては、それは必要であるが、個人の消費行動の変化に応じて、企業の生産活動と働く人が新しく需要が高まる分野へと迅速に移り、産業構造の変化が円滑に進むように促す政策が今後は重要になってくる。それが上手くできないと、新たな需要が十分に満たされず(顕在化せず)、経済の回復の遅れや、海外のように物価高が生じることになるだろう。

企業と働く人を支える政策から、動かす政策へと転換することが今後は重要になっていく。企業の業態転換、M&Aを支援すること、働く人の転職を職業訓練、転職支援で後押しする政策に政府は注力していくべきだ。

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