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東南アジアでの新型コロナウイルス感染再拡大の影響による半導体など部品不足が、自動車の大幅減産をもたらしている。それが大幅な販売減少にもつながっているのが現状だ。9月の国内新車販売台数は、前年同期比-32.2%の大幅減少となった。7月の同-4.8%、8月の同-2.1%から、下落幅は急拡大している。

減産の動きは当初のトヨタ、ダイハツ等から、今や自動車各社全体に広がっている(コラム「 グローバル・サプライチェーンの混乱で国内自動車は一時減産へ:4,457億円の経済損失 」、2021年8月23日、「 広がる自動車減産の経済への打撃:1兆2,600億円の経済損失 」、2021年9月13日)。

しかし、日本経済に直接影響を与える国内での自動車減産の全容については、必ずしも見えていない。減産は主に8月から10月にかけて生じるとみられるが、各社ともに正式に公表しているのは今年度通期の生産計画の修正であり、これは減産後の挽回生産分も含んだ数字となっている。また、それは世界の生産台数の削減見通しであり、国内生産台数の削減見通しは明らかではない。

トヨタについては、「国内生産を従来計画と比べ9月に17万台減、10月に同15万台減らす計画、ホンダは国内生産台数を8~9月に同約6割減、10月上旬に同約3割減らす見通し」、などと報じられている(日刊工業新聞)。そこで、これらの数値と通期の各社生産計画の修正、挽回生産の見通しなどから、8月から10月にかけての国内減産台数の各社合計値を推定してみた。その結果は、約71万台の国内での減産となる。

これは、後の挽回生産分を考慮しない場合には、年間の自動車生産額を8.3%減少させる。自動車生産額が製造業の生産額(2015年)に占める比率は15.47%、自動車生産(付加価値ベース)が名目GDP(2019年)に占める比率は、3.17%である。

これから、年間8.3%の自動車減産は1兆4,400億円程度、年間名目GDPの0.27%の経済損失を生む計算だ。またこれによって、7-9月期の実質GDP成長率は前期比年率で2.0%程度押し下げられる見通しだ。

(参考資料)
「自動車減産の影響が深刻化、新車販売32%減で受注活動にも暗雲」、2021年10月5日、日刊工業新聞ニュースイッチ
「日本車6社、減産100万台超 東南アジアの半導体供給減り」、2021年9月11日、日本経済新聞電子版

 

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。