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物価高騰への対応を本格化させるFRB

2021/12/16

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物価高騰への対応で強い姿勢を示す

12月15・16日に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)で米連邦準備制度理事会(FRB)は、11月に開始したテーパリング(資産買い入れの段階的縮小)のペースを高める決定をした。毎月の買入れ削減額は、150億ドルから300億ドルへ2倍とされた(コラム「続く物価の高騰とFRBの利上げ前倒し観測」、2021年12月13日、「フラット化が進む米国債のイールドカーブは何を意味するのか」、2021年12月14日)。11月に決定したテーパリングは、新型コロナウイルス問題を受けた緊急措置を解除する正常化策との位置づけが強かったが、今回の決定は、異例の物価高騰に対して、FRBが本格的な対応に乗り出したことを意味するものと言えよう。

この決定を受けた金融市場の反応を見ると、米国の長期金利はほぼ横ばい、株価は上昇し、為替はドル円で114円台までドル高円安が進んだ。先行きの政策金利の見通しが引き上げられたことを踏まえると、今回の決定は事前に市場が予想していたよりもFRBがややタカ派の姿勢を示したと言える。それは、ドル高進行という形で為替市場に反映された。一方株価が上昇したのは、FOMCという大きなイベントが通過したことへの反応と、物価高騰を容認しないというFRBの姿勢がより明確に打ち出されたことを評価したものだろう。

2022年はFOMC、市場ともに3回の利上げを予想

テーパリングの終了時期は、従来の2022年半ばから2022年3月へと前倒しされた。さらに、FOMC参加者の見通し(中央値)によると、2022年には合計3回、2023年には合計3回、2024年には合計2回の政策金利引き上げが予想されている。その結果、FF金利(政策金利)の水準は2024年末に2.1%程度となる見通しだ。さらに長期のFF金利の水準は、2.5%と前回の利上げ局面でのピークに並ぶ水準が予想されている。

他方金融市場では、テーパリング終了直後の2022年4月に利上げ(政策金利引き上げ)が行われる可能性がかなりの確率で織り込まれ、5月までであれば100%織り込まれている。また、2022年に3回弱程度、2023年に1回程度、2024年に2回程度の0.25%ずつの利上げが織り込まれている。

2022年については、FOMCと市場との間に利上げについて大きな見方の違いはないが、2023年以降については、FOMCほどには順調に利上げが進まないと市場は考えている。それは、物価高騰が程なく鎮静化する一方、米国経済は急ピッチな利上げに耐えられないとの市場の見方を反映しているのだろう。

景気下振れ、金融市場の混乱が急ピッチの利上げの逆風に

そうした市場の見方には妥当性が感じられる。この先FRBが急ピッチで利上げを進める一方、コロナ問題を受けた経済の混乱の反映と考えられる異例の物価高騰が一巡し、インフレ期待が沈静化すれば、名目政策金利から期待インフレ率を引いた実質政策金利は一気に高まり、それが米国経済に大きな打撃を与える可能性がある。

中央銀行が金融政策で物価上昇率を下げることを狙う際には、金融引き締めによって需要全体を抑制し、物価に大きな影響を与える需給のひっ迫を緩和するというチャネルが主に想定されている。ところが足もとでの物価高騰は、感染リスクによる人手確保の難しさ、サプライチェーンの支障など供給側の要因にも大きな影響を受けている。また、需給のひっ迫も必ずしも経済全体で起こっているものではなく、分野による偏りが大きい。こうしたもとで、伝統的な金融引き締めを通じて物価の安定を取り戻すことが難しい点は、FRBも十分に理解していることだろう。

また、政策金利の引き上げを進めていく中で、コロナショックを受けたFRBの大幅緩和の影響で引き起こされた金融市場の歪みが、一気に調整されて、市場の混乱を生じさせる可能性がある。また、新興市場からの資金の引き上げが、世界の金融市場を混乱させる可能性もあるだろう。

物価高騰を容認しない強い姿勢を示すことが市場の安定に

このように、FRBの金融政策の正常化、とりわけ政策金利引き上げには、大きな潜在的なリスクがある。こうした点を踏まえると、FOMCで今回予想されたような順調な利上げが、実際に行われていく可能性はそれほど高くはないのではないか。

しかし、今回の決定やFOMCでの先行きの金利見通しに示されるように、物価高騰に対してFRBが本格的に対応する姿勢を示したことは、FRBが物価高騰に対して後れをとっている(ビハインド・ザ・カーブ)との観測を抑え、それを通じて当面の金融市場の安定に貢献するだろう。

さらに、米国内では物価高騰に対する国民の不満がかなり高まっており、それがバイデン政権への支持率低下の一因となっている。FRBが物価高騰に強い姿勢を見せたことは、そうした不満を一定程度抑えることに貢献し、バイデン政権を側面支援することにもなるだろう。

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