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パウエルFRB議長の議会公聴会と中銀デジタル通貨(デジタル・ドル)の報告書

2022/01/12

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パウエル議長は「正常化までの道のりは長い」と発言

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は11日(米国時間)に、上院銀行委員会で再任の承認公聴会に臨んだ(コラム「インフレ対策で手探りの金融政策運営(パウエルFRB議長の議会証言テキスト)」、2022年1月11日)。議長は、「もし高インフレが想定より長引き、時間をかけて金利をさらに引き上げる必要があるなら、われわれはそうする」と述べるなど、インフレ対策に取り組む姿勢を改めて表明した。しかし、前日(米国時間10日)に公表された証言のテキストで受けた印象ほどのタカ派色が打ち出されなかったことで、11日の米国金融市場はこのパウエル議長の発言を好感した。

事前に警戒していたほどタカ派ではなかったと金融市場が考えた議長の発言の一つは、「正常化に時間がかかる」と述べたことだ。米経済はもう積極的な刺激策を必要としておらず、「今こそ、コロナ下の緊急措置からより正常な水準に移行する時」であるとする一方で、「ここから正常化までの道のりは長い」と述べたのである。これは、利上げなど正常化を急がないというメッセージである。

物価高騰の背景をなす経済状況について議長は、「今起きているのは、需要と供給のミスマッチだ。供給が制限されている分野では需要が非常に強い」と述べている。さらにミスマッチの解消が「需要の変化によってもたらされる」可能性に言及した。これは、需要と供給のミスマッチが生じている分野で、物価上昇が需要の後退を生じさせ、それによって価格の高騰が収まっていく、との見方を説明したものだろう。

簡単に言えば、価格メカニズムが働くことで、異例の物価高騰も収まっていくとの比較的楽観的な見通しを、パウエル議長は持っていることを意味しているのではないか。

金融政策が市場の期待に支配されるリスクも

しかし一方で、物価の高騰が長く続く中、FRBがインフレ対策に強い姿勢を見せていなければ、FRBの政策が後手に回り(ビハインド・ザ・カーブ)、金融市場のインフレ懸念がさらに高まることで、大きな混乱が生じてしまうことを議長は警戒している。

インフレ抑制の姿勢は見せつつも、急速に利上げを進めることで、あるいはその上で物価が落ち着きを見せれば、結果的に利上げが行き過ぎてしまうというリスクも視野に入れつつ、両睨みで慎重な姿勢を議長は続けるだろう。

しかし、他の米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーは、足元での物価高騰に対応するため、前倒しで利上げを実施する姿勢に傾いてきており、パウエル議長がそうした多数意見に抵抗できなくなる可能性もある。

また、金融市場が急速な利上げを織り込めば、FRBの政策が後手に回る(ビハインド・ザ・カーブ)との観測を高めないためにも、実際のFRBの利上げが前倒しになる可能性もあるだろう(コラム「インフレ対策で手探りの金融政策運営(パウエルFRB議長の議会証言テキスト)」、2022年1月11日)。そうした政策は、いずれ急激な経済の悪化を招く可能性がある。現状は、まさに、物価高騰と経済悪化のリスクが背中合わせにあるのではないか。

中銀デジタル通貨(CBDC)の報告書を数週間以内に発表

ところで公聴会で、パウエル議長が中銀デジタル通貨(CBDC)の報告書について言及した点が注目される。FRBは当初、報告書を昨年夏頃に発表するとしていたが、実際には時期が示されることなく先送りされていた。パウエル議長は、発表の準備は整いつつあることを強調し、「数週間以内に発表する予定」と明言したのである。この報告書は、FRBが中銀デジタル通貨、いわゆる「デジタル・ドル」の発行を表明する内容となる可能性は低く、論点整理と広く国民から意見を募ることを目的とするものであるとみられる。

FRB及び米財務省は、「デジタル・ドル」の発行について具体的な方針を持っていないとみられるが、中国が間もなく発行するデジタル人民元の動向、特に中国以外の国での利用や国際(クロスボーダー)決済に広く利用される方向が見られ、米国の通貨・金融覇権を脅かすリスクが生じれば、米国も「デジタル・ドル」の発行についてより前向きに検討し始める可能性があるだろう。また、欧州中央銀行(ECB)が今年、「デジタル・ユーロ」を発行する姿勢を一段と強めれば、それも、米国の姿勢を変化させる可能性がある。

パウエル議長は、仮に将来的に米当局が「デジタル・ドル」を発行する際にも、ドルなどを裏付けにした民間の「ステーブルコイン」とは共存できる、との考えを今回の公聴会で示している。

(参考資料)
"Fed’s Powell Says Economy No Longer Needs Aggressive Stimulus", Wall Street Journal, January 11, 2022
「FRB議長「保有資産縮小、22年後半にも」 再任公聴会」、2022年1月12日、日本経済新聞電子版

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