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トヨタ自動車減産の経済損失推計1,290億円にみる感染問題の経済活動への打撃の大きさ

2022/01/26

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トヨタの1月自動車減産によるGDP減少額は約1,290億円

トヨタ自動車は24日、国内の一部工場の生産停止措置を2日間延長すると発表した。従来からの半導体不足の影響に加え、国内従業員の新たな感染の影響によるものだ。さらに、国内仕入先での新型コロナウイルス感染拡大によって工場が停止し、部品の供給不足が生じていることにもよる。

25、26日に11工場19ラインが止まることになる。18日から始まった一連の生産停止措置による1月の国内減産台数は、20日時点で公表されていた約4万7千台から約6万5千台へとさらに拡大することとなった。

トヨタによる1月の6万5千台の減産は、2021年の国内自動車生産台数(実績見込み)の0.8%程度に相当する。一方、国内GDPに占める自動車生産の構成比率は3.0%である。これらの数字から、トヨタの1月の自動車減産によるGDPの減少額、いわゆる経済損失は、約1,290億円に及ぶ計算となる(その後の挽回生産の効果は考慮しない)。

足元の感染急拡大を受けて、トヨタあるいはその他自動車メーカーの工場での生産停止はさらに拡大する可能性が十分にあり、経済損失の規模は一段と膨らみそうな状況だ。

需要面、供給面からの経済損失を試算

本コラムでは、年明け後の感染急拡大の経済効果を、需要面、供給面から試算してきた。需要面については、25日に「まん延防止等重点措置」が34都道府県まで拡大されることが決まったことで、消費減少を通じた経済損失は2.3兆円規模に及ぶと試算した(コラム「まん延防止措置は34都道府県まで拡大し経済損失は合計2.3兆円規模に」、2022年1月25日)。

他方、新規感染者数が急速に拡大する中、新規感染者数や濃厚接触者が業務からの離脱を余儀なくされ、働き手が不足することによって生産活動が縮小するという、供給側からの経済損失についても一定の想定の下で試算した(コラム「感染急拡大は働き手不足を通じて経済活動を大きく制約」、2021年1月21日)。

東京都の新型コロナウイルスのモニタリング会議で専門家は、現在の増加ペースが続いた場合、直近7日間平均の新規感染者が1月27日には1日当たり約1万8,000人に上るとの推計を報告した。全国でも同様のペースで新規感染者数が拡大する場合には、0.28%の労働力が消失する計算だ。それによって、毎日42億円の名目GDPが失われる、と試算した。その状態が仮に1か月続く場合には、経済損失は1,300億円に及ぶ。

供給面からの経済損失は労働力減少による影響の何倍にも膨れ上がる可能性

実は、この供給面からの試算値は、トヨタ1社の1月の自動車減産による経済損失額とほぼ一致するものだ。供給面からの試算値は、新規感染者数や濃厚接触者から計算したものだが、感染者が一人発生したことで工場全体が停止するような事態となれば、経済損失はその推計値の何倍にも膨れ上がることになるのである。

さらに、サプライチェーンを通じた波及効果、つまり、一つの部品工場が新規感染者の発生で停止に追い込まれることで多くの完成品工場も停止に追い込まれれば、やはり経済損失は何倍にも膨れ上がることになる。

このように、トヨタの自動車減産は、感染拡大による供給面からの経済損失が労働力の減少を通じた試算値よりも格段に大きくなり得ることを示している。新規感染者数が急拡大することによる供給面からの経済への影響を推し量る上で注目すべき実例、と言えるだろう。

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