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ロシアのウクライナ侵攻本格化で日本経済に『円高・株安・原油高』のトリプルパンチ。GDP1.1%低下も

2022/02/25

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ロシアのウクライナ侵攻本格化で金融市場には節目を超える動き

24日にロシアは、新ロシア派が実効支配しているウクライナ東部の市民を守ることを名目に、ついに軍事行動を開始した。ロシア軍はウクライナ北部の4地域から侵入したとされる。また、攻撃対象は東部のみならず、首都キエフの郊外や南部の軍事施設にも及んでいるとされる。

ロシアのウクライナ侵攻が本格的に始まったことで、金融市場、商品市場にもさらなる大きな影響が出ている。24日の東京時間では、日経平均株価が2万6千円台を割り込み、一時年初からの下落率が10%を超えた。また、WTI原油先物価格は1バレル100ドルを超えて上昇し、金の価格は1オンス1,940ドル程度と、2021年年初以来の最高値を超えて2,000ドルの大台に迫る勢いだ。ビットコインは前日の3.8万ドル台から、3.5ドル前後まで一気に6%以上下落した(コラム「ウクライナ地政学リスクヘッジで買われる金と売られる仮想通貨」、2022年2月22日)。

このように、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、金融市場では一気に節目を超える動きが見られている。

ウクライナ問題の金融市場、経済への影響の中核はエネルギー価格上昇

ウクライナ情勢に対する金融市場の反応は、単なる軍事行動といった地政学リスクへの反応ではなく、それが経済に与える影響を先取りしたものである。具体的には、ロシアのウクライナ侵攻が本格的に始まったことを受けて、金融市場は米国などによる追加の経済制裁を予想し、それが、ロシアの原油、天然ガスの輸出を減少させることで、エネルギー価格の一段の高騰をもたらすと予想していると見られる。それらを引き起こす制裁措置としては、部分的あるいは全面的にロシアの銀行をSWIFTから外すことが想定されているだろう(コラム「第1弾の対ロ制裁よりも追加措置が世界経済・金融市場に大きな打撃に」、2022年2月24日)。

ちなみに24日のロシア市場は、株価が45%下落、ルーブルも対ドルで10%程度下落するなど、一気にパニック状態に陥った。これも、SWIFT制裁がロシアの貿易に甚大な悪影響を与えること、そしてルーブルの信認を大幅に低下させることを予見した動きだろう。

ただし、ロシア経済自体が打撃を受けても、それは世界経済の中では小さいものであり、世界の金融市場を揺るがすことにはならない。ウクライナ問題が世界の金融市場と世界経済に与える影響の中核にあるのは、エネルギー価格の上昇である。

2008年の原油価格急騰時の経験を参考に

この先のウクライナ情勢を正確に予想することはできないが、少なくとも当面は、ロシアがウクライナでの軍事的活動を拡大し、それに対して米国を中心に先進国が制裁措置を強化するという展開が予想される。その場合、日本経済にはどのような影響が及ぶであろうか。まず原油高の経済への影響を起点に、その影響の予想がリスク回避傾向を強める金融市場で円高と株安をもたらす、との流れで考えてみよう。

仮に、ウクライナ情勢の悪化、経済制裁の強化によってWTI原油先物価格が、2008年についた史上最高値の1バレル140ドルまで上昇するとしよう。昨年につけたピークの80ドルを上回る部分が、ウクライナ情勢の影響を受けていると仮定すると、24日に97ドル程度の原油価格が140ドルまで上昇する場合には合計で75%程度の上昇となる。

他方、原油価格が急上昇し史上最高値を付けた2008年前半に、その影響を受けて株価は高値から安値まで17%下落した(2008年後半の下落はリーマンショックの影響が大きい)。また同時期にドル円レートは15%上昇した。

「円高・株安・原油高」のトリプルパンチが日本のGDPを1.11%押し下げる

このように2008年の経験を参考に、ウクライナ情勢によって原油価格は75%上昇、株価は17%下落、円は対ドルで15%上昇すると仮定しよう。その日本経済への影響を考えてみる。

内閣府の短期日本経済マクロ計量モデル(2018年版)によると、20%の原油価格上昇は、4四半期後までの累積効果でGDPを0.06%押し下げる。また10%の円高は、4四半期後までの累積効果でGDPを0.46%押し下げる。さらに、内閣府の平成21年度版財政経済報告によると、1%の株価下落は個人消費を0.02%押し下げる。GDPへの影響は-0.011%となる。

ここから、75%の原油価格はGDPを0.23%押し下げ、17%の株価下落はGDPを0.19%押し下げ、15%の円高は、GDPを0.69%押し下げる。合計ではGDPが向こう1年程度に1.11%押し下げられる計算である。

今年1-3月期の実質GDPは、感染再拡大とまん延防止措置によって、現時点では前期比年率-1%程度と2四半期ぶりにマイナスとなり、昨年秋以降の経済の持ち直しはいったん頓挫することが予想される。感染リスクの低下とともに4-6月期以降はプラス成長に復すことが見込まれるが、既往のエネルギー価格の高騰の悪影響に、上記のウクライナ情勢による『円高・株安・原油高』のトリプルパンチの影響が加わることで、その回復力はかなり削がれることになりそうだ。

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