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ウクライナ問題で中国の出方が歴史を変えるか

2022/02/25

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中国とロシアは70年ぶりの接近

現在、悪化の一途を辿っているウクライナ情勢は、冷戦後の国境を新たに引き直す動き、ともされる。ただし、これが「新冷戦構造」へと発展していくのかどうかについては、今後の中国の出方が大きな鍵を握るだろう。中国がいわばウクライナ情勢の「影の主役」、とも言えるのではないか。

2月4日の北京冬季五輪開会式の日に首脳会談を行った中国の習近平国家主席とプーチン大統領は、お互いの立場を支持する考えを表明した。即ち、中国は、ウクライナ問題で、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大に反対するロシアの立場を支持し、ロシアは台湾問題に関して「一つの中国」という中国の立場を支持したのである。

冷戦初期に、中国は同じ社会主義国のソ連とは袂を分かち、独自の社会主義、独自の経済体制を追求してきた。米国への対抗という点で利害の一致を見出した中国とロシアは、70年ぶりに再び緊密な関係を取り戻しつつあるように見える。

ウクライナ問題を巡り、中国はロシアの立場を支持する一方で、対話による解決を呼び掛けてきた。中国の外交政策は、建国後間もなく当時の周恩来首相が表明した「平和五原則」を踏襲しているとされ、いかなる国でも他国への侵略や内政干渉を支持しないとの立場をとる。中国がロシアによる2014年のクリミア併合を支持しなかったのはこのためだ。しかし現状では、よりロシアの立場に理解を示すなど、変化も見られている。

ロシアがウクライナ東部の2つの共和国の独立を承認し、さらに侵攻を行ったことを受けて、欧米、日本など先進各国は、ロシアへの制裁措置を段階的に打ち出している。中国はこうした先進国の対ロシア制裁措置を非難しているのである。他方で、ロシアの軍事進攻の評価についてはコメントを避けており、明らにロシア寄りの姿勢を示している。

中国が制裁で打撃を受けるロシアを支援する可能性

第2弾の制裁措置で、米国はロシアの主要銀行のドル調達を制限し、貿易決済に打撃を与えた。しかし、対ロシア制裁措置が欧州への天然ガスの供給停止やエネルギー価格の上昇を通じて先進国経済への打撃に跳ね返ってくる影響に配慮して、エネルギー関連の取引を対象から外す措置とした。依然として抑制された措置にとどまっている面があるのだ。

ただし今後のウクライナでのロシアの行動次第では、米国など先進国は制裁をさらに強化していくことになる可能性は高い。現状ではなお措置を温存している状況なのである。

その追加措置には、今度はエネルギー関連も含めて、米国金融機関のロシア大手5行の取引を制限する、SWIFT(国際銀行間通信協会)からロシアの大手銀行を除外する、SWIFTからロシア銀行すべてを除外する、など何段階か考えられる(コラム、「実効性をやや高めた第2弾の対ロシア追加制裁」、2022年2月25日)。

その際、中国が、ルーブル建てあるいは人民元建てで原油、天然ガスをロシアから追加購入すること等で、ロシアを支援する可能性がある。また、中国が人民元建ての独自の決済システムCIPSを用いて、ロシアの貿易決済を助ける可能性も考えられる。

仮に中国が先進国による経済制裁で打撃を受けるロシアを支援する場合、先進国の対ロシア制裁措置は、その分効果が低下してしまうのである。

注目される中国の覚悟

ただし、中国も制裁対象になってしまう可能性や、米国など先進国との関係悪化が決定的になってしまうリスクを考えれば、中国も簡単にはロシアの支援に本格的に乗り出せないだろう。

それでも、米国への対抗で利害が一致する最近の中国とロシアの緊密化の流れを踏まえれば、そうした問題点を甘受しつつ、中国が何らかの形でロシアの支援に回る可能性は、現時点で50%をやや上回るのではないか。

中国がロシア支援に明確に乗り出す場合には、中国と米国との関係は一段と悪化し、中国とロシアが経済、金融、そして安全保障面でも結束を強め、世界が中ロを中心とする権威主義的なグループと市場原理を基盤とする民主主義諸国とに二分されていく、まさに「新冷戦」の起点となってしまう可能性がでてくるのではないか(コラム、「FRBが救世主にはなれないウクライナ情勢による金融市場の混乱:中国の対応も市場の注目に」、2022年2月22日)。

米国がロシアの銀行をSWIFTから排除する決定をする場合には、そこには中国へのメッセージも暗に込められる可能性があるだろう。つまり、中国がアジア地域での軍事的な行動をエスカレートする、あるいは国内での人権問題を悪化させる場合には、中国の銀行もSWIFTから排除される可能性もあるという一種の脅しなのである。

このように、米国あるいは他の先進国は、ウクライナ問題でロシアへの対応を進める中でも、常に中国の出方を窺い、またアジア地域での中国の動きへの影響を強く意識するだろう。この点から、ウクライナ問題での影の主役は中国なのである。

(参考資料)
Beijing Weighs How Far to Go in Backing Putin on Ukraine, Wall Street Journal, February 17, 2022

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