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ルーブルでの外貨建て債券返済という奇策でもロシアのデフォルトは免れない

2022/03/07

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ロシアのプーチン大統領は3月5日に、外貨建て対外債務の返済をルーブルで行うことを一時的に認める大統領令に署名した。この大統領令によると、ロシアやロシア企業の「非友好国」の債権者に対する措置だという。

ロシア中央銀行は3月2日までに、ルーブル建てのロシア国債を保有する外国人投資家に対する利払いを停止した。自国通貨のルーブル建てであれば、利払いに困ることはないはずだが、ルーブルで利払いすることは、ルーブルの国外への流出を意味し、それはルーブル安を加速させてしまうからだ(コラム、「近づくロシアのデフォルト。1998年ロシア危機との違い」、2022年3月4日)。

今回の措置はこうした方針を修正するものだ。またそれは、外貨建て対外債務の返済を進めようとするロシア政府の意思を示すものであり、その狙いは、デフォルト(債務不履行)の回避とみられる。ロシア中央銀行が定めた為替レートに相当する金額を支払えば債務履行と見なされる、と説明されている。

こうした方針転換が突如打ち出されたのは、同国の主要エネルギー企業2社の返済期限が迫っていたためだ。政府系石油会社ロスネフチは6日に20億ドルの債券、政府系天然ガス会社ガスプロムは7日に13億ドルの債券の返済期限を控えていた。

しかし、外貨建て債券の返済を自国通貨に変更するのは、債務条件の変更に他ならない。ロシア側が外貨建てでの返済をしない意思なのであれば、それはデフォルトと言えるだろう。

問題は、海外の債券保有者がルーブル建てでの返済を受け入れるかであるが、その可能性はかなり低いだろう。ロシア原油の輸出制限という先進国からのさらなる制裁措置への観測を受けて(コラム、「対ロシア制裁による原油価格一段高と国内原油高対策の限界」、2022年3月7日)、7日のルーブルの対ドルレートは、1ドル120ルーブル程度と、先週末の115ルーブルから一段と下落しており、史上最安値を更新している。ロシアのウクライナ侵攻前の水準と比較すると、僅か10日余りのうちにルーブルは対ドルで60%もの下落となっている。これは通貨危機に他ならない。

先行き、先進国からのさらなる制裁強化や、ロシア経済の悪化、あるいはロシア国債のデフォルトなど、ルーブルの価値をさらに下げる要因が依然多く控えている状況だ。そうしたなか、価値が下がり続けるルーブルを外貨の代わりに受け取る海外投資家がいるとは思えない。仮に受け取っても、為替市場でルーブルの流動性は急速に低下していると見られ、外貨に換金するのは容易ではないだろう。

結局、外貨建て対外債務の返済をルーブルで行うという奇策は、上手く行きそうにもない。そうした中、深刻な外貨不足に見舞われるロシア政府・企業が、外貨建て債券の利払いや償還を行わなければ、正真正銘のデフォルトとなる。

JPモルガンの分析によると、ロシア国債の海外投資家への次の利払いの期限が来るのは、3月16日である。支払い猶予期間は30日に設定されている。ここで利払いが滞れば、4月中旬にもデフォルト認定が格付け会社によってなされるのではないか。ロシア国債は、着実にデフォルトに向かっていると言えるだろう(コラム、「データで読み解くロシア・デフォルトの衝撃」、2022年3月7日)。

ところでロシア政府は、外貨建て債券の元利返済を停止し、国内株式市場の閉鎖を続け、海外投資家のロシア証券の売却を停止している。これらは、金融市場の自由な取引を著しく制限するものだ。デフォルト以上に、それらは海外投資家の信頼感を損ねる行為と言えるだろう。仮に先行きウクライナ問題が解決に向かっても、海外からの新規のロシア証券への投資は相当期間、封じられることになるのではないか。ロシアは世界の資本市場、金融市場から締め出されるのである。

(参考資料)
“Russia Permits Payments to Foreign Bondholders, but Only With Rubles”, Wall Street Journal, March 7, 2022
「対外債務の返済、ルーブル「容認」」、2022年3月7日、産経新聞

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