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対ロ追加制裁発動へ。EUのエネルギー関連制裁が日本のサハリン・プロジェクトの命運を握る

2022/04/06

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米国はロシアをデフォルトに追い込む制裁措置

ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊で多数の遺体が見つかり、ロシア軍が民間人を大量に殺害した疑いが強まったことは、ロシアに対する国際世論をより厳しいものにした。その結果、主要国が協調して厳しい対ロ追加制裁を打ち出す流れが作り出されてきた。

4月4日のドル建てロシア国債の償還・利払いの期限の日に、米財務省は、米金融機関を通じたロシアによるドル建て国債の利払いなどを禁じる方針を打ち出した。ロシアはドルでの国債の償還・利払いを阻まれ、事実上のデフォルト(債務不履行)に陥った可能性がある。

米ホワイトハウスのサキ大統領報道官は、「プーチンの資源を消耗させる」とし、ロシアが新たな収入を確保することができずにドル資金を使い果たせば、「デフォルトに陥る」と述べた。つまりこの措置は、ロシアをデフォルトに追い込むことを狙ったものであり、ロシア軍が民間人を大量に殺害した疑いを受けた追加制裁の一環であることを認めたのである(コラム「米国政府がロシア国債の償還・利払いを阻止との報道。ロシアはデフォルトか」、2022年4月5日)。

そのうえで米国政府は、6日に追加の経済制裁パッケージを発表するとしている。その中には、ロシアへの新規投資を禁止する措置が含まれる見通しだ。米国人がロシアでエネルギー生産にかかわる外国企業などに投資することは既に禁じられているが、その対象が拡大される見込みだ。さらに、ロシアの金融機関、国営企業、政府高官やその家族への制裁も強化する見通しである。

米国政府はこうした新たな包括的制裁パッケージを通じて、経済、金融、技術面でロシアのさらなる孤立を推し進め、戦争継続を困難にさせることを狙っていると説明している。

日本はエネルギー関連の追加制裁を見送りへ

日本政府も、民間人の殺害は国際人道法違反であり断じて許されない、として、G7を含む国際社会と連携して対ロ追加制裁を実施する考えを明らかにしている。日本はG7などと協調し、プーチン大統領を含む101の個人、主要7金融機関など19の団体を資産凍結の対象とする金融制裁を既に実施している。また貿易面では、軍事品や半導体といった品目の輸出を禁止する一方、ロシアの「最恵国待遇」を撤回するための制度改正を進めている。

今回の追加制裁措置としては、ロシア最大手の銀行、ズベルバンクを資産凍結の対象に加えることに加え、ロシアからの水産物やウオッカなどの輸入を禁じることが検討されている模様だ。ロシアの外貨獲得を阻む輸入禁止の措置に初めて踏み出すことの意味はある。ただし、ロシアからの最大の輸入品である天然ガス、原油などのエネルギー関連の輸入禁止あるいは制限は、追加制裁措置には含まれない可能性が高い。

日本のロシアからの天然ガスの輸入はほとんど、原油輸入の半分程度は、日本が権益を持つサハリン1、2からのものだ。岸田首相は3月31日に、サハリン1、2から撤退しない方針であることを明言している(コラム「日本政府はサハリン1・2の事業継続を表明も先行きは不透明」、2022年4月5日)。その結果、日本の今回の追加措置のパッケージは、日本に大きな痛みをもたらすものではないだろう。

EUは原油、天然ガスでなく石炭の輸入禁止にとどめる

追加制裁で最も注目されるのが、EUの対応である。特に、ロシアからのエネルギー輸入に関わる制裁措置が重要だ。

欧州委員会は6つの柱からなる追加制裁案を公表した。そこには、ロシア第2位のVTB銀行を含む4銀行との取引の完全停止、先進的な量子コンピューターや半導体、機械、輸送機器など約100億ユーロ相当の輸出禁止、木材やセメント、海産物など55億ユーロ規模の輸入禁止が盛り込まれている。

さらに、エネルギー関連では、年間40億ユーロ規模の石炭の輸入禁止が盛り込まれた。天然ガス、原油と比べればロシア依存度が低く、欧州経済への打撃が限られる石炭の輸入禁止措置にとどめた形である。

EUは石油、天然ガスなど他の化石燃料の禁輸も今回議論した模様だが、ロシア産天然ガスの依存の高いドイツなどは、経済への打撃が大きい天然ガスの輸入禁止には反対したと見られる。ただし、今回の石炭の輸入禁止は、原油の輸入禁止、天然ガス輸入禁止へと制裁を先行き段階的に強化する余地を残した対応、とも理解できる。

今後、ロシア軍のよる残虐行為などを疑わせる証拠がもっと多く確認され、国際世論がロシアへの批判をエスカレートさせていく中で、主要国がさらに追加制裁措置を打ち出すことを迫られる可能性がある。その中で、EUが経済への打撃を覚悟の上でロシア産原油、天然ガスの輸入禁止を決める可能性もあるだろう。そうなれば、日本もサハリン1、2からの撤退を決めざるを得なくなるだろう。

対ロシア制裁が段階的に強化されていく中では、制裁を掛ける側に打撃が返ってくる「ブーメラン効果」を回避することが次第に難しくなってきた。ロシア側と先進国側がともに傷つく中、我慢比べ、チキンゲームの様相が強まっているのである。

(参考資料)
「米、6日に追加制裁発表 ロシアへの新規投資禁止-金融機関・国営企業も強化、G7・EUと協力」、2022年4月6日、日本経済新聞電子版
「米、ロシアへの新規投資を禁止 追加制裁発表へ」、2022年4月6日、産経新聞速報ニュース
「ロシアに追加制裁、政府は苦慮…サハリン撤退せず・エネルギー分野で圧力の可能性も」、2022年4月6日、読売新聞速報ニュース
「EUがロシア産石炭を禁輸へ、米もエネルギー産業標的の追加制裁検討…ロシア非難強める」、2022年4月6日、読売新聞速報ニュース
「EU、石炭禁輸案、対ロシア追加制裁、米は週内に。」、2022年4月6日、日本経済新聞

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