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日本銀行は政策正常化の絶好のチャンスを逃す

2022/04/25

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展望レポートで物価見通し上方修正も政策方針は修正せず

日本銀行は4月27・28日に金融政策決定会合を開く。為替介入への期待が後退したことで、円安阻止に向けた日本銀行の政策対応への期待が、金融市場で高まっている(コラム「円安阻止に向けた為替介入への期待が萎み次の注目は日銀の政策姿勢に」、2022年4月25日)。

しかし、実際には、日本銀行が円安阻止を狙って金融政策を大きく修正することは考え難く、また、イールドカーブコントロールをさらに柔軟化して、長期金利の上昇を一定程度容認する修正も、今回の決定会合では実施しないのではないか。

今回の会合で示される展望レポートでは、2022年度の消費者物価(除く生鮮食品)の見通し(政策委員の中央値)を前回1月の+1.1%から+1%台後半などへ、大幅に上方修正する見通しである。通常であれば、物価見通しを大幅に上方修正すれば、金融政策を引き締め方向に修正するきっかけとなる。

さらに、4月の消費者物価(除く生鮮食品)は前年比で+2%程度に達する可能性がある。それは、日本銀行が2013年から掲げている物価目標の水準である。それが達成できるということであれば、マイナス金利の解除など、金融政策を本格的に正常化してもおかしくないことになる。

しかし実際にはそのような本格的な政策修正期待は、金融市場に生じないだろう。日本銀行は、足元の物価上昇率の上振れは、原油価格高騰などによる一時的な現象であり、賃金上昇を伴う持続的なものではない、としている。日本銀行が目指している2%の物価目標は、一時的な達成でなく、持続的な達成を目指す目標である。

円滑に金融政策の正常化を実施する絶好のチャンスだが。。。

足元での物価上昇率の上振れは一時的、との日本銀行の説明は正しい。しかし、2%の物価目標はそもそも妥当ではないと考えられる。それは高過ぎて、達成可能な水準ではないからだ。生鮮食品やエネルギー価格の上昇、昨年4月の携帯通信費の引き下げなどは、一時的な側面が強い。それらを除く基調的な物価上昇率は前年比で0%台半ばから後半である。

しかしこの物価上昇率は、日本経済にとっては持続的でないほど高いのではないか。今年の春闘でのベースアップ率は+0.3%強であり、一人当たり名目賃金上昇率は前年比で同程度と考えられる。そうした中、+2%程度の物価上昇率は一時的だとしても、基調的な物価上昇率が前年比で0%台半ばから後半のもとでも、実質賃金は下落を続け、個人消費を悪化させる。その水準であっても、物価上昇率は日本経済の実力に照らして高すぎるのである。

為替市場で歴史的な水準まで円安が進んでおり、また、米国が急速な利上げを実施する方向である現状は、急激に円高方向に巻き戻されるリスクを回避しながら、10年近くにわたる日本銀行の量的緩和政策の正常化を開始するには、まさに絶好のチャンスである。

物価上昇率のピークアウト、米国経済の変調、株価下落など金融市場の不安定化を受けて、年後半にも米国での金融引き締めペースは鈍化し、それを契機に米国での長期金利低下と円高方向への為替市場の巻き戻しが起きる可能性がある。さらに急速な金融引き締めの影響から、来年にかけて米国経済の大幅減速のリスクが高まる可能性がある。そうなれば、為替市場が急速に円高に振れる可能性が出てくる。そして日本銀行は、来年4月の黒田総裁退任後の新体制のもとでも、金融政策の正常化を早期に実施することが難しくなるだろう。

こうした点を踏まえると、政府や国民からの支持も得ながら、円滑に金融政策の正常化を実施するタイミングとしては、今は絶好のチャンスである。そうすべきだと筆者は考えるが、日本銀行が実際にそうした行動を現在とる可能性は極めて小さい。日本銀行は正常化の絶好のチャンスを逃すのである。

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