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米国株大幅下落が米長期金利低下を通じ円安に歯止め

2022/04/27

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急速な金融引き締め観測が株価下落の底流に

4月26日の米国市場で、ダウ平均株価は809ドルの大幅下落となった。1日に千ドル近い株価の下落は、4月22日に続くものだ(コラム、「FRB利上げ加速懸念で米国株が急落。0.75%幅の利上げは行われるか」、2022年4月25日)。株価は、6週間ぶりの低い水準に達している。

株価下落の背景には、先行きの景気情勢への不安がある。米国経済は現時点では依然堅調であるが、世界経済には不安材料が多い。ロシア経済の大幅悪化、対ロ制裁強化による一段の貿易縮小、エネルギー価格の一段高による需要悪化、中国のゼロコロナ政策の影響、などが挙げられる。

ただし、それら以上に株式市場にとって大きな懸念となっているのが、物価高騰を受けた米連邦準備制度理事会(FRB)による急速な金融引き締め策である。それが、米国経済の失速を引き起こすオーバーキル、あるいは米国経済のハードラディングのリスクを株式市場は意識し始めている。

株価下落と並行して、米国市場では長期国債の金利が低下している。先週は2.9%と3%台目前まで上昇していた10年国債金利は、3営業日連続で低下し、現在は2.7%台となっている。これは、先行きの米国経済・物価の下振れリスク部分的に織り込んだものであり、また、株式から安全資産である国債への資金シフトを反映している。

ところが注目したいのは、TB(短期国債)6か月物までの国債金利は上昇を続けていることだ。これは、先行きの景気への不安や株価下落を受けても、当面のFRBの急速な利上げ(政策金利引き上げ)姿勢には変化はない、との市場の見方を反映しているだろう。景気よりも物価高抑制を重視するFRBの政策姿勢が、金融市場にとっては、オーバーキルの不安を掻き立てるものとなっているのである。そして、それが一段の株価下落と長期金利下落に繋がる可能性があるだろう。

円安の流れ一服も転換点はまだ

他方、米国長期金利の低下の影響から、足元では対ドルでの円安の流れに一服感が見られている。円の方向性を決める最大の要因は、この米国長期金利の動きである。米国市場が先行きの米国経済・物価の下振れを意識し、株式市場が調整局面に入れば、米国長期金利もいずれ低下トレンドに入ってくだろう。そうなれば、円安の流れも反転する可能性が高い。

しかし、そうした局面に既に入ったと考えるのは早計である。米国景気は依然堅調である一方、物価の高騰は続いている。そのもとでは、FRBの利上げが加速するとの期待が強まる余地は、夏場頃までは残されているのではないか。

FRBは現在、物価高への対応が出遅れたとの批判を受けている。しかし、この先は、急速な金融引き締めが景気を悪化させるリスクが高まるだろう。そうした兆候が明確に確認された後に、FRBが金融引き締め姿勢を修正しても、その時はすでに手遅れであり、景気悪化懸念から米国の長期金利と株価が急激に低下する可能性が出てくる。またその際には、「リスク回避の円買い」が復活して、円の巻き戻しが急速に進む可能性も出てくるだろう。

このように、この先の日米金融市場は、大きくボラティリティが高まる波乱の展開となる可能性がある。そうした事態を回避するには、FRBが物価高対応のみに注力するのではなく、先行きの経済への配慮もバランス良く行うことが必要だ。そのためにFRBは、市場のインフレ期待の変化、イールドカーブの変化など金融市場が発するシグナルを敏感に捉え、政策姿勢を柔軟かつ機動的に修正することが求められるのではないか(コラム、「実質金利の水準で占うFRB金融引き締め姿勢の転換時期と歴史的円安の行方」、2022年4月22日)。FRBの政策の巧拙は、世界経済の行方も大きく左右するだろう。

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