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2015年人民元ショックの再来か

2022/05/24

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2015年の人民元ショックを想起か

中国から海外への資金流出と人民元安が急速に進んでいる。国際金融協会(IIF)が発表したデータによると、中国の第1・四半期の資本流出額は過去最高に達した。4月以降も資本流出と人民元安の流れは続いている。5月20日に中国人民銀行(中央銀行)が、貸出金利の指標となる最優遇貸出金利(ローンプライムレート、LPR)の5年物を引き下げたことを受け、人民元安はさらに加速している。

こうした動きは、2015年の人民元ショックを思い起こさせるものだ。人民元ショックとは、2015年8月11日に中国人民銀行が人民元を突如切り下げたものだ。その後、国際通貨基金(IMF)のSDR(特別引出権)に人民元が採用されるために必要な技術的な措置、との説明をなされたが、直後には、中国が景気刺激効果を狙って人民元を切り下げる、近隣窮乏化政策と広く受け止められた。それによって他国の国際競争力が低下するなどの懸念から、世界的に株安などの金融市場の混乱を招いた。

また、さらなる人民元切り下げ観測などから、中国からの大量の資金流出が生じた。中国政府は通貨を支えるため、年末までに外貨準備を約7,000億ドル取り崩す事態となった。また各種の資本規制の導入も余儀なくされ、人民元の国際化という政策目標が遠のいてしまったのである。

中国の金融政策は景気減速と人民元安の板挟みに

現状ではそこまで大事には至っていないが、中国からの資金流出は激しい。中国の複数の清算・決済サービス企業のデータによれば、同国の債券市場では4月に3か月連続となる大幅な資本流出が見られた。ここ3か月間で外国人投資家の保有額は3,014億元(約450億3000万ドル、約5兆7500億円)減少したという。

また株式についても、中国本土と香港の株式市場を結ぶ株式相互取引接続(ストック・コネクト)取引を通じ、3月1日から5月20日までの間に49億ドル相当の中国株を外国人投資家が売却したという。

人民元は対ドルで年初から足元まで4.7%下落している。下落傾向が一気に強まったのは、中国人民銀行が4月25日に、預金準備率を0.25%ポイント引き下げたことだ。

さらに、中国人民銀行は5月20日、貸出金利の指標となるLPRの5年物を15ベーシスポイント引き下げて4.45%とした。事前予想よりも大幅な引き下げとなった。他方、同時に引き下げが予想されていた1年物LPRは予想外に3.70%に据え置かれた。

銀行は5年物LPRに基づいて住宅ローンの金利を決める。住宅ローン以外の融資は、1年物LPRで決まる傾向が強いようだ。今回、5年物LPRだけを引き下げたことは、スランプに陥っている住宅市場を支える狙いであったと考えられる。いわばターゲット金融緩和である。他方で、事前に予想されていた1年物LPRの引き下げを見送ったのは、さらなる人民元安と資金流出のリスクを抑えるためだったと考えられる。

中国政府、人民銀行は、国内景気の減速と人民元安と資金流出の板挟みの状況にあり、難しい政策運営を強いられているのである。こうした状況下では、通貨安や金融市場の混乱はより深まりやすいのが一般的である。

アジア地域が新興国市場の不安定化の中心地となる可能性も

米連邦準備制度理事会(FRB)が急速な金融引き締め策を続ける中、金融緩和を維持する日本では通貨安、つまり円安が進んでいる。他方で、中国は金融緩和を進めており、米中間の金融政策は全く逆方向に動いている。こうした下では、円以上に人民元はドルに対して下落してもおかしくない状況であり、この先、人民元安の余地はなお大きいようにも思われる。

感染拡大とゼロコロナ政策の影響により、足元で中国経済は急速に悪化している(コラム「深まる中国の景気減速とアジア金融市場のリスク」、2022年5月13日)。これも、米中の金融政策の差を拡大し、人民元安と資金流出のリスクをさらに高めるのではないか。そして、中国の景気減速の影響は、主に日本を含めたアジア周辺地域に波及することが予想される。それは、ドルに対するアジア通貨全体の下落リスクや資金流出リスクを高めることにもなるだろう。

コロナ問題、ウクライナ問題、米国の急速な金融引き締めは、世界の新興国の金融市場に打撃を与えやすい。この数週間はそうした傾向がより顕著になってきている。そうしたなか、中国経済の減速の影響を大きく受けるアジア地域が、新興国市場の不安定化の中心地となる可能性が出てきたのではないか。

(参考資料)
"China's Markets Are Tested by Foreign Outflows and a Falling Currency", Wall Street Journal, May 23, 2022
「中国人民銀、5年物最優遇貸出金利大幅下げ 融資促進狙う」、2022年5月20日、ロイター通信ニュース

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