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パウエル議長のドル高容認発言は通貨切り上げ競争を招くか

2022/06/24

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「近隣窮乏化政策」とは逆の「通貨切り上げ競争」のリスク

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は23日に、米下院の金融サービス委員会で議会証言を行った。前日の証言では、急速な金融引き締めによって米国経済が後退に陥る可能性について、「確かに可能性はある」と景気後退の可能性を認める発言をしていた(コラム「広がり始めたR-Word:米国景気後退(リセッション)観測」、2022年6月24日)。

パウエル議長は23日の証言で、「我々がインフレと戦う姿勢は無条件だ」と述べて、物価の安定確保を最優先する姿勢を改めて強調した。さらに注目されたのが、議員の質問に答える中で、ドル高にはインフレを緩和する効果がある、との見方を示したことだ。これは、単に事実を述べているだけでなく、パウエル議長がドル高を容認していることを示すもの、と広く受け止められた。

景気情勢が厳しい時には、自国通貨の下落を促すことで景気を支える「近隣窮乏化政策」が各国でとられやすい。現状はその逆であり、各国共に通貨高で物価高を抑えたいとの考えを持っている。しかし自国通貨を為替介入、あるいは金融政策を通じて為替を操作・誘導することは、国際協調の綻びにつながるため、主要国は控えている。

しかし、FRBがドル高の意向を明言すれば、他国も自国通貨高の意向を表明することを控えなくなり、最悪の場合には、「近隣窮乏化政策」とは逆に「通貨切り上げ競争」へ発展していくリスクがあるのではないか。

米国が日本の為替介入を認める可能性はさらに後退

パウエル議長がドル高容認の姿勢を明言する中では、日本が円安阻止のための為替介入を実施することを米国が認める可能性は一段と後退した、と言える。しかし、主要各国が自国通貨高の意向を強める中で、日本は米国との関係悪化を覚悟のうえで、米国の支持を得られないままに円買いドル売りの単独介入に踏み切る可能性も、わずかながら出てきたかもしれない。しかし、単独為替介入の効果は限られる。他方、すべての国が物価高に苦しみ、自国通貨高を望むこの時期に、日本のために協調での円買い介入に応じる国はないのである。

アジアを中心に新興国市場に混乱のリスク

パウエル議長のドル高容認の姿勢は、このように為替安定に向けた各国協調に綻びをもたらすものであるが、それに加えて、新興国にとっても大きな懸念である。FRBが急速に金融引き締めを進め、またドル高容認姿勢を強める場合、新興国からは資金が米国に流れ、一段の自国通貨安が物価高に拍車をかける可能性や、金融市場の混乱が誘発されやすいのである。

国内経済に弱さを受けて米国とは逆に金融緩和を進める中国では、そうしたリスクは高いのではないか。また、弱い中国経済の影響を受けて金融引き締めを進めにくいアジア新興国でも、そうしたリスクは今後高まってくる可能性があるだろう。

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