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日本経済に3つの逆風。来年にかけ世界経済同時不況も(4-6月期GDP見通し)

2022/08/09

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4-6月期は2四半期ぶりのプラス成長の見通し

内閣府は8月15日(月)に、2022年4-6月期GDP統計・一次速報を公表する。年初に拡大した新型コロナウイルスの収束を受けて、同期の実質GDP成長率は2四半期ぶりに前期比プラスになることが見込まれる。

日本経済研究センターが集計するESPフォーキャスト調査によると、4-6月期の実質GDPの予測値は前期比年率+3.2%である。ただしこの調査は6月30日~7月7日に集計したものでやや古い。日本経済新聞社の最近の調査によると、予測平均値は同+2.8%程度である。2%台前半程度になる可能性を見込んでおきたい。

4-6月期の実質GDPを2四半期ぶりのプラス成長に押し上げる最大の原動力となるのは、感染収束を受けた個人消費の持ち直しである。1-3月期は感染拡大と蔓延防止等重点措置の発動により、個人消費は4兆円減少したと推計される。4-6月期にはその反動増が生じた。特に、飲食、旅行、娯楽関連などサービスの増加が顕著になったと考えられる。

しかし、こうした個人消費の反動増にもかかわらず、4-6月期の成長率はそれほど高い水準になるとは見込まれない。5月時点のESPフォーキャスト調査では同期の実質GDPは前期比年率+5%台が予想されていたが、その後大幅に下方修正されたのである。それは、輸出環境がにわかに悪化したことによるところが大きいだろう。

中国で実施された都市封鎖を含めた厳格なコロナ対策、いわゆる「ゼロコロナ政策」によって、中国の経済活動は急激に悪化し、中国の4-6月期の実質GDPは前期比でマイナス成長に陥った。その影響は、中国への輸出減少とサプライチェーンの混乱を通じた生産活動の混乱を通じて、日本経済にも一時的に大きな打撃となったのである。

感染再拡大など3つの逆風で年後半も経済の低迷は続く

7-9月期も4-6月期に続きプラス成長になると現時点では見込んでおきたいが、前期比年率+2%程度と、引き続き勢いを欠くのではないか。同期の日本経済は3つの強い逆風に見舞われている。第1は感染再拡大、第2は物価高、第3は海外景気情勢の悪化、である。

感染は7月に再び急拡大を始め、いわゆる第7波が生じた。全国の新規感染者数は前回の第6波を大幅に上回っている。重症化リスクが比較的小さいことから、政府は緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置など、法的根拠に基づく行動制限を打ち出していない。そのため、個人消費に直接与える悪影響は、過去の感染拡大期と比べて大きくない。

しかし感染者、濃厚接触者が入院や自宅待機を迫られる中、エッセンシャルワーカーを中心に働き手が不足し、それが供給面から経済活動を大きく制約するという問題を生じさせている(コラム「感染・濃厚接触者数1,000万人超の試算も:働き手不足で経済活動への打撃は避けられず」、2022年7月27日)。

他方、6月以降の訪日外国人の入国規制緩和が、一定の景気浮揚効果を発揮することが期待されたが、現状では入国者数はかなり限定的であり、足元の日本経済への影響は軽微である。感染の再拡大も、しばらくの間は入国者増加の障害となるだろう(コラム「訪日外国人観光客の受け入れ再開:インバウンド戦略の再構築を急げ」、2022年5月27日)。

物価高対策として有効なのは中長期の物価高懸念の緩和

大企業の夏のボーナスが大幅に増加したことは、7-9月期の個人消費の好材料である。これは個人消費を4,700億円、年間GDPを0.09%押し上げる計算となる。また、7-9月期の実質個人消費を年率で+2.5%程度押し上げる可能性がある(コラム「夏のボーナス大幅増加も個人消費への影響は限られる」、2022年6月23日)。

しかしそうした効果は、感染再拡大や物価高懸念によってかなりの部分打ち消されてしまうだろう。企業が基本給を引き上げられない代償として一時金を引き上げても、基本給が上昇するとの期待が高まらない限り、個人消費の安定した増加は見込めない。さらに、基本給の増加率が0%台半ば程度のトレンドにとどまると考えられる中、海外市況の上昇や円安進行の影響から消費者物価が前年比で+2%を超える上昇を続けていることは、個人消費の逆風である。こうした高い物価上昇率が長期化し、それに賃金上昇率が追い付かない状況が長く続くとの見方が強まれば、消費者は消費防衛的な傾向を強め、個人消費は一気に腰折れしてしまう可能性がある。

政府によるガソリン補助金、節電ポイントあるいは給付金などは、こうした中長期的な物価高への消費者の懸念を緩和することには役立たない。その役割を担うのは、金融政策である。日本銀行は中長期的な物価の安定について、強いコミットメントを打ち出すべきだ。また、金融政策の柔軟性を高める政策調整を通じて、日本銀行の金融緩和姿勢が変わらないことで、物価高を助長する悪い円安が長く続いてしまうとの個人の懸念を緩和に注力すべきだ。

しかし足元では、円安傾向が一巡してきていることから、日本銀行がこうした政策の調整を近い将来に行う可能性は後退してきているのが現状ではないか(コラム「急速に進んだ円の巻き戻し」、2022年7月29日)。

世界経済同時不況の可能性

世界経済は、新型コロナウイルス問題の影響が続く中でウクライナ問題が生じ、まさに危機に危機が重なる状況にある。米国にとっては歴史的な物価高を受けた急速な金融引き締めが、経済の大きな逆風となりつつある。欧州はロシア産エネルギーの輸入規制・禁止措置に伴うエネルギー不足が経済活動を大きく妨げている(コラム「天然ガスを巡るロシアと欧州のもう一つの戦争:欧州分断化と景気後退のリスク」、2022年7月26日)。中国は、不動産不況が続く中、感染再拡大への対応としてのゼロコロナ政策が経済活動を強く制約し、さらにサプライチェーンの支障が他国の経済にも打撃を与えている(コラム「構造改革とゼロコロナ政策の堅持が中国の景気悪化リスクを高める」、2022年8月2日)。

中国は今年4-6月期にゼロコロナ政策の下で一時的に景気後退の状態に陥った。ユーロ圏は冬場のエネルギー需要期にあたる今年10-12月期に景気後退に陥る可能性がある。米国は急速な金融引き締めの影響で来年前半に景気後退に陥る可能性がある。その場合、日本も来年前半に景気後退に陥る可能性が出てくるだろう。

このように、各国・地域で景気後退入りのタイミングにずれはあるものの、来年には揃って景気後退に陥る、世界同時不況となる可能性が相応に高まっているのではないか。そうなれば、日本経済だけが成長を続けることはほぼ考えられない。

日本はコロナショックからの本格回復がないまま次の調整局面へ

日本経済は2020年のコロナショックから、なお本格的に立ち直っていない。他国では実質GDPの水準がコロナショック前の水準を早期に取り戻していく中、日本の実質GDPはなおコロナショック前以下の水準にある。コロナショック前の2020年1-3月期の実質GDPの水準を上回るのは、2022年10-12月期と見込まれる。

さらに、実質GDPの水準がコロナショック前のピークである2019年7-9月期の水準を取り戻す時期は未だ見えてこない。早くても2025年ではないかと考えられる。

他国に遅れてコロナショックからの立ち直りが日本でも生じ、リベンジ消費のような強い景気の戻りがいずれは生じるとの見方がされてきたが、それはなお実現されていない。来年にかけて世界経済の減速の影響を強く受ける中、他国で見られた一時的な消費の上振れは、日本では生じない可能性が高まっている。

政府は2022年度の実質GDP成長率の見通しを1.2%下方修正して+2.0%としたが、それでもなお楽観的過ぎる。足元の情勢を踏まえると、2022年度の成長率は+1%台半ば程度であり、来年世界経済が後退局面に陥れば、2023年度の日本の成長率は+1%を下回るのではないか。

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