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日本経済はプラス成長軌道に復すも先行き3つの逆風。来年にかけ世界同時不況入りも(4-6月期GDP統計)

2022/08/15

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4-6月期は6四半期ぶりの高い成長率

内閣府は8月15日(月)に、2022年4-6月期GDP統計・1次速報を公表した。実質GDPは前期比年率+2.2%と1-3月期の同+0.1%を上回り、2020年10-12月期の同+6.7%以来、6四半期ぶりの高い増加率を記録した。これで3四半期連続のプラス成長となった。しかし、事前予想の+2.6%~+2.8%程度を下回っている。

ちなみに、国土交通省において「建設工事受注動態統計調査」の不適切処理が行われたが、その影響を受けるGDPの基礎統計「建設総合統計」の遡及改定(2018年~)が行われ、今回のGDP統計に反映されている。

4-6月期の実質GDPを6四半期ぶりの成長率に押し上げる最大の原動力となったのは、感染収束を受けた個人消費の持ち直しである。実質個人消費は前期比+1.1%と前期の同+0.3%を上回っている。1-3月期は感染拡大と蔓延防止等重点措置の発動により、個人消費は4兆円減少したと推計される。4-6月期にはその反動増が生じたのである。衣類など実質半耐久財の増加率が前期比+3.9%と際立ったが、それに加えて、飲食、旅行、娯楽関連などのサービスの増加が顕著になったと考えられる。

しかし、こうした個人消費の反動増にもかかわらず、4-6月期の成長率はそれほど高い水準になったとは言えない面もある。5月時点のESPフォーキャスト調査では同期の実質GDPは前期比年率+5%台が予想されていたが、その後+2%台へと大幅に下方修正されたのである。それは、輸出環境がにわかに悪化したことによるところが大きいだろう。

中国で実施された都市封鎖を含めた厳格なコロナ対策、いわゆる「ゼロコロナ政策」によって、中国の経済活動は急激に悪化し、中国の4-6月期の実質GDPは前期比でマイナス成長に陥った。その影響は中国への輸出減少とサプライチェーンの混乱を通じた生産活動の混乱を通じて、日本経済にも一時的に大きな打撃となったのである。

感染再拡大など3つの逆風で年後半も経済の低迷は続く

7-9月期も4-6月期に続きプラス成長になると現時点では見込んでおきたいが、前期比年率+1%台と、引き続き勢いを欠くのではないか。同期の日本経済は3つの強い逆風に見舞われている。第1は感染再拡大、第2は物価高、第3は海外景気情勢の悪化、である。

感染は7月に再び急拡大を始め、いわゆる第7波が生じた。全国の新規感染者数は前回の第6波を大幅に上回っている。重症化リスクが比較的小さいことから、政府は緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置など、法的根拠に基づく行動制限を打ち出していない。そのため、個人消費に直接与える悪影響は、過去の感染拡大期と比べて大きくない。

しかし感染者、濃厚接触者が入院や自宅待機を迫られる中、エッセンシャルワーカーを中心に働き手が不足し、それが供給面から経済活動を大きく制約するという問題を生じさせている(コラム「感染・濃厚接触者数1,000万人超の試算も:働き手不足で経済活動への打撃は避けられず」、2022年7月27日)。

他方、6月以降の訪日外国人の入国規制緩和が、一定の景気浮揚効果を発揮することが期待されたが、現状では入国者数はかなり限定的であり、足元の日本経済への影響は軽微である。感染の再拡大も、しばらくの間は入国者増加の障害となるだろう(コラム「訪日外国人観光客の受け入れ再開:インバウンド戦略の再構築を急げ」、2022年5月27日)。

物価高対策として有効なのは中長期の物価高懸念の緩和

大企業の夏のボーナスが大幅に増加したことは、7-9月期の個人消費の好材料である。これは個人消費を4,700億円、年間GDPを0.09%押し上げる計算となる。また、7-9月期の実質個人消費を年率で+2.5%程度押し上げる可能性がある(コラム「夏のボーナス大幅増加も個人消費への影響は限られる」、2022年6月23日)。

しかしそうした効果は、感染再拡大や物価高懸念によってかなりの部分は打ち消されてしまうだろう。4-6月期の実質雇用者報酬は前期比-0.9%と大幅に悪化している(前期は同-0.1%)。物価高が、個人消費の強い逆風となっているのである。

企業が基本給を引き上げられない代償として一時金であるボーナスを引き上げても、基本給が上昇するとの期待が高まらない限り、個人消費の安定した増加は見込めない。さらに、基本給の増加率が0%台半ば程度のトレンドにとどまると考えられる中、海外市況の上昇や円安進行の影響から消費者物価が前年比で+2%を超える上昇を続けていることは、個人消費活動を損ねている。

こうした高い物価上昇率が長期化し、それに賃金上昇率が追い付かない状況が長く続くとの見方が強まれば、消費者は消費防衛的な傾向を強め、個人消費は一気に腰折れしてしまう可能性があるだろう。

政府によるガソリン補助金、節電ポイントあるいは給付金などは、こうした中長期的な物価高への消費者の懸念を緩和することには役立たない。その役割を担うのは、金融政策である。日本銀行は中長期的な物価の安定について、強いコミットメントを打ち出すべきだろう。また、金融政策の柔軟性を高める政策調整を通じて、日本銀行の金融緩和姿勢が変わらないことで、物価高を助長する悪い円安が長く続いてしまうとの個人の懸念を緩和に注力すべきだ。

しかし足元では、円安傾向が一巡してきていることから、日本銀行がこうした政策の調整を近い将来に行う可能性は後退してきているのが現状だ(コラム「急速に進んだ円の巻き戻し」、2022年7月29日)。

世界経済同時不況の可能性

世界経済は、新型コロナウイルス問題の影響が続く中でウクライナ問題が生じ、まさに危機に危機が重なる状況にある。米国にとっては歴史的な物価高を受けた急速な金融引き締めが、経済の大きな逆風となりつつある。欧州はロシア産エネルギーの輸入規制・禁止措置に伴うエネルギー不足が経済活動を大きく妨げている(コラム「天然ガスを巡るロシアと欧州のもう一つの戦争:欧州分断化と景気後退のリスク」、2022年7月26日)。中国は、不動産不況が続く中、感染再拡大への対応としてのゼロコロナ政策が経済活動を強く制約し、さらにサプライチェーンの支障が他国の経済にも打撃を与えている(コラム「構造改革とゼロコロナ政策の堅持が中国の景気悪化リスクを高める」、2022年8月2日)。

中国は今年4-6月期にゼロコロナ政策の下で一時的に景気後退の状態に陥った。ユーロ圏は冬場のエネルギー需要期にあたる今年10-12月期に景気後退に陥る可能性がある。米国は急速な金融引き締めの影響で来年前半に景気後退に陥る可能性がある。

このように、各国・地域で景気後退入りのタイミングにずれはあるものの、来年には揃って景気後退に陥る、世界同時不況となる可能性が相応に高まっているのではないか。そうなれば、日本経済だけが成長を続けることはほぼ考えられない。

日本はコロナショックからの本格回復がないまま次の調整局面へ

日本経済は2020年のコロナショックから、なお本格的に立ち直っていない。他国では実質GDPの水準がコロナショック前の水準を早期に取り戻していく中、日本の実質GDPはなおコロナショック前以下の水準に沈んでいる。コロナショック前の2020年1-3月期の実質GDPの水準を上回るのは、ほぼ3年後となる2022年10-12月期と見込まれる。

さらに、実質GDPの水準がコロナショック前のピークである2019年7-9月期の水準を取り戻す時期は未だ見えてこない。現時点では2025年7-9月期とみておきたい。その場合、「失われた6年」となる。

他国に遅れてコロナショックからの立ち直りが日本でも生じ、リベンジ消費のような強い景気の戻りがいずれは生じるとの見方がされてきたが、それは未だ実現されていない。来年にかけて世界経済の減速の影響を強く受ける中、他国で見られた一時的な消費の上振れは、日本では生じない可能性が高まっている。

政府は2022年度の実質GDP成長率の見通しを1.2%下方修正して+2.0%としたが、それでもなお楽観的過ぎる。足元の情勢を踏まえると、2022年度の成長率は+1%台半ば程度が妥当であり、来年世界経済が後退局面に陥れば、2023年度の日本の成長率は+1%を下回ることになるのではないか。

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