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近づく世界同時不況の足音:強まるドル高の弊害と国際協調の揺らぎ(IMF世界経済見通し)

2022/10/12

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最悪はこれから。世界経済の3分の1は来年縮小へ

国際通貨基金(IMF)は10月11日に最新の世界経済見通しを公表した。2022年の成長率見通しは+3.2%と前回7月時点から変わらなかったが、1月時点の+4.4%からは既に大きく下方修正されている。

他方、来年2023年の成長率見通しは前回7月時点から0.2%ポイント下方修正され、+2.7%となった。2023年の成長率見通しは、今年1月時点では+3.8%だった。これは、新型コロナウイルス問題によって成長率が一時的に大きく落ち込んだ2020年を除けば、リーマンショック(グローバル金融危機)後の2009年以降で最低の成長率である。さらにIMFは、2020年の成長率が2%を下回る確率は25%としている。

またIMFは、来年は世界の約3分の1が縮小する恐れがあるとし、米国、欧州連合(EU)、中国、つまり主要先進国・地域は失速が続くとの見方を示している。

IMFのチーフエコノミストは「最悪はこれからだ。2023年は景気後退のように感じる人が多いだろう」と指摘した。また、世界銀行の総裁は、世界的な景気後退の「現実的危険性」があると指摘している。

異例の利上げ競争と強まる政策の手詰まり感

世界経済の減速見通しを受けて、原油など商品市況には下落傾向が見え始めている。この点から、歴史的な物価高は今後緩やかに鎮静化していくことも見込まれるところだ。

しかしそのことが、直ぐに世界経済の安定に結びつくことはないだろう。米連邦準備制度理事会(FRB)は、物価高を定着させない強い覚悟で政策運営に臨んでいる。そのため、景気減速の兆候が広がり、また物価上昇圧力が多少和らぐ兆候が見られても、容易には金融緩和に転じないだろう。あるいは、金融緩和に転じてもそのペースは緩やかとなりやすい。そうした過程で、米国経済はダメ押しされ、一段と下振れることになるリスクがある。

他方、物価高を助長してしまう自国通貨安に何とか歯止めをかけようと各国は躍起になっている。日本を除く主要国は、米国の急速な利上げに懸命に付いていくことで、対ドルでの自国通貨安を食い止めようとしているのである。

しかし多くの国、特に欧州の国々は、米国よりも景気情勢が厳しい。そうした中で米国の急速な利上げに追随すれば、国内景気は犠牲となってしまう。

一方で、金融引き締めを控えて通貨安を容認すれば、それがもたらす物価高によって、やはり国内経済に打撃が及ぶのである。各国の政策は、ディレンマに直面している。

高まるドル高の弊害と国際協調の機能不全

IMFは、FRBの急速な利上げが加速するドル高の弊害にも注目する。ドル高進行による他国通貨安は各国で物価上昇圧力を高める。また、ドル建ての対外債務を抱える新興国では、自国通貨建てで見た対外債務が膨らみ、デフォルトのリスクを高める。自国通貨安による海外への資金流出とそれに伴う金融市場の混乱も大きな問題だ。

FRBの利上げ局面では、常に新興国はその政策を批判してきた。しかし今回は、新興国だけでなく先進国もドル高への不満を募らせているのが特徴的だ。歴史的物価高が続く中、各国は物価高を助長する自国通貨安を回避するために、景気を犠牲にして米国の利上げについていくことを強いられるためだ。

今後は、米国に対して急速なドル高やそれを引き起こしている大幅利上げ策の修正を求める声が、先進国からも高まるのではないか。しかし米国は、当面のところはそうした声に耳を貸すことはないだろう。その場合、国際金融の分野では、先進国間の国際協調は揺らいでいく可能性がある(コラム「継続するポンド不安と各国政策の手詰まり感:国際協調に綻び」、2022年9月27日、「G20中央銀行財務相会合と日本の為替介入:各国が米国のドル高への批判を強める可能性も」、2022年10月11日)。

他方、ロシアのウクライナ侵攻以降、新興国と先進国の間には分断化の傾向が強まっており、世界経済の安定のために両者が協調する傾向は一気に薄れている。

この2つの面での国際協調の揺らぎ、あるいは機能不全が、世界経済の見通しを一段と厳しいものとしている。

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