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国際協調の揺らぎを示唆したG7共同声明:各国はドル独歩高に強い不満

2022/10/13

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各国は米国の金融・為替政策への不満を募らせる

G7(主要7カ国)財務相・中央銀行総裁会議が、米国時間12日、日本時間13日にワシントンで開かれた。その後に発表された声明文は、ドル独歩高の弊害に先進各国が苦しんでおり、ドル高進行とその背後にある米連邦準備制度理事会(FRB)の急速な利上げに対して、各国が強い不満を抱いていることをうかがわせる、異例の内容になった(コラム、「G20中央銀行財務相会合と日本の為替介入:各国が米国のドル高への批判を強める可能性も」、2022年10月11日)。

声明文では、「多くの通貨が今年、急激に変動している」、「最近の急激な変動を踏まえ、世界市場を注意深く監視し続ける」とし、ドル独歩高の動きに対して各国が強い警戒を抱いていることがまず確認された。

さらに、「(G7の各中央銀行は)それぞれのマンデート(使命)に沿って、物価の安定を達成することに強くコミットしている」と確認した上で、「経済活動への影響や国を超えた波及を抑制することに留意しつつ、金融政策の引き締めのペースを適切に調整し続けるだろう」と明記された。

これらのうち最後の文言は、米国の利上げによって生じるドル独歩高が自国通貨の下落を通じて物価高を助長していること、それを回避するために通貨の安定のために大幅利上げを強いられ、それが各国経済に大きな打撃となっていることに対する、各国の強い不満を反映していると言えるだろう。

くだけていえば、「米国は自国の利害だけでなく、ドル高進行が他国の経済、金融市場に与える弊害にも配慮して金融政策を実施して欲しい、できれば利上げのペースを落として欲しい」、というのが米国以外の国の本音なのだろう。

G7会合では、日本は為替介入の実施について説明を行ったが、やや抜け駆け的に為替介入を実施した日本に対する不満よりも、こうした米国の政策に対する不満の方が他国の間では強かったとみられる。

米国は金融政策の自由度を捨てない

 

ただしこうした他国からの要請は、米国にとっては受け入れられるものではない。そこで、米国は「(G7の各中央銀行は)それぞれのマンデート(使命)に沿って、物価の安定を達成することに強くコミットしている」との文言を声明文に盛り込んで、金融政策の自由度を奪われないように図った、ということではないか。

いずれにしても、ドル高、米国の金融政策を巡って、G7各国はかなり不満を募らせていることは間違いない。今までも、米国が金融引き締めを進め、それがドル高を生じさせる局面では、新興国は常に米国の金融引き締め策を批判してきた。ドル高・自国通貨安が自国からの資金流出を招き、金融市場を混乱させることや、ドル建て対外債務の返済をより難しくさせるためだ。

しかし今の局面では、新興国だけでなく先進国も米国の政策に不満を抱き、軌道修正を求めているのは、極めて異例なことと言える。

国際金融のトリレンマで多くの国は金融政策の自由を犠牲に

ところで、国際金融のトリレンマというよく知られた理論がある。「資本移動の自由」、「為替の安定」、「金融政策の自由」の3つを同時に実現することはできない、というものだ。現在は、各国ともに物価高に苦しんでおり、物価高を助長しかねない自国通貨安を回避する、「為替の安定」を強く望んでいる。その際には、「資本移動の自由」か「金融政策の自由」のどちらかを諦めなくてはならなくなる(コラム、「為替安定のため他国は金融政策の自由度を制限、日本は為替介入」、2022年9月26日)。

FRBが3回連続で0.75%という大幅な利上げを実施したが、それに後れを取って自国通貨安が進まないように、欧州中央銀行(ECB)なども0.75%の大幅利上げの実施を強いられている。これは、国際金融のトリレンマで言えば、「金融政策の自由」を犠牲にして、「為替の安定」を選択している行動と言える。

各国で経済情勢は異なっており、例えば米国よりもユーロ圏経済の方が弱い状況だが、ECBは経済を犠牲にしても、FRBの大幅利上げに追随することで、為替の安定確保を優先しているのである。しかし、国内経済に配慮すれば、そのような政策を続けることは次第に難しくなってきたのである。政策は手詰まり感が強まっている。そこで、米国に対して急速な金融引き締め策の軌道修正を要請し始めたとみられる。

他の先進国にも為替介入が広がる可能性

しかし、金融政策は各国の経済・物価環境に応じて中央銀行がそれぞれ決定することが建前であり、それを盾に米国は、他国の要求を突っぱねることになるだろう。その場合、日本に続いて他の先進国でも、ドル買い自国通貨売りの単独介入の実施を検討することが考えられる。

「金融政策の自由」を取り戻しつつもなお「為替の安定」を確保しようとすると、国際金融のトリレンマのうち、「資本移動の自由」を捨てるほかなくなる。しかし実際のところ、先進国が、自由な資本移動を制限し、厳しい資本規制を導入することは考えられない。ただし資本規制ではないが、為替介入は、市場の自由な取引に当局が直接影響を与えるものであり、自由な資本移動を一定程度制限する措置に近いと言えるだろう。

揺らぐ国際金融での国際協調

それでも為替介入は資本規制ほどには強い政策でないことから、為替を安定化させる効果も限られる。そうしたなかでも、「為替の安定」を確保するには、為替介入と同時に、為替安定に一定程度配慮した金融政策を続けることが必要となる。国際金融のトリレンマのうち「資本移動の自由」、「金融政策の自由」をそれぞれ一定程度犠牲にすることで、いわば合わせ技で「為替の安定」を目指すポリシーミックス(政策の組み合わせ)となるのである。

このような形で、先進各国が為替介入の実施に踏み切っていけば、国際金融における先進各国の国際協調は大きく揺らいでしまう。そうでなくても、各国がドル独歩高と米国の金融引き締め策への不満を強め、修正を要請する現段階で、既に国際協調は揺らぎ始めていると言える。米国がそうした要請を突っぱねることで、米国と他国との軋轢は今後一層強まっていくだろう。

他方、こうした他国の不満や要請は、直ぐには米国の政策姿勢に影響を与えないであろうが、いずれは経済・物価環境の変化と共に、FRBの金融引き締め策に修正を迫る一因となることは考えられる。それがドル独歩高に歯止めを掛けることに繋がっていく可能性についても、見ておきたいところだ。

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