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32年ぶりの円安水準で浮かび上がる過去と異なる為替介入策:各国で強まる米国金融・為替政策への批判

2022/10/14

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米国9月消費者物価指数で32年ぶりの円安に

米国時間13日に発表された米国9月消費者物価指数で、コア指数(除く食料、エネルギー)は事前予想を上回り、40年ぶりの水準となった。これを受けて、11月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で米連邦準備制度理事会(FRB)が4回連続で0.75%の大幅な利上げに踏み切るとの見方が強まっている。またその後も大幅な利上げが持続するとの見方を市場は強めた。

それを受けてドル円レートは一段と円安が進み、海外市場で147円66銭近辺と1990年8月以来32年ぶりの安値を更新した(コラム「為替介入でも止まらない円安が物価高懸念の中心に」、2022年10月13日)。ただし現時点では、政府が実施した為替介入は9月22日のみで、2回目は実施していない。

日本の為替介入策は変質したか

米国時間12日にワシントンで開かれたG7財務相・中央銀行総裁会議は、2017年5月に打ち出した「為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済および金融の安定に悪影響を与え得る」との立場を再確認した。日本政府は、9月の為替介入はG7で合意した方針に従って実施したことを強調している。

過去の為替介入では、一度政府が為替介入に踏み切ると、しばらくは断続的に、時には毎日のように為替介入が実施されることが多かった。それと比べると、今回は初回の介入時の水準を超えて円安が進んでも、2回目の為替介入がなかなか実施されない。これは、日本政府が、G7の合意を尊重して、「為替レートの過度の変動や無秩序な動き」が生じることを為替介入実施の条件としていることが理由なのではないか。あるいは、米国当局から事前に為替介入の承認を取り付けた際に、そのような条件を付されたのかもしれない。

実際には、政府は為替市場のボラティリティを抑えるだけではなく、物価高を助長し経済に悪影響を与える円安進行を食い止める、あるいは円高方向に戻したいと本音では考えているはずだ。しかし、建前上G7の合意を尊重することを強いられている結果、為替介入の実施が過去と比べてかなり制限されているのではないか。

9月22日は、日本銀行が決定会合で金融政策の維持を決め、また記者会見で黒田総裁が金融緩和の継続を改めて強調したことを受けて円安が大きく進んだタイミングを捉えて、政府は為替介入に踏み切った。しかし、ドル円レートを揺り動かす材料の多くは9月消費者物価指数のように、東京市場ではなく米国市場の取引時間帯で生じやすいのである。

為替介入が協調介入である場合であれば、米国市場で大きく円安が進めば、日本は米国当局に要請して委託介入を実施できる。しかし今回のような単独介入では、それができない。日本側の材料によって、東京市場で円安が大幅に進む局面でしか政府が為替介入をできないのであれば、介入実施の機会はかなり限られてしまうのではないか。

このような点が、過去の為替介入時と比べても、介入の効果を削いでる面があるのではないか。

先進国・新興国の間で強まるドル高進行への不満と米国金融・為替政策への批判

ところで、G7財務相・中央銀行総裁会議の後に開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議は、事前の予想通りに、先進国と新興国の対立から声明文を発表することができなかった。ただし、閉幕後に議長国のインドネシアが公表した文書では、各国中銀による利上げについて、「物価を安定させ、他国への影響を回避するためペースを適切に調整する」と発表された。これは米国の急速な利上げとそれによるドル高進行が、多くの国に問題を生じさせており、それに対する不満が高まっていることを裏付けるものである。G7財務相・中央銀行総裁会議が発表した声明文にも同様の主旨のコメントが盛り込まれた(コラム「国際協調の揺らぎを示唆したG7共同声明:各国はドル独歩高に強い不満」、2022年10月13日)。

ウクライナ問題を巡っては先進国と新興国の間で足並みの乱れが表面化しているが、ドル高進行を受けた米国の金融・為替政策に対する不満では、先進国と新興国の足並みが揃ってきたのである。

米国の大幅利上げ姿勢を変えさせる4つの要因

米国の9月消費者物価指数を受けて、FRBの大幅利上げ継続の姿勢は当面変わらないだろうが、景気減速と物価上昇圧力緩和の兆候、英国市場混乱など海外金融情勢の不安定化といった要因に、海外からの米国の金融・為替政策に対する批判の高まりが重なると、3つの要因の合わせ技で、いずれ、FRBの大幅利上げ姿勢に変化を生じさせることも考えられる。FRBの利上げ幅が0.25%に縮小するとの期待が強まる時点で、米国の長期金利の上昇は一巡し、ドル高円安の流れが一巡することが期待される。

今年12月のFOMCまではFRBは大幅な利上げを続ける可能性は高く、その場合、FF金利は4%台半ばから後半の水準に達する。

ただしその場合、FRBが注目している短期金利と1年半の国債利回り(現時点で4.4%程度)とが逆転し、逆イールドが生じる可能性がある。FRBがこれを景気悪化と先行きの物価上昇率の低下を示唆するものと考えれば、利上げペースを明確に縮小させることを検討し始める可能性があるだろう。これが4つ目の要因である。

FRBの政策姿勢は、今後の経済・物価指標を中心に上記の4つの要因に左右されようが、早ければ12月のFOMC後から来年初め頃にかけて、利上げペースを明確に縮小させるとの観測が金融市場で強まり、円安の流れにようやく歯止めが掛かっていく可能性を見ておきたい。その時点までに、ドル円レートは150円台半ば頃まで円安が進んでいる可能性があるのではないか。

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