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防衛財源問題は税制改正大綱でも実質先送りか

2022/12/09

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増税で賄う必要があるのは1兆円強というのは本当か

政府・与党は2023年度から5年間の防衛費を約43兆円とすることで一致した。これを受けて岸田首相は12月8日に、5年目の2027年度には4兆円程度の追加財源が必要となり、このうち1兆円強を増税で賄うと表明した。さらに所得税は増税の対象としない考えを示しており、法人増税で議論を進めることを示唆している(コラム「防衛費増額は規模先にありき、恒久財源確保先送りの決着か」、2022年12月8日)。

増税による防衛財源の確保に否定的な自民党内保守派に配慮して、1兆円強と少額な増税規模にとどまることを政権はアピールしているように見える。岸田首相は、歳出削減、特別会計の剰余金、税外収入の活用などで2027年度の防衛費増額分の4兆円のうち3兆円近くを賄うことができると説明しているが、それはかなり不確実なのではないか。

そもそも、剰余金などの活用は一時的な財源であって恒久財源ではない。来年度に限れば、防衛費の増額分は1兆円弱程度とみられることから、そうした一時的な財源でそれを賄うことも可能だろうが、2027年度までそうした一時的財源で賄い続けることは、ごまかし的な数字の操作などを行わない限り無理だろう。しかも、2027年度以降も4兆円程度の防衛費の増額分は維持される可能性が高く、それを一時的財源でずっと賄い続けることなどはできない。

さらに、歳出削減の余地も限られるだろう。そもそも、歳出削減や剰余金活用などのいわゆる「埋蔵金」で財政赤字分を賄うことが簡単にできるのであれば、既にそれで財政赤字の削減を実施しているはずだ。

なし崩し的に新規国債発行で賄われるようになっていく可能性

こうした点を踏まえると、2027年度には防衛費増額分の4兆円に近い金額で財源不足が生じ、1兆円強ではなく4兆円近い規模の増税を実施する必要が生じるのではないか。今の時点から4兆円規模の増税実施を求めると、それは党内での強い反発を招き、増税の実施自体が危うくなることから、議論を小幅な増税でスタートし、後に増税規模を膨らませていく狙いが政権にはあるのかもしれない。

防衛費増額の財源確保のために岸田首相が与党に増税の検討を指示したことを受け、与党税制調査会は本格的な議論に入る。与党税制調査会は15日にまとめる2023年度与党税制改正大綱に増税策を組み入れることがにわかに求められたのである。しかし、この短時間で与党内での調整を行い、増税項目、規模、実施時期を具体的に決めることはかなり難しい。そのため、今回は増税について大まかな方向を示すことしかできないのではないか。

その場合、増税による防衛費財源確保の方針も、今後は漂流してしまい、いずれは消失してしまう恐れも出てくるだろう。来春の統一地方選挙への影響にも配慮して、来年度には増税を実施しないことを政府は既に決めているが、来年に入って景気情勢が悪化すれば、2024年度、あるいはそれ以降の増税実施も先送りされてしまう可能性がある。最終的には増税実施の方針はどんどん曖昧になっていく一方、防衛費の増額は着実に実施されていき、なし崩し的に新規国債発行で穴埋めされていく可能性が相応にある。こうした展開を、増税に対する抵抗が強い自民党内保守派は狙っているのかもしれない。

そうなれば、本来は、現役世代で幅広く分かち合うべき防衛費増額は、将来世代に幅広く転嫁されていくことになってしまう。それは経済の成長力に逆風となり、国力の低下がむしろ総合的な防衛力を損ねてしまう恐れも出てくるのではないか(コラム「問題先送りの公算が高まる防衛費増額の財源確保」、2022年11月30日、「防衛費増額の負担は現役世代で広く分かち合うべき(防衛力強化の有識者会議報告書)」、2022年11月24日)。

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