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短観(12月調査)は海外景気が最大のリスクとなる来年の日本経済の姿を先取り:円安一巡で日銀への政策修正圧力は緩和へ

2022/12/14

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製造業と非製造業で景況感に差:来年の日本経済の姿を先取り

日本銀行が12月14日(水)に発表した短観(12月調査)では、全体としては比較的安定した経済環境が示されたが、外需と内需の状況の差を映して、製造業と非製造業の景況感の差が際立つ形となった。これは、来年の日本経済の姿を先取りしたものと考えられる。

大企業製造業の業況判断DI(最近)は、前回9月調査の「8」から12月調査では「7」へとわずかながら低下した。これは事前予想の6~7とほぼ一致するものだ。緩やかではあるが、4四半期連続の低下となった。

石油・石炭製品の業況判断DI(最近)が前回比40ポイントの大幅下落となるなど、足元及び先行きの市況の下落見通しを反映して、素材型産業の景況感悪化が目立つ。他方、自動車、造船などの加工型業種の景況感は比較的安定している。

大企業製造業の業況判断の足踏みは、鉱工業生産統計からも推察できるところだ。10月の鉱工業生産は前月比ー2.6%と、前月の同ー1.7%に続いて大幅下落となった。生産予測調査によれば11、12月の生産は増加が見込まれるが、統計の歪みなどを考慮すると、10-12月期は前期比-3%程度の大きな下落となる見込みだ。背景にあるのは輸出環境の悪化だろう。足元ではゼロコロナ政策の影響を受けている中国向けの輸出が特に大きく下振れている。

他方で、大企業非製造業の業況判断DI(最近)は、「14」から「19」へと+5ポイント上昇した。これは事前予想の17程度を上回り、比較的大きな幅での改善となった。

コロナ問題の影響が薄れ個人消費は比較的堅調

先行きが懸念される外需とは対照的に、内需は比較的安定している。とりわけ、物価上昇の逆風が続く中でも、個人消費には持ち直し傾向が見られる。日本銀行の消費活動指数は、10月に前月比+2.2%と大きく増加しており、10-12月期では前期比+3.2%の大幅増加ペースにある。足元で感染の再拡大は見られるものの、もはや政府による厳しい規制措置が講じられないこともあり、個人消費には大きな打撃となっていない。2020年以降の新型コロナウイルス問題は収束の方向にあり、それを受けて個人消費は持ち直しているのである。

さらに10月には水際対策緩和が導入され、インバウンド需要が増加している。これは、10-12月期の名目GDPを前期比で924億円程度(+0.1%)押し上げる、と試算される(コラム「世界の海外旅行の回復と水際対策緩和後の日本のインバウンド需要見通し:2023年2.1兆円」、2022年10月6日)。

また年末にかけて実施されている全国旅行支援は、10-12月期の個人消費を4,464億円押し上げると試算される(コラム「「全国旅行支援」の消費押し上げ効果は4,464億円」、2022年10月11日)。これは、10-12月期のGDPを前期比で+0.33%押し上げる計算だ。

ちなみに、年明け1月10日に規模を縮小させた形で再開される「全国旅行支援」の消費押し上げ効果は、3月末まで実施された場合には2,460億円と推定される(コラム「年明けに再開される「全国旅行支援」の消費押し上げ効果は3月末までで2,460億円:出口戦略も重要に」、2022年11月28日)。

日本経済が新型コロナウイルス問題の悪影響を乗り越えつつあることに加え、このような政策面での支援が、年末から年明けにかけての個人消費を支えるだろう。そのため、足元の日本経済は、円安・物価高の逆風に晒されつつも、比較的安定した状態にある、と評価できる。

ただし、大企業全産業の2022年度設備投資計画は、前年度比+19.2%と事前予想の+20.7%程度を下回っており、製造業、非製造業ともに設備投資活動にも企業のやや慎重な姿勢がみられた。

企業の5年後物価見通し上方修正は一巡

先行きの物価や企業収益環境を占う観点から業況判断DI以外で特に注目されるのは、販売価格・仕入れ価格判断DIである。製造業の仕入れ価格判断DIは前回比1ポイントとわずかな上昇にとどまった。海外での原油市況下落や円安の一巡を反映したものだろう。他方で、製造業の販売価格DIは前回比5ポイントの上昇となった。原材料コストの上昇が足元で一服する中でも、製造業は過去のコスト増加の価格転嫁を続けていることを示唆していよう。

他方、前回の調査では、企業の5年後の物価見通しが、日本銀行の物価目標である+2.0%に初めて達した点が注目を集めた。今回の調査では同じ+2.0%の水準が維持された。企業の中長期の物価見通しの上方修正は一巡しているのである。これは、海外での原油市況下落や円安の一巡の影響に加えて、足元及び先行きの内外経済状況に関する企業の慎重な見方を反映しているのだろう。

リスクは海外経済:各国の大幅利上げで高まる世界同時不況入りの可能性

2023年の日本経済は、再び大きな試練に晒されるのではないか。主なリスクは国内ではなく海外にある。

米連邦準備制度理事会(FRB)は、物価高を定着させない強い覚悟で政策運営に臨んでいる。そのため、景気減速の兆候が広がり、また物価上昇圧力が多少和らぐ兆候が見られても、容易には金融緩和に転じないだろう。あるいは、金融緩和に転じてもそのペースは緩やかとなりやすい。そうした過程で、米国経済は一段と下振れることになるのではないか。

他方で、物価高を助長してしまう自国通貨安に何とか歯止めをかけようと、各国は躍起になっている。日本を除く主要国は、米国の急速な利上げに懸命に付いていくことで、対ドルでの自国通貨安を食い止めようとしている。こうして生まれた世界同時の大幅利上げ状態の下、先行きの世界経済は悪化し、世界同時不況入りの可能性が高まっているように思われる。日本経済は現在のところは比較的安定しているものの、海外経済が顕著に悪化すれば、日本経済だけが安定を維持することは難しくなる。

海外経済が悪化し、FRBの金融緩和期待が高まる中では、為替市場では急速な円の巻き戻しが生じる可能性があるだろう。それも株価下落を伴って日本経済に強い逆風となり、震源地ではない日本の経済が他国よりも悪化することも考えられる。

日本銀行の政策修正は期待薄:日本銀行は逃げ切れたか

足元の為替市場では円安の修正が進んでいる。背景にはFRBの利上げ幅縮小観測とそれを映した米国長期金利の低下がある。12月13・14日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、0.5%の利上げが実施される可能性が高いが、その先の政策姿勢については今後発表される経済指標次第であり、なお不確実だ。そのため、ドル円レートは現在の1ドル130円台半ば程度から、再び140円台に戻る可能性は考えられるところだ。しかしそれでも、10月の1ドル151円台が円安のピークとなった可能性は高いのではないか。

主要中央銀行の中で日本銀行がひとり金融緩和を維持することで、物価上昇を助長する悪い円安が進んでいるとの不満が、今春以降、国民、企業の間に高まっていった。しかし足元で円安の修正が進む中、日本銀行の政策姿勢に対する批判も一時期と比べて和らいできている。

日本銀行は、為替市場への影響に配慮して金融政策を修正する考えはないと明言してきたが、それでも国民などからの批判が高まれば、金融政策を一定程度修正するような譲歩の姿勢を見せざるを得なくなる可能性は残されていた。

しかし、輸入物価高を促す円安傾向が一巡し、また原油価格も下落傾向を強める中、消費者物価(除く生鮮食品)は、今年12月に前年同月比で+4.0%程度に達した後、低下傾向に転じる可能性が見込まれる。さらに、来年に入れば、既にみたように海外要因によって経済情勢は厳しさを増すと考えられる。

そうした中、日本銀行に金融緩和姿勢の修正を求める外部からの圧力は弱まっていくだろう。日本銀行は政策修正をせずに、何とか逃げ切ることができる状況になったのではないか。

総裁交代後も政策変更はしばらくないか

来年4月に総裁が交代することが、日本銀行の金融政策の大きな転換点となったことが、後になって明らかになるだろう。10年にわたって続けられてきた異例の金融緩和の正常化が、いずれ実施されるとみられる。誰が新総裁となっても、日本銀行の事務方が主導する形で正常化の流れが形作られることが見込まれる。

しかしながら、来年の段階では、マイナス金利解除など金融政策の本格的な正常化策は実施されないだろう。景気減速と円高傾向がそれを妨げると考えられる。日本銀行は、マイナス金利解除など金融政策の正常化が、急速な円高を引き起こすことを強く警戒しているのである。来年前半にもFRBの金融緩和期待が浮上する中、日本銀行が短期金利を引き上げるとの観測が広がれば、円高が急速に進み、株式市場や経済に打撃となってしまう恐れがある。

日本銀行がマイナス金利解除など金融政策の本格的な正常化策を実施するのは、FRBの金融緩和が一巡した後のことであり、それは2024年半ば以降から2025年となるのではないか。そこまでは、新総裁の下でも日本銀行は、金融市場における金融政策の正常化観測を強く打ち消し、前総裁の下での政策姿勢が変わらないことを、しばらくの間はことさら強調する可能性があるだろう。

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