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2023年の日本経済と金融政策を左右する米国経済

2022/12/27

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2022年末の日本経済は比較的安定

日本経済は、比較的良好な形で2022年を終えようとしている。ESPフォーキャスト調査(12月)によると、2022年10-12月期の実質GDPの予測機関の予測平均値は、前期比年率+3.5%と高い水準に達している。

新型コロナウイルスの感染リスクが低下し、政府による強い規制が取られなくなる中、個人消費は持ち直し傾向にある。さらに10月以降は、水際対策の緩和、全国旅行支援などの政策によって、旅行関連の個人支出が増加した(コラム「短観(12月調査)は海外景気が最大のリスクとなる来年の日本経済の姿を先取り:円安一巡で日銀への政策修正圧力は緩和へ」、2022年12月14日、「水際対策緩和後の外国人観光客は予想以上に増加:2023年インバウンド需要予測を3.5兆円に上方修正」、2022年12月27日)。また、海外での原油価格の低下や為替市場での円安の修正は、先行きの物価高騰に対する個人の警戒感を緩和させている。

他方で、来春の春闘では賃金上昇率は上振れることが見込まれる。このように、個人消費を取り巻く足元の環境、目先の見通しは比較的良好であり、この点から、来年の日本経済に明るい展望を持つ向きも少なくないだろう。

こうした比較的良好な経済情勢が続くようであれば、2023年4月に就任する日本銀行の新総裁の下で、政府と日本銀行の共同声明、物価目標の修正を経たうえで、マイナス金利解除などの正常化措置が2023年中にも実施される可能性が出てくる。その場合、日本の長短金利には明確な上昇傾向が生じるだろう。

マイナス金利解除、YCC撤廃など日本銀行の本格的な政策転換は2024年以降に

しかし、実際には2023年がこのような経済、金融情勢となる可能性は高くないだろう。2023年の日本経済を大きく左右するのは海外経済、特に米国経済であり、米国経済が顕著に減速すれば、日本経済の安定はたちまちに崩れてしまう。

さらに、米国経済の減速は、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測を浮上させることで米国長期国債利回りが一段と低下し、それが対ドルでの円高進行を促す。世界経済の悪化懸念も、リスク回避の円高傾向を生じさせるだろう。

こうしたもとでは、日本銀行はマイナス金利解除やイールドカーブ・コントロール(YCC)の修正あるいは撤廃を通じた長期国債利回りの一段の上昇容認、といった措置を行うことは難しくなる。FRBの利下げ観測が高まるなかで、日本銀行が逆の金融引き締め方向に動けば、それは急速な円高を生じさせ、株価の大幅下落なども通じて国内経済に大きな打撃となってしまうためだ。

新総裁の下での日本銀行は、物価目標の位置づけの修正など、政策姿勢の柔軟化を2023年中に進めることはあり得るとしても、マイナス金利解除などの具体的な正常化措置の実施は2024年半ば以降に先送りとなるだろう。そうなれば、12月20日に日本銀行が実施したYCC柔軟化措置以降、金融市場あるいは企業、家計の間にも燻る金利上昇懸念は、ひとまず落ち着くことになるのではないか(コラム「金融市場が警戒する日本銀行の次の一手と物価動向」、2022年12月23日)。

FRBは、今回は世界経済・金融市場を救わない

2022年は、世界第2の経済規模を誇る中国経済の不振が際立った。従来から続く不動産不況に、ゼロコロナ政策の影響、そして年末にはゼロコロナ政策の緩和をきっかけとする感染の大幅拡大によって、経済は混乱状態に陥っている。その中でも世界経済が同時不況に至っていないのは、そして日本経済が比較的安定を維持しているのは、米国経済が減速しつつもなお失速を免れてきたためである。

しかし、40年ぶりの物価高騰に対応して、40年ぶりの急速なペースで利上げが進められたことの影響は、これから本格的に表れると考えられる。経済の悪化を回避しつつ、物価上昇圧力を低下させることができるソフトランディング(軟着陸)の実現の蓋然性は低く、それはナローパスだろう。

FRBは、物価高を定着させないとの強い覚悟で政策運営に臨んでいる。そのため、今後景気減速の兆候が広がり、また物価上昇圧力が和らぐ兆候が見られ始めても、容易には金融緩和に転じないだろう。あるいは金融緩和に転じるとしても、そのペースはかなり緩やかとなりやすい。そうした中で、経済情勢の変化を反映して企業、家計、金融市場の中長期の予想物価上昇率が大きく下振れれば、景気に大きな影響を与える実質金利(名目金利-予想物価上昇率)の水準が大幅に上昇し、米国そして世界の景気情勢の悪化を一段と加速させてしまう恐れがあるだろう。

2008年のリーマンショック、2020年のコロナショックなど、世界経済が大幅に悪化しまた金融市場が大きく混乱する局面では、FRBが急速な金融緩和を実施して、世界の経済・金融市場を救ってきた。しかし、歴史的な物価高騰を受けて、今回はFRBにそうした役割を期待することは難しい。それが、世界経済の大きなリスクとなっているのである。

2023年の世界経済や金融情勢は米国経済次第

可能性は高くないとみたいが、米国経済がこの先失速を免れるようであれば、FRBは2023年中に政策金利を高水準で維持することになり、2022年に世界に急速に広まった高金利環境は維持される。それは、ドルの高い水準を維持することになるだろう。高金利が維持されることは株式市場にはマイナスではあるが、経済が失速を免れるのであれば、2022年に金利上昇の逆風で調整色が強まった世界の株価は、2023年には上昇するのではないか。

しかし、米国経済が後退局面、特に実質金利の大幅上昇の影響で深刻な後退局面に陥るようであれば、世界経済は深刻な状況に陥るだろう。これはエネルギー、食料品の市況の下落を通じて、2022年に世界に広がった物価高騰への懸念を緩和するとともに、各国で金融緩和期待が生じて、2022年に世界に急速に広まった高金利環境は修正されていくと見込まれる。

他方、予想外の景気悪化は企業収益の見通しを悪化させ、世界の株価調整は2023年の前半にかけて続くことになるのではないか。日本では、米国を中心とする株価下落の影響に加えて、2023年には120円程度まで進むと予想される円高の逆風が高まることで、他国に比べてもより厳しい株価の調整が引き起こされることを覚悟しなければならないのではないか。

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