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「DX投資の経済性をどう考えるべきか」後編

~新時代の「イノベーションモデル」と「ビジネスモデル」の考え方~

2022/09/01

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1.ソフトウェアを活用したサービタイゼーション(サービス提供ビジネス)
~GAFAのビジネスモデルの本質と産業への応用~

前編では、システム・オブ・システムズの時代の典型的なイノベーションモデルとして「システムイノベーションモデル」をご紹介した。後編では、ビジネスモデルを議論したい。
ソフトウェアを活用したサービス提供ビジネスが典型的なビジネスモデルである。その典型はGAFAモデルである。ただし、なぜGAFAモデルが投資家から高く評価されるのかという点についてのコンセンサスは、日本では必ずしも十分ではないように感じているが、いかがだろうか。

1)スマートフォンのインパクトをどう観るか

スマートフォンの受け止め方は日本だけ異なるようである。日本にはもともとiモードに代表される高度な携帯電話サービスが存在した。スマートフォンに移行する際、ユーザビリティは格段に向上したが、当初は機能的に新しいものが多数あったわけではなかった。このため、日本ではスマートフォンの影響は過小評価されたのかもしれない。多少ユーザビリティに優れた、使いやすいだけの携帯電話だと。
一方、スマートフォンという商品のすごさは日本国内だけを観察していても理解できない。スマートフォンのすごさは、新興国を含め世界中に数年で展開し、普及率も多くの国で75%以上ということだからだ。

2)GAFAのビジネスモデルの本質

スマートフォンを活用したGAFAのソフトウェアサービス事業は、次の3つの優位性を獲得している。

  • ①成長性:  

    これから高い確率で成長する新興国に対して既に参入できていること。新興国市場はいくら成長が期待できるといっても1人当たりGDPなどを考慮すると、先進国市場での製品を輸出して市場参入することは容易ではないにもかかわらず、である。

  • ②安定性:  

    スマートフォン上では、ターゲット広告、シェアリングエコノミー、ソーシャル広告、教育やファイナンスなどの(設備産業と比較すると)景気に左右されない非常に安定したサービス事業が提供できている。

  • ③収益性:  

    当該サービス事業は、コピーでき、限界費用がゼロに近いソフトウェアが主の投入資源である事業なので極めてROICが高いことである。

3)投資家からみたGAFAのビジネスモデルの価値

上記の①、②、③の3つの優位性がそろうと、将来の期待キャッシュフローから投資を考える投資家にとって極めて魅力的となる。収益性の高い事業で、かつ将来の安定的な成長が期待できるためである。例えば、先進国市場を中心とした製品販売事業と比較すると、売上規模と比較した企業価値は相対的に高く評価できるわけである。このため株式時価総額が巨大になっていくことは容易に理解できるだろう。
もちろん、ネットワーク効果を利用できるプラットフォーム型サービスであったことも大きく貢献した。しかし、2)で挙げた3つの優位性がGAFAのビジネスモデルが投資家から評価される直接の理由といってもよいだろう。

4)GAFAのビジネスモデルの“産業への応用”という発想

製造業でもGAFAと同様のビジネスモデルを展開できないかと考えたのが、ヨーロッパの製造業や、前編でも登場したドイツ工学アカデミー(AcaTech)である。
工場や設備機器などの各種センサーからの情報を集積し、ビッグデータやAIを利用して現場をモデル化したデジタルツインを構築する。デジタルツインを用いて「①工場やビルのエネルギ-マネジメント、②製造設備やエレベーターの運用・保守管理など製造拠点の高速展開や改善活動、③前述の①②の範囲を都市そのものまで展開し、リモートで各種設備の運用保守・管理・改善を行い続ける」という“長期契約でのソフトウェアを活用したサービス事業”を、GAFA同様、新興国で高速に展開するというアイデアだ。これが、インダストリ4.0が想定していたビジネスモデルである。

2.日本のDXに期待したい「システム・オブ・システムズの時代」への適応

1)「システム・オブ・システムズの時代」のイノベーションモデル「オープンなシステムアーキテクチャ」への移行

日本企業の「ITへの投資パフォーマンスが相対的に低い」と言われる背景には、受発注や計画情報共有などの企業間取引に関わる業務やデータが標準化されず、個々の取引先に固有のいわゆる“関係特殊性資産への投資”を余儀なくされることが挙げられる。
また、日本の企業グループでは、グループ内のすり合わせで製品開発を行いグループ内のキャッシュフローの範囲で投資を行う、いわゆる「自前主義モデル」がまだ多数派だと考えられる。長期的に考えると、リスクマネーが動員できる「システムイノベーションモデル」が有利なのは、確率モデルを扱うファイナンスの視点からみると当然のように思える。
日本政府も、ソサエティ5.0推進のため、全産業におけるオープンなシステムアーキテクチャ設計について、法制度を含め本格的に推進することを決め、DADC(デジタルアーキテクチャデザインセンター)(注)を新設した。産業ドメイン別にオープンなシステムアーキテクチャを明確に提示した「システムイノベーションモデル」が採用されたら、日本のソサエティ5.0推進に極めて効果的であろう。巨大な社会システムは、巨大ITゼネコンの多重下請け構造では構築できないし、ましてや持続的な運用・持続的なイノベーションは難しいからである。当該領域でのDADCの活動に大いに期待したい。

2)「システム・オブ・システムズの時代」のビジネスモデルである「サービタイゼーション」への移行

また、日本が誇る製造業には、ぜひ「ソフトウェアを活用したサービス事業(サービタイゼーション)」を事業ポートフォリオに組み込んでほしい。これは単なるサブスクリプションのことではない。例えば、ソフトウェアを有効に活用して、自社製品や自社設備だけではなく顧客の全設備の運用・保守・改善業務をサービス型で提供する知的価値の高いビジネスモデル(注)である。わかりやすく言えば、顧客の業務をどれだけサービスできるかがポイントである。

コラムでも取り上げたが、最近では航空機産業のSkywiseや自動車産業のカテナ-Xなど、製品の運用・保守フェーズを含めた巨大なデータ連携基盤が実現してきている。一部では、関連したソフトウェアによるサービタイゼーションがサービス提供され始めた。これらの「ソフトウェアを活用した製造業のサービタイゼーション」が、インダストリ4.0が目標としていたビジネスモデルである。

もちろん市場は成長力のあるグローバル市場である。そうすることではじめて新興国の成長を自社の成長に取り込み、株主価値を拡大することが可能となるのである。

執筆者情報

  • 藤野 直明

    産業ITイノベーション事業本部

    主席研究員

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